ひと昔前はパーティホテルのビュッフェなどで供される特別な食事スタイルだった「食べ放題」。いまや専門店が乱立して価格競争も激化しており、ランチなら1000円程度で焼き肉や寿司まで食べ放題というチェーンも増えている。

 好きなものを、好きなだけ食べていい、という状態は、誰でもテンションがあがってしまうもの。人間の根源的欲求である「食欲」が全解放されることで、理性のタガが外れてしまうお客さんも中にはいるようで……。

 ということであらゆる世代に大人気の「食べ放題」での気になるお客さんの所業について、実際に食べ放題の店舗で働いている人に聞いてみた。(取材・執筆=素鞠清志郎/清談社)

食べものを使ったいたずらで、機械を分解・洗浄するハメに

 南留奈さん(仮名)が、働いているのは、焼き肉を中心に様々な料理やデザート食べ放題という人気のお店。土日は数時間待ちになるほど混雑するという。

 南さんが頭を悩ますのは子どもが起こす「事故」。食べ放題でよくやりがちな、さまざまな食材を組み合わせてオリジナル料理を作る行為が行き過ぎてしまうのだ。

ソフトクリームを作る機械があるんですけど、その元となるミックス液を入れる供給口を勝手に開けられて、何かの食材を入れられたことがありました。

 お客さんから『ソフトクリームの色が変だよ』と言われて気づいたんですけど、どうやら子供が“味変”をしようと思ったみたいで。こうなると中身を廃棄して機械を洗浄しなくちゃいけないので、すごく大変でした。

 あと、綿アメの機械にも砂糖と一緒にアイスクリームトッピング用のチョコスプレーを混ぜた子供がいて。中でチョコが溶けて機械の中がベトベトになってしまって、これも分解、洗浄することになりました」(南さん)

 機械を壊すのは論外だが、食べ放題店では「置いてある状態の料理を勝手に混ぜること」はマナー違反。別の激安食べ放題店でバイト歴3年という新田祐介さん(仮名)は、ウンザリした顔で語る。

「普通の大人のお客さんでもルールを理解してくれない。料理1つ1つに『このトングを使ってください』って置いてあるのに、それを持ち歩いて全部の料理に突っ込んじゃう。たぶん無意識なんだろうけど、それで味が混ざっちゃったら、その料理は全部捨てて入れ替えないといけないんですよ。他のお客さんがその料理を食べて味がおかしかったらクレームになりますからね」(新田さん)

原価の高い限定メニューを独占するお父さん、食材で遊ぶ学生

 大人でも並んだ食材を見てテンションが上がってしまうのか、傍若無人な行動に出るタイプも多い。

「原価の高い、数量限定のメニューが並ぶと、50代くらいのお父さんが走ってきて、提供されたお皿ごと自分の席に持ってったりする。ただ、食べ放題というシステム上、こちらから『全部持っていかないでください』とは言えないんですよね。お皿ごと持っていくのはルール違反なので『自分のお皿に取り分けてください』とお願いはしましたけど」(新田さん)

 食べ盛りの学生たちも、迷惑をかけそうだが…。

「学生さんは意外とおとなしいですね。ただ時間を持て余してヒマなのか、食材で遊ぶんですよ。網の上に燃えやすいものを置いて、火柱を立てて喜んだり。

 あと、網の下に油が落ちても煙が出ないようにお水を溜めておく部分があるんですけど、そこに食べ物をギチギチに詰めたりとか。これをやられると例によって分解清掃しなくちゃいけないので、その席は使用禁止になっちゃいますね」(新田さん)

食べ残しをとんでもないところに隠す客

 食材を隠すという行為には、「食べ残し」を気にしている人が多いという側面もある。

「食べ残すとペナルティがあるって思ってる人が多いみたいなんですが、あれは一種の脅しなんです。お店によっても判断が違うと思いますけど、私が働いている時には、食べ残しで実際にペナルティ料金を取ったことはなかったですね。

 ただ、そのペナルティを避けたいがために、取りすぎた食材を椅子の隙間に隠すとか、網の下に詰め込んだりするお客さんがいるんです。そっちのほうが掃除が大変だし、被害が大きいのでやめてくれって思いますね。

