値段ごとに分けられた皿に盛られた寿司が、レーンの上に乗って店内をぐるりと巡る回転寿司店。その始まりは、1958年オープンした元禄産業の「廻る元禄寿司1号店」に設置された“コンベア旋回式食事台”だという。全国に回転寿司が普及して以来、寿司がより身近な存在となっているが、回転寿司を楽しむ人が多い分だけ不遜な客も少なくない。

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イチャイチャしながら食べた皿をレーンに戻すカップル

 三嶋菜々さん(仮名・26歳)が働いている回転寿司店は、首都圏に数店舗展開している小規模チェーン店。食材にこだわり、二貫130円の皿から一貫で700円以上するネタもあるなど、比較的価格帯が高い回転寿司店だ。

 さまざまな客と接したなかでも彼女が本当にやめてほしいと語ったのが「レーンの悪用」だ。

「40代前後の女性と20代前半男性のカップル客でした。店内の一番奥にあるボックス席に座ってイチャイチャしながら食べていたので、かなり目立っていました。ちょっと迷惑だな、と思ってふたりの様子を見ていると、寿司を食べた皿や、飲み終えたビールジョッキをレーンに戻しはじめたんです」

 彼らが座っていた席はキッチンに近く、レーンに皿を流すと店内を経由せずにそのままキッチンの中に入っていく位置にあった。驚いた三嶋さんはすぐさまキッチンに入り、客が流した皿とジョッキをキャッチして、ふたりのテーブルに戻したという。

「お皿を戻しながら『食べたお皿はレーンに流さないでください』とお伝えしましたが、完全無視。その後も、食事が終わるまでずーっと皿をキッチンに戻しつづけるので、私が皿をキャッチする係になってしまいました。土曜の夜で一番忙しい時間帯にそれをやられて、本当に早く帰ってほしかったです……」

 回転寿司のレーンは皿を下げるためにあるのではない、と三嶋さんは肩を落とした。

皿を返して「おい、これはだめだ」

 三嶋さんが勤務する店には常連客も多く、毎回お土産の寿司を頼む客や、必ず茶碗蒸しを頼む客など、常連は顔を覚えて早めに対応する必要があるという。

「常連さんのなかには横柄な態度を取る人もいます。回転寿司と言いつつもレーンにお寿司はあまり回っていなくて、中にいる職人さんにオーダーする人が多いです。その日は『鱧』が入荷してオススメのネタになっていたのでその男性も『鱧』の皿を注文していました。すると、一貫食べた途端『おい、これはだめだ』と言って、皿ごと職人さんに返却したんです」

 何がダメなのかわからず、あっけにとられた職人はそのまま皿を受け取ってしまったという。

「もし、鮮度の面で変な味がしたなら問題ですが、男性はその後も何も言わず黙々とお寿司を食べて帰っていきました。鱧の皿は会計には含まれていないです。多分、味が気に入らなくて皿を返しただけだと思いますが、それを許したらみんなやりますよね。職人さんも予想外の行動に、ついお皿を返すのを忘れたみたいです」

お代を投げつけ「この中トロはおいしくない!」

 たとえ丁寧な接客を心がけていても、難癖をつけるクレーマーは現れる。その客は一通り食事をしてレジで会計をする際に、突然激昂したという。

「いきなり『ここの中トロはおいしくない!』と言いながら、レジに立っていた私にお金を投げてきたんです。そのあとも『本当はお金も払いたくない!』と声を荒げていたので、店長がすぐに出てきました。中トロの味について謝るのか……? と思っていたら『うちの中トロはこれなんです』と言って、ひと言も謝らずにクレーム客を帰していたので驚きました」

 たしかに、ネタの味はあくまで主観なので店側も謝りようがない。聞けば、三嶋さんの店舗では、客のクレームに対して強気に対応をするケースが多いという。

「俺をバカにしてるのか!」「最低の店だ! 土下座しろ!」

「70代くらいの男性客が、長く待たされて通された席が気に食わなかったのか、対応していた女の子スタッフに『俺をバカにしてるのか!』『最低の店だ! 土下座しろ!』と、怒鳴り散らしたんです。

 店も混んでるし、先方は怒り狂ってるしで、店内は騒然。声を聞きつけて出てきた店長が『うちのスタッフには、お客さまに失礼なことをするような人間はいません。お帰りいただいて結構です』と突っぱねたんです。その瞬間、店内に安堵感のようなものが広がったのを覚えています」

 スタッフにも「謝らなくていい」と伝え、ひと言も謝らずにクレーム客を追い返すことに成功。もちろん、店側に明らかなミスがあれば謝罪するものの、難癖に近いクレームには折れずに対応してくれる、と三嶋さん。

クレームを受けて、何度か『辞めたい』と感じたこともありますが、今のところ退職するつもりはありません。お店側がスタッフを守ってくれるので、飲食店のなかでも働きやすいお店だと思います。それに、コロナ禍で営業時間が短縮されて大変な時期でもうちの味が好きで来てくれる人もいるので、このときばかりは常連さんのありがたさを実感しました」

 常連の態度や上司のクレーム対応は、スタッフのモチベーションにもつながるようだ。

かっぱ寿司「全皿半額」キャンペーンで

 9月26日回転寿司チェーンの「かっぱ寿司」が、全店舗で「全皿半額」キャンペーンを実施した。その日は開店前から長蛇の列ができ、店の周辺は大渋滞、店舗によっては10時間以上“待ち”が出たケースもあり、かっぱ寿司はサイト上に「お詫び」を掲載。クレームも殺到し、新たに次回使える半額クーポン券を発行したところ、クーポン券がフリマアプリで転売されるなど、かなりカオスな状況に陥っている。“全皿半額”という謳い文句も影響しているが、日本人の寿司好きが招いた騒動とも言える。

 日本人の愛する寿司が気軽に楽しめる回転寿司。より快適に味わうためにも、スタッフへの感謝を忘れずに接していきたいものだ。

(清談社)

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