政府の安定財源とされ、今では当たり前のように存在している消費税」。しかし、最近では日本経済を停滞させた「戦犯」だとして、消費税の廃止を訴える識者も増えている。また、衆議院選挙に向けて2021年9月に発表された野党4党の政策合意には、消費税減税が盛り込まれている。

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 前回の記事では、消費税が導入された背景やその問題点、さらには「税金=財源」という考え方が誤りであることを、経済評論家株式会社レディセゾン主席研究員の島倉原氏(@sima9ra)に語ってもらった。

 とはいえ、消費税を見直すだけでは、日本経済の立て直しは不十分だろう。今回は、消費税の見直しにとどまらず、日本にとってあるべき経済政策や社会保障制度について話を聞いた。

積極的な公共投資が日本を救う?

 長期間低迷し、実質賃金も全く伸びない今の日本経済に必要な政策を問うと、「まずは20年以上に及ぶ緊縮財政をやめ、年率4~5%程度のペースで長期安定的に財政支出を拡大することです。それによって、長期デフレ傾向の要因である需要不足、特に投資不足を解消すべきです」と述べた上で、公共投資の重要性を強調する。

「そのために肝となるのが、政府自らによる将来のための投資、いわゆる公共投資の拡大です。国民にとって重要であるにもかかわらず、緊縮財政によって抑制・削減されてきた公共投資は、防衛・防災・公衆衛生・エネルギー・技術開発・教育・子育てなど、いくらでもあります。

 こうした分野に政府が積極的に投資をすれば、国内での利益成長機会が増加するため、民間企業も先行投資を拡大するでしょう。そうなれば、『雇用=人材への投資』ですから、就業環境も改善して実質賃金も上向き、国民の生活も豊かになるはずです」

消費税以上に家計を圧迫している社会保険料

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 消費税については「前回も述べたように、消費税が国内消費ひいては国内経済全体にブレーキをかけていることは明らか」とと即答。

「子育て世帯の負担がより一層重いことで社会の持続性そのものを危うくしているとも考えられるので、できるだけ速やかに引き下げ、あるいは廃止すべきです」

 さらに「同様な観点から、社会保険料も引き下げられるべきです」とも提案する。
 社会保険料とは、雇用保険、健康保険、厚生年金国民年金)などで、サラリーマンなら給料から天引きされてしまう。

社会保険料は、緊縮的・新自由主義的構造改革を掲げた小泉政権以降段階的に引き上げられ、消費税以上に家計を圧迫しています社会保険料の引き上げは、企業にとっては国内で人を雇うコストが高まることを意味するため、賃金抑制や非正規雇用増加など、就業環境の悪化をもたらす点も問題です」

現行の医療制度の問題点は?

 一方で、前回の記事では、社会保障支出の増加傾向を是正すべきだという指摘もあった。緊縮財政への強い反対姿勢と一見矛盾する、そうした指摘の真意について、改めて問いただしてみたところ、

「日本の医療制度は高齢者医療無償化が導入された1973年以降、高齢者の自己負担割合が最も低い構造が続いてきました。このことと、民間つまり営利企業主体という医療機関の構造が相まって、高齢者向けに過剰な医療サービスが提供されるようになっています

 との答えがあり、続けて現行の医療制度の問題点を指摘する。

「こうした傾向には2つの問題があります。1つ目の問題は、医療機関の経営資源が高齢者向けに集中すれば、どうしてもそれ以外の人々、特に子供や乳幼児向けは手薄にならざるを得ず、それによって少子高齢化が助長されていることです」

高齢者の医療費負担は引き上げるべき

島倉原
島倉原氏
「生物学者の知見によれば、人類も含めた有性生殖を行う生物にとって、上の世代が死ぬことには『より多様性に富んだ下の世代の構成比を高めることによって、種としての持続性を高める』という“意味”があります。つまり、少子高齢化を助長し、高齢者を過剰に延命することは、そうした自然の摂理に反し、社会そのものの持続性を危うくすることとも言えるのです」

