日本弁護士連合会(日弁連)は10月15日岡山市で人権擁護大会を開き、会場(岡山市民会館)に参加した弁護士の満場一致で「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」を採択した。会場の出席者数は337人(15日13時15分時点)。

決議は、精神障害のある人を対象とする強制入院制度を廃止すること、入院している人の退院・処遇改善請求の権利を保障するために、無償で弁護士を選任し、援助を受けられるようにすることなどを提案した。

●「尊厳と人生を奪われた」「『退院させない』と脅し文句」

前日の14日に開催されたシンポジウムでは、精神科病院への入院を経験した人たちの「人としての尊厳と人生を奪われた」「どんなに良くなっても自分の意思で退院できない。そのため、スタッフともめると『退院させない』と脅し文句を言われる」などの声が複数紹介され、強制入院の問題点も指摘された。

強制入院となった人に対して弁護士ができることの1つとして、退院や処遇改善請求の代理人になることがある。

髙橋智美弁護士(札幌弁護⼠会)によると、全国52会の弁護士会のうち、25会では、強制入院になっている人の退院や処遇改善請求についての相談を受ける「精神保健当番制度」などがあるという(2019年8月時点)。

一方、こうした制度がない弁護士会も22会(このほか「準備中」が5会)あるため、髙橋弁護士は「困っている患者が制度がない弁護士会に相談した場合は『対応できない』という返事になっているのではないか」と懸念を示した。

「刑事事件とのアンバランスさを感じる。身体の自由を奪われるという点では同じで、期間の定めがない点でも深刻な問題」(髙橋弁護士)

1991年「国連原則」18の1項では、患者の弁護人選任権や、資力がない患者が無償で弁護人を利用できる旨が定められているが、日本にはこのような制度はない。

髙橋弁護士は「日本の精神障害者は約400万人ともいわれており、強制入院はけして他人事ではない。弁護士も役割を果たすときではないか」と呼びかけていた。

●日弁連「精神保健当番制度」各単位会に呼びかけ

大会では、決議が採択される前に、出席した弁護士からの質疑応答や意見表明の時間があった。ある弁護士からは、精神保健当番制度について「マンパワーが不足している弁護士会もあるが、バックアップしてもらえるのか」との質問があった。

髙橋弁護士は、退院請求などの手続きについては「負担は重くない」とし、「将来的には、強制入院させられている人全員に弁護士がつくことが望ましいと思うが、現時点では希望している人の対応のみをおこなっている。地方の単位会では、たしかに厳しいという声は聞くが、たとえば、九州ではすべての単位会に当番制度がある。(依頼する人の数や負担が大きいために)対応できないということにはならないと思う」と説明した。

日弁連側は「当番制度の実施は、各単位会に呼びかけている。引き続き、弁護士への広報などに努める」と回答した。

意見表明の時間には、弁護士から続々と「賛成する」との意見があがった。その中には「困難な案件もあると思うし、大変なこともある。しかし、刑事当番弁護士制度も大会で決議され、被疑者国選までつながってきた。日弁連は節目で決議をして、その後にマンパワーを使ってきた」「さまざまな工夫で可能。小規模の単位会でも制度と実績を積み上げている」など、マンパワー不足であっても対応はできるとする声が複数あった。

また、「賛成」の立場から、精神科医や病院から反対の声があることに触れ、「イタリアで『バザーリア法』が制定された際も、医師や病院からの猛反対があり、精神科病院の廃止までに20年かかっている。この抵抗をどう打ち破るかも課題」との意見もあがった。

●採択された宣言・決議は5つ

このほかに採択された宣言・決議は以下のとおり。

・「超高齢社会において全ての消費者が安心して安全に生活できる社会の実現を推進する決議」

・「地方自治の充実により地域を再生し、誰もが安心して暮らせる社会の実現を求める決議」

・「弁護士の使命に基づき、被災者の命と尊厳を守り抜く宣言 ~東日本大震災から10年を経て~」

・「気候危機を回避して持続可能な社会の実現を目指す宣言」

なお、大会は新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、入場が制限され、オンラインでも動画配信された。次期大会は、2022年に北海道(旭川管内)で開催される予定。

日弁連「精神障害のある人の尊厳の確立を求める決議」採択、強制入院の廃止目指す