弁護士に聞いた!「児童ポルノ禁止法」で「アニメの入浴シーン」はどうなる?
マイナビウーマン

いわゆる「児童ポルノ禁止法」の改正案が継続審議となりました。いろいろな問題点があちこちで指摘されていますが、この改正案についてどう考えるべきなのでしょうか。アディーレ法律事務所の刈谷龍太弁護士にお話を伺いました。

【実際に法律に存在する「エッチの禁止事項」】


いわゆる「児童ポルノ禁止法」は正確には「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」というものです。

改正案の前に、まず施行されている現行法についてです。

――いわゆる「児童ポルノ禁止法」についてですが、現行法の中身はどのようなものでしょうか。

刈谷弁護士 未成年者、児童を、性的搾取や性的虐待などから守ることを目的とした法律です。

(目的)
児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ(中略)……児童の権利を擁護することを目的とする。

と書かれています。
罰則規定が盛り込まれているのが特徴ですね。

――具体的に何が処罰対象になるのですか?

刈谷弁護士 処罰対象と罰則は以下のようになっています。

■処罰対象と罰則規定

・児童買春
……5年以下の懲役又は300万円以下の罰金

・児童買春の周旋、周旋目的の勧誘
……5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金
……業として行うと7年以下の懲役及び1,000万円以下の罰金

・児童ポルノ提供、提供目的の製造、所持、運搬等
……3年以下の懲役又は300万円以下の罰金

・児童ポルノ製造
……3年以下の懲役又は300万円以下の罰金

・児童ポルノの不特定もしくは多数への提供、公然陳列、及びそれを目的とした製造、所持、運搬等
……5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金
……外国への輸入、外国からの輸出をした日本人も処罰対象

・児童買春目的、児童ポルノ製造目的での人身売買
……1年以上10年以下の懲役

・外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものを、その居住国外に移送した日本国民
……2年以上の有期懲役

――規定の問題点は何でしょうか?

刈谷弁護士 買春や人身売買はイメージしやすいですし、それが問題というのも分かりやすいです。しかし、この「児童ポルノ」が何を指すのかがまず問題です。法の文面では、以下のようになっています。

■児童ポルノの定義(第二条三項)

この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

刈谷弁護士 この定義部分で、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という主観的要件があいまいです。何をもって性的興奮を覚えるのかは、人によって違いますからね。

また三号の「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態……」という表現では、規制が広範に及びます。「衣服の全部又は一部」というのは、どこまでが許容されるのでしょうか。分からないですよね。

――例えば『ドラえもん』にはしずかちゃんの入浴シーンがたまに出てきますが、あれは児童ポルノになるのでしょうか?

刈谷弁護士 ドラえもんのような良質な漫画を制限するために法律を作ったわけではないでしょうし、また実際にドラえもんがこの法律によって取り締まられるとは思いません。

しかし、解釈の余地がある定義や広範な規制は、捜査権の濫用を誘発しかねません。犯罪処罰規定には「罪刑法定主義」「明確性の原則」が妥当するため、立法段階で処罰範囲の明確化を図るべきです。

*……「罪刑法定主義」とは近代自由主義刑法の基本原則です。「どういう行為が犯罪なのか、またその行為に対してどんな刑罰が科せられるかは、規定の法律によってのみ定められる」という意味です。この原則がないと「法律はないけど捕まえて罰しちゃおう」などといった、刑罰権の行使が起こってしまいます。

*……「明確性の原則」とは、「刑罰権」を行使するには「一般的な人から見て、それを規定した法律の内容が明確になっていなければならない」という原則です。この原則が守られなければ、「きちんと決まっていないけど、これも罰しちゃおう」といったことが行われてしまいます。

――では、現行の児童ポルノ禁止法にも問題があるということでしょうか。

刈谷弁護士 突き詰めて言えば、これは「表現の自由」とガチンコで対決する可能性があるものだということですね。

――では改正案についてです。これは継続審議となって、法律として施行されることにはなりませんでしたが、改正案の中身はどんなものでしょうか。

刈谷弁護士 改正案の最も大きなポイントは「単純所持」、つまり持っているだけでも法に触れるという点です。改正ポイントは以下のようになります。

■提出された改正案の変更ポイント

・単純所持の禁止
・性的好奇心を満たすための所持の禁止
・インターネット事業の協力義務を努力義務として明文化
・その他、検討案として児童ポルノに類する漫画等と児童の権利を侵害する行為との関連性の調査研究

刈谷弁護士 このうち、単純所持に関して罰則規定はありません。ただし、「性的好奇心を満たすための所持の禁止」に関しては、「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」という罰則規定があります。

また、「インターネット事業の協力義務を努力義務として明文化」したのは、「インターネットによる被害拡大を抑えられない」という認識からですね。

――この改正案を弁護士さんはどのように見ますか?

刈谷弁護士 結果として継続審議になりましたが、修正を行わないでこのまま承認されるとはとても思えません。日弁連も明確に反対しています。

――問題点はどこだと思われますか?

刈谷弁護士 まず、現在の児童ポルノ禁止法に問題があることは否めません。定義の問題しかり、現実に実効性がないということは大きな問題でしょう。

他方で、単純所持まで規制することは、定義の不明確さと相まって本来意図していた規制以上の規制がなされる恐れがあります。そうした配慮から、結局「性的好奇心を満たすための所持」に限って厳罰の対象としたのでしょう。

――なるほど。「性的好奇心を満たすための所持」という文面で処罰の限定を図っているのですね。

刈谷弁護士 しかしながら、限定手法として「性的好奇心を満たす」という主観的要件による限定は、客観面からの限定がなされない点で、単純所持者を逮捕、「取り調べをして判断する」という枠組みになる側面を否定することができません。その意味で、このような限定に処罰範囲の限定という効果があるのか疑問です。

――取りあえず取り調べをするといった流れになる可能性があるわけですね。

刈谷弁護士 その可能性は否定できません。また、インターネット事業者への協力義務を努力目標とした点については、「プロバイダー責任制限法」のように「事業者の免責規定」が設けられていない点で問題です。

他方で、努力目標ではなく義務化してしまうと、表現の自由への過度な規制にわたるおそれがあります。実際の運用次第ということになるでしょうが、(日弁連の意見にもあるように)ガイドラインによる運営の明確化等の措置が図られるべきでしょう。

――このままでは何が法律に触れるのか分からないということですね。

刈谷弁護士 明確なガイドラインを作成すべきです。「児童ポルノに類する漫画等」については、いまだに検討対象にすぎないものの、児童の権利を守るという本来の趣旨を逸脱し、単にいかがわしいものを取り締まる方向にベクトルが向いているのではないかという危惧があります。

――なるほど。

刈谷弁護士 この改正案をどうこうする前にまだやることがあると思いますね。例えば、日本は欧米と違って、区分陳列が徹底していません。

ネットを通じてアクセスできる状況であるがゆえに、漫画等についても規制の対象とすべきだという意見もありますが、そうであるならば、区分陳列をまず徹底させる。有害図書とそうでないものの区別をはっきりさせる等、別の手段によって目的は十分達成できるのではないかと思います。


いかがだったでしょうか。児童ポルノ禁止法についてはまだまだ議論が続いています。皆さんはこの法律についてどう思いますか?


(高橋モータース@dcp)

⇒アディーレ法律事務所
http://www.adire-bengo.jp/

⇒児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

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