『ギャートルズ』(園山俊二/パルコ)
ダ・ヴィンチニュース

 『ギャートルズ』(園山俊二/パルコ)のマンモスの肉に『ど根性ガエル』(吉沢やすみ/集英社)の寿司、『ワンピース』(尾田栄一郎/集英社)のチャーハン、『おとりよせ王子飯田好実』(高瀬志帆/徳間書店)の卵かけごはん……。マンガには、見ていると自分も食べたくなってしまうような料理がたくさん登場する。それは、必ずしも珍しいものではない。卵かけごはんや唐揚げといったごくありふれたものでも、なんだかものすごくおいしそうに見えてしまうのだ。それは、どうしてなのだろうか? そこで、200以上のマンガ作品から厳選したメニューが紹介されているという『マンガの食卓』から、なぜマンガの料理はおいしそうに見えるのかを紹介してみよう。

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 まず、マンガに出てくる骨付きの肉。いわゆる“マンガ肉”を定着させた『ギャートルズ』では、父ちゃんが思い切り肉塊を食いちぎったり、ゴンがマンモス肉の中を泳ぐように食べ進めていくシーンがたびたび登場する。これを見て、「自分も食べたい!」と思った人はたくさんいただろうし、実際「ギャートルズ肉」や「マンモの輪切り肉」という名前で商品を開発してしまった食品メーカーもあった。それほどまでに人々を惹きつけたのは、肉を食べるという行為が「人間のプリミティブな欲求」を刺激するから。そして、彼らの食いっぷりは「まさにその欲求を具現化したようなもの」なのだ。得体の知れない肉だったこともあって味の想像もつかないし、真似できないことだったからこそ、みんなの憧れが強くなっていったのだろう。

 また、『ど根性ガエル』の寿司のように、作者の愛が詰まっているからこそおいしく見えるものも。『ど根性ガエル』には寿司職人の梅さんが登場するのだが、ここで描かれる寿司の“特別感”は尋常じゃない。それは、作者が寿司を大好きだったから。作品の中で、ひろしが風邪をひいた梅さんの代わりに出前をするエピソードがあるのだが、その届け先で待っているのはなんと作者自身の自画像キャラ。「すし~すっすっすしすしすし~っ」「三年ぶりのご対面ーっ!!」とはしゃぎまくり「今日は記念すべき日だなァ~」と感激の涙を流すのだ。実際、梅さんの働く「宝すし」にはモデルになったお店があるのだが、それは当時、作者の仕事場の向かいにあったもの。よく出前を取っていたというから、やはりかなりの寿司好きだったのだろう。その思い入れの強さが、『ど根性ガエル』の寿司をおいしく見せていたのだ。

 そして、『ワンピース』の料理がおいしそうに見えるのにも理由がある。それは、「食べること」の大切さを知っているから。彼らはどんな状況でも食事をするし、どんなものでもうまいと言って食べる。それに、食材を調達する場面もきちんと描かれているので、あの食材はこんな料理になったのかと想像力も掻き立てられる。でも、1番大きいのは、ルフィたちが仲間と一緒に食事をしているからかもしれない。彼らにとって「同じ食卓を囲むことが仲間の証」にもなっている。だからこそ、自分たちも彼らと一緒に旅に出たい。仲間になりたいという欲求が、より一層あの食事をおいしそうにさせるのだ。

 他にも、『オバケのQ太郎』(藤子・F・不二雄/小学館)の小池さんが好きなラーメンや『孤独のグルメ』(久住昌之:著、谷口 ジロー:作画/扶桑社)の焼き肉、『海街diary』(吉田秋生/小学館)のちくわカレーにしらすトーストなど、キャラの大好物や印象的なメニューがたくさん紹介されている。マンガの料理は、ただ「きれいな絵だから」「リアルに描き込まれているから」おいしそうに見えるわけではない。作者の思いや登場人物のキャラ、登場するシーンなど、いろんな条件が重なって、読者をこれほどまでに惹きつけるのだろう。

文=小里樹
(ダ・ヴィンチ電子ナビより)

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