それは某編集者の理不尽な一言から始まった。

 「patoさんって守銭奴じゃないですか」

 僕はこれほどまで失礼な第一声を知らない。普通はもっとこう、時候の挨拶などから入る第一声を放つべきじゃないだろうか。この言葉を放った人の名前を書くといろいろと問題があるので伏せさせてもらい、某編集者としたい。

 「え、そうですか。そんなに守銭奴じゃないと思いますけど」

 なんて失礼なやつなんだと動揺する心を抑えつつ、無難な切り返しをする。

 「いやいや、守銭奴ですよ、いまだに酔っぱらうと、はるか昔に週刊ジャンプが10円値上げしてショックを受けた話をするじゃないですか。10円ですよ、10円。10円で3時間も恨みごとをいう人、初めてみましたよ」

 たしかにいまだに根に持っているけど、それはお小遣いでジャンプを買っていた僕らには大打撃だったわけで、ショックで寝込んだし、編集部に苦情の電話も入れた。いまだに酔うとその時の恨みを話し始める。でもそれは守銭奴とは違う。純粋な少年の心とかそういうやつだ。

 「それに、僕がスマホを新しい機種に変えたって言うと、絶対に『古い機種をくれ』って本気のトーンでいうじゃないですか。冗談ぽくいうけど明らかに本気じゃないですか。ぜったいに中古屋に売る気ですよね。それって完全に守銭奴ですよ」

 確かにくれっていうけど、別に中古屋に売る気ではない。もったいないから古い機種もしっかりと僕の手で活用してあげたいだけだ。

 「そこで、今回、その守銭奴にこういったゲームをやらせたらどうなるのかなって思いましてね。とあるゲームをプレイしてもらうことになりました」

 すっかりと守銭奴にされてしまったが、その某編集者から示されたゲームがこれだ。

『ツーポイントホスピタル:ジャンボエディション』
全世界で400万人を超えるユーザーが楽しむヘンテコ病院経営シミュレーション『Two Point Hospital』の日本語版、『ツーポイントホスピタル:ジャンボエディション』をPlayStation®4、Nintendo Switch™にて、7月29日(木)より絶賛発売中。また、無料の追加コンテンツ「ソニックパック」も配信中となる。

本作は、オリジナル版の『Two Point Hospital』に4つの大きな拡張ダウンロードコンテンツ(DLC)に加え、2つの追加アイテムパックDLCなど、多くの要素を詰め込んだ『JUMBO Edition』の日本向けタイトルです。

 ツーポイントホスピタルとはイギリスのTwo Point Studiosが開発した病院経営シミュレーションゲームだ。2018年に発売され、経営シミュレーションゲームの傑作として世界中を席巻し大ヒットとなった。その傑作がついに日本語版として発売されることになり、ジャンボエディションとして2021年7月、PS4とSwitch版が発売となった。ファン待望の一作だ。

 簡単にゲームの流れを説明しよう。

 プレイヤーにはこのように病院の建物と資金が与えられる。

 初めに受付を配置し、次に総合診察室を配置する。医師と事務員を雇用し、病院が始まる。しばらくすると患者がやってくるので治療なり診断なりを行う。そこで診療報酬が発生し、病院の収入となる。

 病気に応じた治療セクションも作る必要もある。ここでは診察室で診断された病気を治療するために「薬局」が必要となり、看護師を雇用して配置することで機能する。

 医師、看護師、事務員、管理員といった病院のスタッフも必要に応じて雇用し、給料を支払わなければならない。

 稼いだお金で設備を充実させていき、スタッフも増やしていき、徐々に規模を拡大していく、そんなゲームだ。

 このゲームの一番のポイントは、ともすれば深刻なトーンになりがちな「病院」という舞台を、オリジナル疾病を扱うことでコミカルに描いていることだ。

 頭が鍋になってしまった「病みなべ症」という疾病が登場する。このへんの病名がしっかりとダジャレになっており、日本語化においてかなりの工夫があったと考えられる。元の英語ではどうなってんだろ。