 あと、食材をこっそりトイレに持っていって流す人もいました。トイレが詰まってしまって、修理したら中から大量の唐揚げハンバーグが出てきたことあります」(新田さん)

 こうなってくると、何のために食べ放題に来たのかわからなくなってくる。新田さんは、ルール違反ではないものの、モヤモヤしたお客さんのことも話してくれた。

何度もトイレに入り…不可解すぎる客の行動にモヤモヤ

「印象的というか、モヤモヤしたのは食べてすぐ吐くお客さん。常連の方で、見た目は普通なんだけど、食べてるなと思ったらトイレに行って、そのまま篭もって出てこない。たぶん、そこで吐いてるんですよ。それで席に戻ってきて、もう1回サラダバーとかを食べて、また吐いて、戻ってきてというのを3時間くらい繰り返してます。

 席で吐くわけでもないし、トイレも汚く使うとかはないんだけど、『そこまでして食べたいの?』って思いますよね」(新田さん)

 料金の元を取りたいが故の行動なのか、それとも何かしら別の事情があるのか。

「ウチの店はトイレの個室の数が多くないから、籠もられると他のお客さんが使えなくて困ります。まぁ、吐いちゃダメという決まりがあるわけじゃないし、お金も払ってもらってるから別にいいんだけど、なにか腑に落ちないものがありましたね」(新田さん)

とにかく多い犯罪の手口「後から合流」

 困った客の中でも本当に迷惑なのは、やはり犯罪行為に尽きる、という。

食べ放題店って、どうしてもお客さんの立ち座りが多いから、それに紛れて食い逃げするお客さんも年に1~2人くらいはいます。あとは、学生さんのグループに多いんだけど、最初は少ない人数でオーダーして、後から何人か合流して料金をごまかそうとする奴らとか。

 それこそ団体で来られると、あとから増えても分かりにくい。でもウチとしてはそこは死活問題だから、人数はちゃんとチェックしていて、数が合わなかったら『最初に来た人数から増えてますよね? 後から誰か合流されましたか?』と聞くようにしてました。

 素直に『ごめんなさい』と言ってくれるコもいれば、『いや~…』とかごまかそうとする奴らもいます。これ悪質だなと思ったら、『じゃあ防犯カメラチェックしてきますね』っていうと、だいたい白状しますね」(新田さん)

食べ過ぎで出禁にしたことはない

 大食い自慢の人がよく「食べ過ぎて店を出禁になった」と武勇伝を語っているのを見かけるが、常識外にたくさん食べるお客さんは迷惑にならないのだろうか。

「食べ過ぎで出禁にしたことはないですね。店員の側からすると、お客さんが食べてる量なんて一切把握してないんです。

 他のお客さんがいないときに来て、ひとりで大量に食べたとかならまだ分かりますが、そうじゃない限りは、誰が何をどのくらい食べたなんて記録もしてないので、それで困るとか『お店が潰れちゃう!』とか、一切ないです。量に関してはいくらでも食べてください、という感じですね」(新田さん)

 最後に、食べ放題店にもクレーマーはいるのか聞いた。

「います。そもそもないメニューを『なんで置いてないの』って、文句を言ってくる人ですね。『牛タンは?』とか『ウニはないの?』とか、無理言うなって話。本部に届くアンケートメニューの要望を書いてくれるならいいんですけど、わざわざ店員を呼んで口頭で『もっといい肉を出してよ』とか言われてもどうにもならないですから。

 中には『お寿司を食べに来たのにこれだけしかないのか!』と怒り出すお客さんもいて……。いや、ウチは寿司屋じゃないし、焼肉屋でもない。『食べ放題屋』なんですよ、って言いたくなりますね」(新田さん)

 人は「食べ放題」という自由を与えられると、なんでもやり放題だと思ってしまうのだろうか。コスパを求めたり、欲望を満たすのは構わないが、扱っているのは「食べ物」ということを忘れず、節度とマナーを守って利用してもらいたい。

(清談社)

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