『夜の経済学』(飯田泰之、荻上チキ/扶桑社)
ダ・ヴィンチニュース

 今を遡ること約2000年、紀元前の古代ローマ帝国・初代皇帝アウグストゥスは、ある法律を制定した。

関連情報を含む記事はこちら

 その名も──
 姦通処罰法。不貞や同性愛、売春など、エスカレートの極みにあった性的状況を憂慮してのことだった(もっとも本人も好き者だったそうだが)。

 古代ローマには「浴場」という名のもと、売春専門として欲情を処理する売春目的の場もあったそうで、日本の風俗とどこか似たものを感じる。

 悠久の歴史を経て受け継がれた(?)風俗業界を手掛かりに、見えそで見えない日本の夜を、経済的視点で分析しちゃおうというのが本書『夜の経済学』(飯田泰之、荻上チキ/扶桑社)だ。

 いきなりだが、日本にはフーゾク嬢は一体何人いるのか?

 ──約30万人。

 日本の人口が1億2760万人(2012年)とすると、なんか少ない気がする。しかし、本当に「少ない」のだろうか?

 本書では「風俗」と「フーゾク」を明確に使い分けている。

 「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)」によって規制される産業には、ダンスホールや深夜の飲食店、パチンコやゲームセンターまで含まれてしまうからだ。さらに、風営法第四章第一節「性風俗関連特殊営業等の規制」が指し示す「アダルトサイト」や「テレクラ」「ツーショットダイヤル」を除外する。

 そうして本書が、「射精を伴うこと」を基準に定義した「フーゾク」は、次の6つ。

 「ソープランド」「ピンサロ」「店舗型ヘルス・エステ」「デリバリーヘルス(デリヘル)」「受付型ホテルヘルス(ホテヘル)」……形態やサービスによって様々に分かれているが、そこで働く女性を「フーゾク嬢」と呼ぶ

 そんな「フーゾク」定義のもとに、著者の評論家・荻上チキ氏と経済学者・飯田泰之氏は、各都道府県警公安委員会への届出数や風俗マガジン、ウェブサイトなどの情報を比べ合わせて、おおよその実数を導き出す。その結果──

 推計可動店舗数=約1万店舗
 1店舗あたりの推計在籍人数=29人前後
 すなわち日本のフーゾク嬢の数=1万店×約30人=約30万人。
 (本書データより)

 というわけで、日本人1億2670万人のうち、約420人に1人がフーゾク嬢……いやいや、それは早計というもの。「フーゾク嬢」は基本的には「女性」であり、当然、成人女性である。毎年デビューするフーゾク嬢と引退するフーゾク嬢を差し引きした数には大きな変動はなく、概ね30万人が常時就労していると仮定すると、就労期間(年数)分の女性の数に対して、何人のフーゾク嬢が存在するのかを計算することで、実際の割合が見えてくるはず。
フーゾク嬢の平均就労年数が8.8年。女性の1学年あたりの人数を元に計算すると……、

 平均就労年数=8.8年
 1学年あたりの女性人数=約70万人
 フーゾク嬢の数=30万人
 8.8年×70万人÷30万人=20.5333333
 (本書データより)

 
なんと──成人女性の20人に1人がフーゾク経験者という計算になるのだ。

 そんな30万人のフーゾク嬢が動かす市場規模もまた凄い。

 平均的フーゾク嬢の1日の仕事量=70分16000円×3~4本
 平均的な1日の稼ぎ=3.5万円
 平均月収=約49万円
 平均年収=約600万円
 30万人×600万円=1.8兆円

 店の取り分が50%だと仮定すると1.8兆円の倍──3.6兆円がフーゾクの市場規模となるのだ。東京都の平成25年度の一般会計予算が6.2兆強だと考えると、その約半分の規模のお金がフーゾク業界で渦巻いていることになる。

 日本人男性が約5000万人とすると、年間1人平均7.2万円をフーゾクに使っている計算となり、フーゾクに「行く人」を総数の20%とすると、平均36万円程度が費やされていることになる。

 数字が数字を呼び、興味は尽きないが、「フーゾク嬢30万人、市場規模3.6兆円」という数字を始め、荻上&飯田両氏は、「個人売春」の市場調査」「幸福な若者たち」「生活保護」「流言とデマ」など、経済の視点から弾き出された数字をもとに日本の社会を見つめ直して行く。

 ビジネスニュースでは決して知ることのできない「夜の経済学」を1冊にまとめた評論家と経済学者のコンビは、けれど本書を「絶対値ではない」と言う。

 『取材や調査に基づいた「より確からしい情報」をもとに、議論を積み重ねていくことの重要さを説いてきた(本文より)』2人は『「当てずっぽうな議論」を疑う作法こそが大事』であり、反論や意見を受け『「さらにマシな結論」に塗り替えられることを望んでいる』と、荻上氏はあとがきに記している。

 「経済学」のネタ本としてだけではなく、思考の経緯をたどって「失敗学」としても読める本書は二度美味しい。とてもお得──経済的な一冊である。


文=水陶マコト

全文を表示