 この「病みなべ症」を治療するには特別な「なべ摘出装置」が必要となり、その治療室を整備し、操作する医師を配置しなくてはならない。

 ピエロみたいな見た目になってしまう「ピエロコンプレックス」だ。

 これを治療するには、ピエロになって過剰となったユーモアを除去する「ユーモア除去装置」が必要となる。

 ピエロからユーモアが除去され、普通の人に戻る。ユーモアを除去されつつあるピエロの苦悶の動きがなかなか面白くも悲しい。

 数多く登場するユーモアある疾病を治療するだけでなく、研究を行わせることで治療法を確立させ、治療室をどんどんアンロックしていく。そうしてお金を稼ぎ、病院経営を安定させていくことがこのゲーム最大の目的だ。

 「このゲームを守銭奴であるpatoさんに守銭奴らしくプレイしてもらいます」

 あえて名前は伏せさせてもらうが、ライターとしても活躍する某編集者はそう言った。守銭奴的なプレイをして欲しいらしい。

 「まあ、プレイしてレビューしますけど、べつにそこまで守銭奴プレイはしませんよ」

 自分のことを守銭奴と認めたわけではないけれども、いくら守銭奴といってもゲーム内でまで守銭奴な振る舞いは行わない。なぜならゲーム内でいくらお金を稼いでも現実の僕のお金は増えないからだ。なにも得しないからだ。

 僕のそんな考えを見越したのか、名前を出せない某編集者は冷たく言い放った。

 「そこは自分で考えてくださいよ。守銭奴としてプレイするにはどうすればいいか。そこは自己責任ですよ」

 ただ、僕もプロですからね。守銭奴としてプレイしろといわれたら、どうにかできる方法を考えて実現する義務みたいなものがあるんです。

 これはもう、「ゲームで成果を上げたら僕の大好きなストロングゼロが貰える」と信じ込むしかない。自分に暗示をかけるしかない。僕はストロングゼロのことになると見境がなくなることがあるので、信じ込むのは簡単だ。成果を上げるほどストロングゼロが貰えると信じこめば守銭奴プレイになるし、プレイ後に強く言えば本当にくれるかもしれない。

 「ゲーム内で10万ドル稼いだらヨッピーがストロングゼロを1本プレゼントしてくれる」

 「100万ドル稼いだら10本、200万ドルで20本、1000万ドルくらい稼いで100本とかなったらしばらく買わなくて済む。信じ込め信じ込め」

 ヨッピーはストロングゼロをプレゼントしてくれる。絶対にくれる。10万ドルで1本。

 よし、信じ込んだ。

 「守銭奴プレイ、やります」

 僕の申し出に何も知らないヨッピーはご満悦だ。プレゼントするはめになるとも知らずに。

 

 そんなこんなでストロングゼロを得るため、ツーポイントホスピタル、プレイ開始することにした。

文/pato
編集/ヨッピー

ツーポイントホスピタル:ジャンボエディション公式サイトはこちら

※この記事は『ツーポイントホスピタル』の魅力をもっと伝えたいセガさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。

 プレイを開始する。登場したのが「ホグスポート」というマップだ。可もなく不可もなくといった普通のマップに見える。持ち金は20万ドルからスタート、つまり最初の時点でストロングゼロ換算で2本の所持金だ。

 まずは受付を作りましょう、と言われる。ここで注意していただきたい。僕は病院の受付に関しては一家言ある男なのだ。

 以前に突如としてキンタマが痛み出し、めちゃくちゃ腫れたことがあった。クーラーボックスとかに入れる巨大な保冷剤を股間に挟みこんでいないと痛みで気が遠くなるレベルのものだった。歩くと激痛がはしるし、痛くて夜は眠れないしで大変な騒ぎになり、朝一番に命からがら、泌尿器科に駆け込んだことがあった。

 その泌尿器科の受付が死ぬほど混んでいて、完全に終わったと思った。朝の泌尿器科はおじいちゃんおばあちゃんでめちゃくちゃ混んでいて、さらに『朝家でしてきたから検尿が出ない』と駄々をこねるじいさんがいたりして、本当にカオスな状態になっていた。

 もうキンタマが痛すぎてロビーチェアに座ることもできなかったので、立って待っていたのだけど、もう気が遠くなって、頭の中で何らかの川を渡りそうになっていた。そうしたらはるか昔、僕が生まれる前に死んでしまって会ったことのない、遺影でしか見たことがないはずのおばあちゃんが出てきて、逝くな! キンタマで逝くな! って叫んでくれた。それでなんとか意識が向こう側に行かずに済んだのだ。