 この意見は、高齢世代は医療が手薄になっても仕方ないようにも聞こえ、にわかには首肯(しゅこう)しづらいが……島倉氏はこう続ける。

「もう1つの問題は、そうした過剰な医療サービスが、顧客すなわち患者である高齢者の人生にとっても、決してプラスにはなっていないことです。むしろ、病床という生産設備の稼働率を高めるという企業経営の論理を背景として、不必要な入院を医師から勧められ、かえって寝たきりになってしまったり、そのまま自宅ではなく病院のベッドで亡くなる人が増えているといった弊害を助長していることが、医療関係者からも指摘されています」

子供向け医療の無償化を進めるべき

「特に日本の場合には、長年の緊縮財政によって保健所や公的医療機関が縮小されてきたことも相まって、こうした医療業界の傾向が公衆衛生インフラのぜい弱化をもたらしています。欧米よりもはるかに被害が少ない新型コロナウイルスに対応する医療態勢が追いつかず、外出・営業制限によって、かえって多くの人々が精神的・経済的被害を被ったことなどは、その典型と言えるでしょう。

 こうした状況を改善するためには、緊縮財政を廃して公的医療を拡充するなど公衆衛生インフラを強化する一方で、高齢者の医療費負担を引き上げて過剰な医療サービスを防止し、医療資源の配分を適正化することが必要ではないでしょうか。

 優遇するのであればむしろ、現在は一部自治体で行われている子供向け医療の無償化を国の制度として導入するほうが、はるかに筋が通っています

転換に必要なのは政治家のリーダーシップ

政治家

 最後に、緊縮財政を脱し、積極財政を実現するためには何が必要かを聞いてみたところ、「1930年代アメリカニューディール政策がそうであったように、財政政策の転換に必要なのは政治のリーダーシップです」という答えとともに、有権者である国民の側にも相応の覚悟が必要であるとの指摘があった。

「とはいえ、過去30年近くのさまざまな政策はおおむね緊縮財政を前提として組み立てられてきたわけですから、財政政策を転換するということは、そうした政策を大幅に見直すことにもつながります。しかも、経済政策の理論的基盤となるべき経済学の主流派がそうした緊縮政策を支持してきたわけですから、それをひっくり返すには相当の覚悟とエネルギーが必要です」

 財務省の矢野康治事務次官が月刊誌『文藝春秋2021年11月号に寄稿し、話題になったが、そこで岸田文雄首相が指示した経済対策について「本当に巨額の経済対策が必要なのか。コストや弊害を含めて、よく吟味する必要がある」などと主張したことからも、財務省が緊縮政策を支持していることがうかがえる。

大切なのは政治家と国民の覚悟

投票

「一方で、非主流派の経済学であるMMTへの注目が高まっていることにも示唆されるように、世界全体を見渡せば、主流派も含めて財政政策を重視する傾向が、以前よりも確実に強まっています。

 新型コロナウイルスへの対応に伴って各国が大規模な財政出動を行ったことも、そうした傾向を長期的に後押しすると思われます。そうした流れに上手く乗ることができれば、日本でも脱・緊縮財政の実現可能性が高まることでしょう。

 ただし、そうした政治のリーダーシップを実現するには、有権者である国民が、積極財政を掲げる政治家や政党を支持することが必要です。国際的に見て異常ともいえる緊縮政策が日本で長年続いてきたのは、『改革』と称して緊縮的な政策を掲げる政治家を、多くの国民が支持してきた結果でもあるからです

 そして、「もちろん、社会保障政策に関して述べたように、何でもかんでも財政拡張をすれば良いというものではありません。ですが、一人でも多くの国民が緊縮財政の弊害を理解して、選挙権の行使も含め、それを改めるよう政治にはたらきかけるようになれば、その分だけ脱・緊縮財政の実現に近づくのではないでしょうか」と締めくくった。

 10月31日衆議院選挙の投票日を控えているが、今回島倉氏から聞いた話を念頭に入れ、選挙会場に足を運びたい。

<取材・文/望月悠木>

【島倉原】
1974年愛知県生まれ。1997年東京大学法学部卒業。株式会社アトリウム担当部長、セゾン投信株式会社取締役などを歴任。経済理論学会及び景気循環学会会員。現在は株式会社レディセゾン主任研究員を務めながら、経済評論活動を行っている

【望月悠木】

フリーライター。主に政治経済社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている Twitter:@mochizukiyuuki

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