猫に近づいたり、触ったりした際、くしゃみや鼻水、目のかゆみといったアレルギー症状が出ることがあります。いわゆる「猫アレルギー」と呼ばれるこれらの症状は、猫が好きな人にとっては何よりつらいものです。ネット上では「猫が大好きなのに、触るとくしゃみが止まらなくなってつらい」「猫と暮らすことを諦め切れないから、治せるなら治したい」といった切実な声が多くあります。

 猫アレルギーの発症原因、完治の可能性といったさまざまな疑問について、うるおい皮ふ科クリニック(千葉県松戸市)院長で皮膚科医・アレルギー専門医の豊田雅彦さんに聞きました。

発症頻度は「成人の5人に1人」

Q.そもそも、猫アレルギーとは何でしょうか。

豊田さん「猫アレルギーとはそのまま、正式病名で、猫のフケや毛、唾液、尿などに含まれる、アレルギーを誘発する物質(アレルゲン)による即時型アレルギーのことです。猫アレルギーを引き起こすアレルゲンの代表は『Feld1(フェルディワン)』というタンパク質です。花粉の10分の1ほどの大きさで、猫の体中(顔や首周りなど)に付着していますが、乾燥すると空気中を浮遊するのが特徴です。

浮遊したFeld1を人が吸い込んだり、触れたりすると、体の免疫系が有害物質と認識し、体から排除しようとして、アレルギー反応が起きます。全ての猫アレルギーは後天性です。主な症状はくしゃみ、鼻水、せき、目・皮膚のかゆみなどです。重篤な場合は息苦しくなったり、アナフィラキシーショックを起こしたりする危険性もあります。猫との直接接触や、猫のいる住環境での滞在が発症のきっかけとなることが多いです」

Q.猫アレルギーかどうかは、どのような検査で調べるのでしょうか。

豊田さん「猫のフケや毛に反応する『特異的IgE抗体』を持っているか否か、また、持っている場合の抗体値(アレルギーの強さ)を調べる血液検査が保険診療で認められています。その他、皮膚に血が出ない程度の傷をつけ、少量のアレルゲンを置いて様子を見る『プリックテスト』という方法もあります」

Q.猫アレルギー花粉症は似ている症状も多いですが、違いを判断するためのポイントはありますか。

豊田さん「花粉症の原因となるアレルゲンの花粉は飛散しているので、通常の日常生活で発症します。また、スギ、ヒノキなどによる花粉症は春、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギなどによる花粉症は秋と、季節性があるのも特徴です。一方で、猫アレルギーは、猫と接点がなければ発症することはなく、猫を飼っている場合のアレルギー症状は通年性です。また、猫を飼っている住環境(実家、友人宅など)にいると発症する偶発性もあります。なお、確定診断のためには血液検査が必須です」

Q.猫アレルギーを発症しやすい人の特徴とは。

豊田さん「猫アレルギーは成人の5人に1人の発症頻度とされており、性差や人種差、好発年齢はありません。猫アレルギー自体は遺伝しませんが、アレルゲンに対するIgE抗体を作りやすいアレルギー素因・体質には遺伝性があります。なお、『猫だけに限って、アレルギー反応が陽性』という例はまれで、ハウスダストによるアレルギーやダニアレルギーも併せ持つことがほとんどです」

Q.猫アレルギーの症状が出たとき、どのように対処すればよいですか。

豊田さん「自分でできる対処としては、市販の抗アレルギー剤を常備しておくことです。症状が出た場合は速やかに内服しましょう。強い症状(アナフィラキシー症状)の傾向がある場合は一刻を争うので、救急車を呼ぶのが望ましいです。医療機関では対症療法を行います。抗アレルギー剤の内服を基本とし、目の症状がある場合は抗アレルギーステロイドの点眼薬を、ぜんそく症状の場合は気管支拡張薬・ステロイドの吸入を、それぞれ、症状に合わせて行います」

Q.猫アレルギーには、完治を見据えた根本的な治療方法はあるのでしょうか。

豊田さん「今のところ、猫アレルギーを完治する方法はありません。他のアレルギーについては、スギ花粉やダニの抽出物を少しずつ経口投与して、アレルギー症状をなくす『減感作療法』というものがありますが、これも猫アレルギーに対しては行われていないのが現状です」

猫アレルギーの対策は?