 つまり、受付が潤沢でないと病院で地獄を見る、ということだ。キンタマが痛い人にも優しく、それが病院の受付あるべき姿だ。

 不安なので受付を2つくらい作っておこう。

 いや、僕みたいに苦しむ人をもう二度と生み出したくはない。4つくらい作っておこう。

 それでも不安だな。8つくらいいっとくか。これでキンタマが大挙してやってきても大丈夫だ。

 これで安心。キンタマが腫れた人を待たせることもない。あんな地獄はもうたくさんだ。

 さて、次に「総合診察室」というものを作る必要があるようだ。医師が患者を診る部屋だ。これが病院の核をなす施設なわけでとても重要なものとなる。これにも僕は一家言ありますからね。

 そのキンタマが腫れたときに、死ぬほどの待ち時間を経てやっとこさ診察室に入ったら、医師がめちゃくちゃ声の大きいおっさんでしてね、なにもそんなに大声で言わなくても、みたいなトーンでいうんですよ。

 「なにい、キンタマが腫れたあああああああああああああ!?」

 「ソフトボールみたいにいいいいいいい!!!?」

 声が大きすぎて完全に受付や待合室、下手したら病院の外のコンビニにまで聞こえとる。めちゃくちゃ恥ずかしかった。

 ここは声の大きい医師がいても大丈夫なように、受付と総合診察室を可能な限り離して設置しよう。キンタマが腫れた人にも優しい病院にしたい。

 一連の施設が完成すると、時間の流れに沿って患者がやってくる。そして治療が終わるとチャリン、とお金が入る。

 おいちょっとまて。この診察で500ドル? 現実の世界での診察料としてはかなり高価っぽいけど、ちょっと先が遠すぎやしないか。ストロングゼロが1本プレゼントされる10万ドルってはるか遠くだぞ。これ200回やらないとストロングゼロ1本にならないのか。

 ただまあ、プレイしてみてわかった。この「ホグスポート」のマップ、ひととおりのチュートリアルが終わると、以下のようにミッションが課せられるのだ。

 「一つ星病院の称号を獲得するのに、3人の患者を完治させろ」と表示されている。

 これをクリアすることによって星を獲得し、一つ星病院、二つ星病院とランクを上げていく。すると、次のマップが解放されていくという具合になっている。なるほどなるほど。そういうシステムか。

 最初のマップをクリアすると次の「ロワー・ブロック」という2つ目のマップが解放される。ここでもミッションをクリアして星を獲得し、次のマップを開放していく。そんなスタイルのゲームのようだ。

 これによっておおまかな方針が定まる。

 こういった形式のゲームにおいては、最初の方のマップがチュートリアル的な内容であり、徐々に難易度が上がっていく。おそらく最後の方に出てくるマップが「難易度はかなり高いけど成功すればめちゃくちゃ稼げる」みたいなマップになっているはずだ。最初のマップはどう考えても狭いので稼ぐのに限界がある。進んでいくと使える土地も広大なマップが登場しそうなので、稼ぎやすそうだ。

 おまけに、このゲームは単にミッションをクリアしていくだけでなく、アイテムや施設、治療法をアンロックしていく必要がある。

 病院を経営しつつ、研究を進めて病気の治療法を確立したり、治療施設をアンロックしたりする必要がある。おそらく後半に出てくる病気ほど治療した時の稼ぎがデカい。つまりゲームを進めてこれらの研究を進める必要があるのだ。

 なんだかんだで2面「ロワー・ブロック」3つ星を獲得しクリア。

 3面、「フロトリング」も3つ星を獲得しクリア。

 3面まで順当にクリアしたのだけど、4面から急に難易度があがった。

 4面となる「ミットン大学」では、寒冷地となりやや過酷な環境になる。部屋の設備に寒さ対策のラジエーターを置いて対策する必要が出て来るのだ。ここでは大学病院ということで医師や看護師など、経験の浅い学生しか雇用できず、研修を経てスタッフのスキルアップを図っていくことに。なかなか苦労ししたけどなんとかクリアした。

 5面となる「ダンブル」ではさらに難易度があがる。山岳の観光地ということで骨折した患者が続々とくる。治療に失敗すると病院の評判が下がり、患者が来なくなって収入が下がる。あと地震が起こるようになるのでせっかくの設備が壊れまくる。それでも医師などの人件費はかかるので、どんどん所持金が減っていき、簡単に赤字になる

