画像提供/HITOTOWA Inc.
SUUMOジャーナル

最近、新築マンションで、居住者間や地域住民のコミュニティを形成する仕掛けを積極的に取り入れる事例が増えている。こうした仕掛けづくりを行っているHITOTOWA Inc.が、3周年を記念して「ネイバーフッドデザインの現在地」と題したトークイベントを開催した。いまなぜコミュニティが必要なのか、どんな取り組みをしているかを探ってみた。

ネイバーフッドデザイン=ご近所づきあいをデザインすること

HITOTOWA Inc.の荒昌史さんは、「ネイバーフッドデザイン」を提案している。近くで暮らしている人々の人間関係をデザインするもので、同じマンションや地域の人々との信頼関係を築き、暮らしを豊かにすることを目的に、その支援活動に取り組んでいる。

「ネイバーフッドデザイン」を提案する理由は何か? 震災の際にご近所に助けられた事例が多いことから分かるように、徒歩圏内の地域のコミュニティは、防災・減災や防犯、エコライフ、無縁化の解消などの地域の課題解決に力を発揮するからだ。これまでのマンションは、プライバシーを担保することが重視され、コミュニティの形成が軽視されてきたことへの反省もある。

また、荒さんによると、コミュニティには血縁、地縁、学縁(学校のつながり)、社縁(会社のつながり)と、価値観縁の5つがあるという。同じ価値観を共有する仲間は、SNSですぐにつながる一方で移ろいやすく、物理的距離があるので有事の際の助けとしては弱いものがある。そこで、地縁×(地域社会をよくしようとする)価値観縁を、ご近所づきあいをデザインするうえでの基本とするのがよいという。

ただし、コミュニティの濃さは人それぞれに好みがあるので、「しがらみ」にならない適度なつながりを保つことが大切だ、とも荒さんは助言する。

一方、建物を共有するマンションは、コミュニティの形成がしやすく、管理組合の活動が円滑化するなど管理の質を高めるというメリットも生まれる。マンションコミュニティを中心に、趣味や学びといった楽しい暮らしはもちろん、安全・安心な暮らしができる地域課題の解決に展開していく重要性は高く、仕掛けづくりに力を入れるべきだというのだ。

マンションコミュニティに取り組んだ事例の数々

実際に、マンションコミュニティのための仕掛けづくりに取り組んでいる事例がある。12月3日に開催されたトークイベント「ネイバーフッドデザインの現在地」では、こうした先進事例に携わるゲストスピーカーが登壇した。

京阪電鉄不動産の永井健介さんは、「分譲コンパクトマンション”A‑standard”について」をプレゼン。永井さんによると、渋谷桜丘と本郷三丁目にコンパクトマンションを分譲するにあたって、見学したコンパクトマンションは「すべて同じようなエントランスだった」と指摘。つまり、高級感を演出する装飾的な共用部や、セキュリティを強化した閉鎖的なつくりが目立っていたということ。そこで、住む人たちを中心にした永く愛されるマンションをつくろうと思い、HITOTOWAと組んでネイバーフッドデザインを仕掛けたという。

「A‑standard」では、住人同士が交流できる場を用意し、ゲームやワークショップを行ったり、地元の情報通に参加してもらえるネイバーズ・イベントを企画・実践したりして、「グッド・ネイバーズ」になるきっかけづくりをしている。

次に、野村不動産の曽田朋恵さんが、「森のシティ街づくり協議会での取り組みについて」をプレゼン。「ふなばし森のシティ」は、総開発面積約17.6haの敷地に、分譲マンション1497戸(1街区~5街区)、戸建住宅42戸の住宅を整備し、商業施設、医療施設、大型公園、子育て施設が一体となった街づくりを行うプロジェクト。シティ内の企業(団体会員)と住宅の住民(個人会員)で街づくり協議会(タウンミーティング)を結成し、コミュニティを形成する活動をしていく。同社は3年間、この事業をサポートしていく。

企業が自治会に参加する例はまれなことに加え、住宅購入者が会員になることを強制加入ではなく任意加入にしていることもあり、内覧会で個々に加入を促すなどの基盤づくりが大変だったという。現在、マンションの1街区~4街区までで90%とかなり高い加入率になっている。今後は、夏祭りや防災、緑化などのワーキンググループを通じて、さまざまな取り組みを行っていく予定だ。

「集合住宅の暮らしを変えるサステナブル・コミュニティ」をプレゼンしたのは、三井不動産レジデンシャルの川路武さん。同社は管理会社と共に、2011年7月に「サステナブル・コミュニティ研究会」を発足させた。入居者同士はもちろん周辺住民も楽しく、安心して暮らせる持続可能な地域社会(サステナブル・コミュニティ)のあり方を有識者や各種外部団体と共同で研究したもの。その成果として「サステナブル・コミュニティ指標」をまとめ、居住者同士が出会う機会の創出として、新築竣工時の入居挨拶会(グリーティング)を実施するなどしている。

ほかにも、防災ツアーなどのさまざまなコミュニティ支援プログラムを提供している。こうしたプログラムへの参加率はそれぞれで違い、必ずしもすべてで高いわけではないが、参加者の満足度はかなり高いという。研究成果による知見は、今後も社会に発信していく予定だ。

最後に、「住宅管理会社におけるマンションコミュニティづくり」について、大和ライフネクストの千谷卓朗さんがプレゼン。コミュニティが防災や高齢化など広範囲の課題に影響すると考え、管理組合の理事などにアンケートするなどした結果、きっかけとサポートがあればコミュニティを必要とする認識が高まると判断。マンションの規模別に「イベントサポートブック」などでメニューを提示し、具体的な費用や対応の仕方を提案する体制を整えているところだ。

ほかにも、管理への関心を高めてもらうための「いちにち管理員さん」体験ツアーを開催したり、防災マニュアル策定のためのゼミナールを開催するなどで、コミュニティの場づくりを進めている。

【画像1】パネルディスカッションの様子。左から、進行役の荒昌史さん、京阪電鉄不動産・永井健介さん、野村不動産・曽田朋恵さん、三井不動産レジデンシャル・川路武さん、大和ライフネクスト・千谷卓朗さん

ネイバーフッドデザインの現在地は、マンション入居前後の数回のイベントや防災マニュアルの提示といった段階(1.0)から、分譲会社・管理会社・住民がともに一貫したコンセプトによる持続したコミュニティ形成を目指す段階(2.0)に向かっているところではないか、と荒さんは見ている。

筆者は、川路さんが指摘した「子育てや介護、独居老人などの社会問題を反映しているのが住宅」という言葉が印象に残っている。居住者間のコミュニティによって、こうした問題解決への糸口を見出す意義は大きい。しかし、ゲストスピーカーの事例のように、あらかじめコミュニティのための場(ハード)と支援プログラム(ソフト)を組み込んで、住宅が供給されることが大切だ。

現状では、管理費にコミュニティ形成のための費用を計上しているケースは少ない。持続的なコミュニティ形成のためには、外部のサポートも必要だ。そのための費用を予算に組み入れることができれば、先進事例がスタンダードになっていくのではないか。

全文を表示