Q.では、猫アレルギーの人は猫を飼ってはいけないのでしょうか。

豊田さん「原則的には飼わない方がよいでしょう。先述の通り、猫アレルギーの治療法はまだ完全には確立されていないため、猫に近づかないようにするのが一番の対策だからです。ただし、(1)命に関わるほど重篤な猫アレルギーではない(アナフィラキシー症状の既往がない)(2)後述する対策を講じて、症状が抑えられる(3)薬で症状が速やかに軽快する、という3点を満たすのであれば、猫を飼ってもよいと思います。

最近では、猫の唾液中のFeld1を中和するタンパク質を含んだキャットフードが販売されており、食べ続けることにより、アレルゲンの減少が期待できるため、選択肢の一つとして考慮するのもよいと思います」

【対策1:猫の手入れを小まめに行う】

 毛に付いたアレルゲンを可能な限り除去するためにブラッシングは欠かさず、シャンプーをすることです。Feld1は水に溶けやすいので、毛の水洗いが効果的ですが、シャンプーが苦手な猫はぬれタオルで拭きましょう。ブラッシングすると猫の毛が大量に抜けるので、猫アレルギーを持っていない家族やトリマーなどのプロにお願いすることをおすすめします。ブラッシングは部屋の外で、そっと丁寧に行いましょう。

【対策2:小まめな掃除・洗濯】

 カーテンなど、部屋の中の洗える物は小まめに洗濯しましょう。猫の寝床や毛布は特に重点的に掃除を行ってください。掃除機をかけるだけではなく、粘着カーペットクリーナーを使ったり、フローリングのホコリを取った上で水拭きしたりすることも重要です。アレルゲン軽減のために空気清浄機を置き、室内の空気をきれいに保ちましょう。

【対策3:部屋の布製品を減らす】

 布製品にはアレルゲンが付着しやすいため、「カーテンをやめて、ブラインドにする」「ソファは布ではなく、合皮や革製にする」「じゅうたんは敷かないようにする」といった工夫も効果的です。布以上にアレルゲンが付着しやすい羊毛や羽毛製品は避けてください。また、衣類は出しっ放しにせずに収納しましょう。

【対策4:マスク・手袋の着用】

 猫のブラッシングや部屋の掃除をするときはアレルゲンが飛散しやすいため、マスクを着用しましょう。呼吸器症状が出やすい場合、寝るときにマスクをするのもよいです。また、アレルゲンによる接触アレルギーを防ぐため、ブラッシングなどの際は手袋を着用して行ってください。

【対策5:多頭飼いを避ける】

 基本的に、どの猫もアレルゲンを持っています。そのため、猫の頭数が増えればアレルゲンも増え、猫アレルギーを引き起こしやすくなってしまいます。

【対策6:毛抜けの時期(換毛期)に気を付ける】

 季節の変わり目の換毛期はアレルゲンが付着した毛が多く飛散するため、猫アレルギーの症状が特にひどくなりやすいです。換気や掃除など、特に小まめな対策が必要です。

【対策7:アレルゲンの除去を徹底する】

 猫に触れた場合は早めに手洗いやうがいをして、アレルゲンを除去することです。毛が自分の衣類に多く付着した場合は、服に粘着式クリーナーをかけて、猫の毛を小まめに除去するか、着替えをしましょう。猫と接する際は長袖や長ズボンを着用するのが望ましいです。

【対策8:居住環境を分ける】

 猫と暮らしている人はアレルゲンを完全に避けることが難しいため、「猫が生活する部屋を決める」「自室へは入れない」などと決めて居住環境を分けましょう。寝る際、寝室に猫を入れないことはもちろんのこと、間違っても、一緒に同じ布団で寝るようなことはしないでください。

オトナンサー編集部

「猫アレルギー」の対処法は?