高校の同級生と結婚、しかし夫は実は女性だった…突然のカミングアウトに妻が動揺しなかった理由 から続く

 結婚8年目のある日、夫に「中身が女性」だと告白された妻。

 エッセイ漫画「夫は実は女性でした」で描かれるのは、妻で作者である津島つしま、夫であったわふこが一緒に歩んでいこうとする姿だ。

 わふこ氏が受けた性別適合手術、ふたりで一緒に生きるためにあえて選んだ離婚、トランスジェンダーとそのパートナーとして遭遇する不自由などについて詳しく話を聞いた。(前後編の後編/前編から読む)

泣きそうになりながら自分史を書いた

――わふこさんは性別適合手術を受けられていて、前段階となるホルモン療法などについては単行本、手術についてはTwitterでその詳細が描かれています。ホルモン療法を受けるには性同一性障害の診断が求められ、医師の面談と共に自分史の作成などをするとのことですが、自身を見つめ直すことでいろいろな感情が噴出してくるのではないかと思ったのですが……。

わふこ ちょいちょい泣きそうになりながら書いてた。

つしま あ、泣いてたっけ? あんまり覚えてないんだけど。

わふこ 号泣までじゃなかったけど。思い出して書かないと、前に進めないから。避けては通れない道みたいな感じ。でも、なんとか書いて。

コロナ禍での通院、手術

――コロナ禍で来院頻度を少なくするために、ホルモン注射からパッチを貼ることに替わったそうですね。注射とパッチでは、効果にそれほど差はないものなのでしょうか?

わふこ 特に説明はなかったですけど、やっぱり注射のほうが効きそうだなという印象はありました。でも、血液検査の結果とかを見ると、女性ホルモンの数値みたいなものはパッチのほうが増えてました。

つしま イメージ的には、注射のほうがバーンとぶち込んでる感じがあって効きそうなイメージがありますよね。なんか、パッチだとありがたみが薄いとか言ってた(笑)

――コロナ禍での手術だったそうですが。

つしま 去年の10月に受けました。わふこは手術の当日だけ入院して、手術前日と手術後の合わせて7日間がホテル。付き添いの私は9日間まるまるホテルで、閉じ籠もるように療養していましたね。

わふこ コロナ禍の影響で海外に行って手術できないので、国内での手術の予約数が増えてるみたいなことを先生から言われました。ワタシはもともと国内での手術を希望していて、最初にジェンダークニックに電話をした時に「全部やります」といってもらいました。

つしま その病院でホルモン療法からオペまでのすべてをやるんだったらお受けします、みたいな感じで。

――手術の費用についてもお描きになっていましたけれども、国内オペの造膣なしで約100万円。これは公的医療保険が利いての値段になるのですか。

つしま 自費です。保険が利くのは、最初の精神科で受ける性同一性障害の診断まで。

わふこ ジェンダークニックでも、ホルモン療法とかは自費で。精神科の診察だけ保険が利く感じです。

つしま 私たちもそんなに詳しくないんですけど、オペは保険適用内なんですが、ホルモン療法は適用外なので、どちらも受けると混合診療という扱いになってしまって、結局、オペも自費になるんですね。制度の問題というか(※)。保険が利いたら、ちょっとは楽だったなとは思います。

※……性別適合手術を受ける人の大半が事前にホルモン療法も受けるため、国内で行なわれる手術のほとんどに保険が適用されていない。このままでは手術の保険適用に実効性がないとして、当事者などから制度の改善を求める声があがっている。

「ズキーン ズキーン」体験したことのないタイプの痛み

――術後のエピソードで、麻酔が切れてから、男性器の幻肢痛的なものが到来してきたと。「ズキーン ズキーン」「もやもや」という擬音で表現されていましたが、それまで体験したことのないタイプの痛みですか。

わふこ 体験したことはない感じの痛みでしたね。たとえるなら、麻酔がすごく効いてるところにガーッととんでもない衝撃が加わったぞ、みたいな。向こうのほうで痛い、みたいな。

つしま 痛いような気がするみたいな。麻酔は偉大だね。その後も、ちょっと違和感があったんだよね。

わふこ ここ最近、ひと月ぐらい前かなと思うんですけど。睾丸に繋がる管みたいなものが、なにかに触られてるみたいな感じが。そこも、もうないはずなんですけどね。

つしま 痛くはない?

わふこ 痛みはなくて。触ってる、触られてる感じ。手術跡が縫い目みたいになってるんですけど、そのへんをちょっと押してみるとそこに繋がっていたのかなという気にもなる。

つしま 面影を感じる。あったものの面影みたいな? 何だろう、気配?

