(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト

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 10月14日に岸田内閣は衆議院を解散した。総選挙10月19日に公示、31日に投開票となる。既に主要6政党は、総選挙の公約や重要政策、政策提言を公表済だ。

 2021年衆院選公約に見られる第1の特徴は、多くの党でコロナ対策の掲載順が1位となった点だ。現在進行形で直面する国難のため、当然といえば当然である。第2の特徴は、与野党ともコロナ対策を含め経済政策が上位を占める点だ。

 前回2017年衆院選の公約における掲載上位は、北朝鮮対応や安保法制、国会改革、消費増税凍結、原発ゼロなど与野党でばらけたが、今回は経済政策に関心が集中している。かつ、与野党とも給付金など家計を支援する政策メニューが目立つ。

 以下、与野党の公約について、経済政策・財政に関連するテーマを中心に整理してみよう。

経済対策の規模を明記しなかった自民党の理由

【経済対策(コロナ対策)】
 まずは、コロナ対策を中心とする当面の経済対策について、与野党の公約をまとめる。

<経済対策規模>
 経済対策規模については、国民民主党が50兆円規模、立憲民主党が30兆円規模、日本共産党が20兆円超と記載している。国費投入がどの程度を占めるかなど、定義及び内訳については不明だが、恐らくいずれも減税や家計向け給付等の規模が多くを占めるとみられる。

 一方、自由民主党公明党日本維新の会は、経済対策規模を示していない。自由民主党の甘利幹事長は、10月3日のNHK番組で、具体的な規模を選挙前に示せば野党側がより大きな額を打ち出しかねないと言及、規模の競争を回避する姿勢を示していた。与党内での調整も必要なため、具体的な規模や中身の提示は総選挙後となりそうだ。

家計向け支出で大盤振る舞いの野党

感染症対策>
 感染症対策については、与野党で方向性に大きな差はない。ワクチン接種の推進、ワクチンと治療薬の開発・国内生産を促進、PCR検査を拡充、医療提供体制の拡充といった方向性で争点にはなりづらい。

<家計向け支援>
 家計向け支援については、野党が積極的な策を打ち出している。まず、野党4党ともに5%への消費税減税を打ち出している。日本維新の会は2年を目安としており、国民民主党立憲民主党も時限的措置としているが、日本共産党は恒久的措置に位置付けている。

 また、日本維新の会を除き、野党3党は家計向け給付金も打ち出している。国民民主党は一律10万円の給付金再支給、低所得者向けには20万円の給付策を示した。日本共産党は年収1000万円未満程度の中間層を対象に「暮らし応援給付金」を1人10万円支給、低所得者向けにはさらに手厚い支給を実施するとのことだ。立憲民主党は、給付金については低所得者向けの年額12万円に限るものの、年収1000万円程度までの中間層を対象に、所得税の実質免除を打ち出している。

 野党案はその規模の大きさから財源が問題になろう。各党の給付金は数兆円から十数兆円規模に上るほか、消費減税や所得減税を実施すればそれぞれ十兆円前後の税収減となる。日本共産党以外の野党3党は減税を時限的とする方針を示しているが、一度踏み切るとなかなかやめることができず、中長期にわたって歳入に穴が開くリスクが生じる。

 野党の大盤振る舞いに比べれば、与党は家計支援の対象をある程度絞る方針だ。自由民主党非正規雇用者、女性、子育て世帯、学生等への経済的支援を打ち出している。公明党は高校3年生までの子どもを対象に一律10万円相当を支援する「未来応援給付」を掲げている。2021年度補正予算では、子育て世帯への支援を中心に、コロナ禍で困っている家計向けに給付金が支給されよう。

<企業向け支援>
 企業向け支援については、日本維新の会を除き、与野党ともに各種給付金の支給を打ち出している。自由民主党は、公約では抽象的な表記となっているが、岸田首相のこれまでの発言を踏まえると、持続化給付金の再支給に前向きとみられる。

 日本共産党は持続化給付金や家賃支援給付金中小企業等に限って再支給するとのことだ。日本共産党は、他の経済政策でも全般に、中小企業を積極的に支援する一方、大企業に対する支援には消極的で、むしろ負担を求める姿勢が明確だ。