わふこ すでになくなってはいるけど、なんかあるっていうか、触ってないけど触ってるみたいな。

つしま すごい不思議だよね。

トイレの仕方はつしまさんが教えた

――術後にトイレに入ったわふこさんが拭き方がわからないと慌ててしまい、つしまさんが教えるのも印象的でしたが、こういった部分に対するケアとかレクチャーはないんですね。

つしま 教えてくれる病院もあるかもしれないんですけど、特になにもなかったです。

わふこ なかったですね。術後すぐはカテーテルが入っていたから、その場合の出し方はレクチャーされましたけど。取った後のトイレの仕方みたいなのは教わってはいなかったです。

――ほかに手ほどきをされたことは。

つしま 術後は出血があるのでナプキンを当てるんですけど、一緒に買いに行って。「私がいつも使ってるやつを買いなよ。余ったら、私も使えるから」とか話しながら。他にも、化粧の仕方とか。

 あと、手ほどきではないんですけど、わふこは最近おっぱいが痛いって言うんですね。わふこひとりだったら「なんだろう」ってなったと思うんですけど、“女の先輩”として「成長中だね。だから痛いんだよ」と言ってあげることで安心できたりするのかな、とは。私の場合、思春期の頃のことなんで、いまやあんまり覚えてないですけどね(笑)

関係をフラットな状態に戻そうと、一旦離婚へ

――日本では同性婚ができない、戸籍の性別も夫婦のままだと変えられない。そこで、おふたりは離婚をして、パートナーシップ宣誓制度を使って一緒に生活を送るということを選びました。このあたりはスパッと決められたものですか。

つしま 離婚した時は、パートナーシップ制度を使うということは決めてなかったんです。この関係を一旦フラットな状態に戻そう、リセットしようみたいなのがあって、離婚時点では私たちの関係がどう転ぶかわからない状態だったんです。

 こういう漫画をTwitterで発表して、バズって、本になって、ということで、周囲から褒められたり「いいカップルだね」って言われたりすることが私のなかでプレッシャーみたいになってきたところがちょっとあったんですね。私は自分の意思でわふこと一緒にいたいと思っているのか、よくわからなくなってしまった。

 で、離婚してみて「じゃあ、やっぱり一緒にいますか」と思えて。そして、パートナーシップ制度を利用してこれからも人生を共に生きましょうとなったんです。

――そうだったのですね。お住まいの地域に、パートナーシップ制度がなかった場合はどうされていました?

つしま 養子になるという選択肢もあったんですよ。ただ、生年月日の早いほうが親にならなきゃいけないんですけど、わふこ的には嫌だったんですね。いまは戸籍の性別を変える申請もしようと診断書を用意している最中です。

――診断書が出るまでは時間がかかるものなのですか。

つしま なんでこんなにかかるのかはわからないんですけど、すぐピャッとは出てこない。

わふこ ほかにも必要な書類があって、それも揃わないと。

つしま 戸籍上の氏名は、以前の男性的な名前から女性的な名前に変えてあって。その時はスムーズだったけど、それでも3カ月ぐらいかかったかな。

 普通だったら裁判所の方との面談などがあるんですけど、おそらくコロナ禍ということで手紙でのやりとりになってるんです。戸籍の性別を変える時に面談があるのかないのかは、申請してみないとわからないですね。

「目だったらいかんから…」不自由を感じざるを得ない場面

――夫婦だった頃と、なにが一番変わったと感じますか?

つしま 離婚したという実感も特にないんですよ。離婚した時、私は前の名字に戻さなかったし。名前も変わらず、離婚といっても紙の上でのこと。変わったのは保険証が別々になったくらい。なにか意識するわけでもなく。

わふこ そうね。特にないね。

――単行本のあとがきで「トランスジェンダーとして、またトランスジェンダーパートナーとして、不自由を感じざるを得ない場面があるのは否定できません」と仰っていますが、具体的にどういったことがあるのでしょう。

つしま 冠婚葬祭は不便ですね。ああいった場の服装ってバシッと男女が分かれているじゃないですか。

 かしこまった場ですし、参列する私たちは主役じゃないので目立ったらいかんわけじゃないですか。そうすると、わふこが女性の格好をしてお葬式に参列するのは、現実的にだいぶ難しいというか。結婚していて夫という立場だと、男性の服装をして「男性ですよ」といって行かないと、どうもよろしくないということになったりする。

 みんなは「自分は大丈夫。偏見はない。でも、周りがなんて言うかな」と、心配するんですよね。ひとりひとりは理解してくれているけど、そういう気持ちもある。冠婚葬祭には、そういった圧がありますね。

 わふこさんも女性としての格好をして出たいという気持ちが強いわけでもないので、そこはネクタイを締めるんですけど。モヤッというか、不自由を感じる場面ではあります。

わふこ メチャメチャ精神的な苦痛を感じるみたいなのはないんですけど、うっすら「やだな」っていうのを感じはします。しょうがないかって。

「なんでかは分かんないけど特別なの」

――冠婚葬祭の話が出ましたが、以前はウェディングドレスとタキシードを着て結婚記念の写真を撮ったので、ドレス同士で写真を撮り直すのが夢であると。これは、もう実現とかは。

つしま まだですね。コロナもありますし。このまえ、家の給湯器が壊れてお金が出ていったのもあったので、お金を貯めてから。頑張って貯金してます。

――わふこさんの恋愛対象は男性であることに対して、つしまさんが「私は女だけど…?」と訊ねたら「なんでかは分かんないけど特別なの」と答えています。この“分かんないけど”の部分は、いまだと具体的に言い表せますか?

わふこ 愛着みたいな。長年連れ添ったぬいぐるみみたいな。

つしま ぬいぐるみかよ(笑)かわいいってこと? 

わふこ ん?

つしま かわいいってこと?

わふこ まぁね。

(平田 裕介)

『夫は実は女性でした』より