<経済活動再開>
 経済活動再開については、自由民主党公明党がともに、ワクチン接種証明の活用、事業再構築補助金の拡充による企業の事業転換支援、GoToキャンペーン再開を打ち出している。感染収束後、あるいはワクチン普及後の「新しい日常」を見据え、補正予算の段階で経済活動再開の支援策を盛り込む可能性があろう。

 与党に比べ、野党は経済活動再開の具体策に乏しいが、日本維新の会国民民主党ワクチン接種証明等の活用で行動制限を緩和する方針だ。

野党間で大きく分かれる雇用政策

【子育て支援・教育】
 与野党は分配策を強調しており、子育て支援及び教育無償化が政策の目玉だ。子育て支援については、与野党の多くが出産育児一時金の増額や、児童手当の拡充を打ち出している。日本維新の会を除く野党3党は、いずれも児童手当の支給対象を18歳まで引き上げる方針で、恐らく恒久的措置とみられる。

 一方、教育無償化については、日本維新の会が最も積極的で、家庭の経済状況にかかわらず教育の全過程について完全無償化する方針を打ち出している。日本維新の会は、他の分配策には消極的だが、教育無償化には結党以来積極的だ。「結果の平等」ではなく、「機会の平等」を重視しているためとみられる。

 与党は従来の教育無償化策を基本的には継続する方針とみられる。野党3党は、授業料減免や給付金拡充をさらに推進する方針を示している。

【雇用・賃金制度】
 分配の観点では雇用・賃金制度も重要だが、雇用制度では野党の方向性が両極端に分かれている。

 日本維新の会は雇用流動化を重視し、解雇ルールを明確化する方針を打ち出している。対して、日本共産党解雇規制を打ち出しており、真逆の方針だ。立憲民主党は、無期・直接・フルタイム雇用を基本原則としており、日本共産党の方針に近い。与党は人手不足分野への労働移動や教育訓練拡充を打ち出しており、どちらかといえば雇用流動化を重視していよう。

 賃金制度については、日本維新の会を除く野党3党が最低賃金引き上げの水準を明示している。与党は賃上げに積極的な企業に税制等を通じて支援する方針だ。日本維新の会は「同一労働同一賃金」を掲げているが、賃上げ促進というよりは、職務に応じた賃金制度を追求しているとみられる。

独自のポジションを取る日本維新の会

【税制】
 与野党の分配政策で大きく異なるのは、税制であろう。

 消費税については、既述の通り野党4党とも5%への消費税減税を打ち出している。日本維新の会は2年を目安としており、国民民主党立憲民主党も時限的措置としているが、日本共産党は恒久的措置に位置付けている。

 一方、所得税法人税については、日本維新の会が減税、立憲民主党日本共産党が増税を打ち出している。日本維新の会は、経済活動活性化の観点で、フローベースからストックベースへ課税体系を移行する方針だ。一方、立憲民主党日本共産党は、分配の財源として、富裕層や大企業へ負担を求める方針とみられる。
 
 与党は、公約では税制について政策減税以外特段言及していない。公約を見る限り、与党は野党と異なり税制を直ちに変更する意思はないようだ。ただ、岸田首相は金融所得課税見直しを持論としている。来年の参院選後に、所得税制見直し等の議論が始まる可能性があろう。

【まとめ】
 今回の衆院総選挙では、家計支援策や分配が主要テーマに浮上しており、給付金支給や消費減税など、野党が積極的な策を打ち出している。ただ、その際に問題になるのは財源だ。立憲民主党日本共産党は、大企業や富裕層への負担を求める方針で、家計には耳あたりがよいが、経済活動を阻害するリスクが大きいだろう。

 野党の中でも日本維新の会は独自のポジションであり、規制緩和などを通じて小さな政府を目指している。消費減税も、分配というよりは経済活動活性化を意図していよう。

 与党は、公約をみる限り、税制を大きく変更する意思は当面ないようだ。自由民主党は、分配重視を打ち出しつつも、危機管理投資や経済安全保障など、政府支出拡大を通じた経済成長を重視している。成長と分配のバランスを取る、もしくは成長の後で分配を目指す方針であろう。

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