 こうなってしまうと設備投資もなにもできなくなるので、ただただ雪だるま式に増えていく赤字を見守るだけになる。これではストロングゼロを貰うとかそんな次元の話ではない。というか、最終的にマイナスの所持金をたたき出した場合は、逆に僕がストロングゼロを進呈することになってしまう。

 4面クリアと同時に6面である「フレミントン」もアンロックされたのだけど、同じくらいの難易度だった。ちょっと気を抜くとあっというまに病院の評判が下がり、赤字に転落してしまう。特にこの面は災害が起こって病院の設備が破壊されまくるのでかなり極悪度が高かった。こんな所に病院を建てるな

 ちなみに、マイナスが15万ドルに達するとこのままでは破産するぞと警告がでてくる。マイナスが30万ドルになると破産となり、ゲームオーバーである。これではストロングゼロを3本、こちらから進呈することになってしまう。自分で書いて逆にプレゼントまで進呈するなんてもはや何をやっているんだかわからない状態だ。

 早くクリアして先に進まないといけないのに、この「フレミントン」で詰まってしまった。なんどやっても破産してしまう。

 くっそ、終盤のステージに急いで行って稼ぐ必要があるのに先に進めない。ゲームとしてはかなりやりがいがあり、めちゃくちゃ楽しめる状況なのだけど、あいにく僕はそこにストロングゼロが重くのしかかってくる。このままではこっちがプレゼントすることになる。潤沢なストロングゼロを確保したいのにぜんぜんうまくいかない。

 だいたい、ステージをクリアしていっていろいろなものを開放し、終盤のステージで稼ぐっていっても、どれだけステージがあるのか分からない。先が見えないのはつらい。それにひとつひとつのステージがけっこう遊びごたえのあるつくりになっている。

 「どれくらいステージあるんだろ、10ステージくらいまであるのかな」

 調べてみると27ステージまであった。頭おかしい。明らかに多すぎる。ボリュームありすぎだろ。こういった感じでチマチマとクリアしていくゲームがめちゃくちゃ好きで、このボリュームは最高で何年も遊べそうな感じなんだけど、いまは事情が違う。そんなことしていたら、あっという間に締切がきて、「稼げませんでした」とこっちがストロングゼロをプレゼントするパターンになってしまう。

 なんとか効率良く資金を稼いでストロングゼロを手に入れたい。そう苦悩していると、電撃的にものすごい名案が頭の中にほとばしった。

 「このゲーム、じつは病院経営ではないのでは?」

 そんなことをふと思ったのだ。なにを言ってるんだかわからないと思うけど、こういうことだ。

 治療に失敗し病院の評判が下がるから患者が来ない。それでも人件費はかかるし、設備投資もしなくてはならない。それで赤字が膨らんでいくのだ。それもこれも治療に頼った病院経営をしているからだ。

 そこで注目したのが、このゲーム機だ。

 このツーポイントホスピタルでは、患者が押し寄せて待ち時間が生じると患者が怒って帰ってしまうことがある。それ以外にも「空腹」「喉が渇いた」「トイレに行きたい」など、様々な理由で患者が怒って帰ってしまう。けっこう堪え性のない患者たちだ。それを防ぐために、自動販売機を設置したり、トイレを適切に設置したりする必要がある。その中に「退屈」という理由もある。

 このゲーム機を設置することで患者の退屈度を下げる効果が期待できる。しかしそれ以上に大きな効果がある。

 患者がゲームをプレイすると5ドル入るのだ。チャリンと入る。これは大きい。

 治療などでお金を稼ぐには医師を雇い、看護師を雇い、治療設備もメンテナンスして維持していく必要があるので管理員も雇う必要がある。受付などを担う事務員も必要となり、それだけ人件費がかかる。そして、評判が下がるとこれらが回らなくなる。時間もかかる。

 これがゲーム機となると、人を雇う必要もないし、メンテナンスも必要ない。ただ置いておくだけで比較的に短い時間でチャリンと5ドル入る。完全に金のなる木だ。これを軸に病院経営をしていくべきではないだろうか。

 試しに設置してみたところ、患者たちは退屈という名の悪魔と戦っていたのか、なかなか食いつきが良かった。力道山の時代に街頭テレビに集った人のようにわっと人が集まってきた。あっという間に行列が形成されるほどで、大人気だ。チャリンチャリンと次々と5ドルが入ってくる。こりゃすごい。笑いが止まらん。病院にゲーム機、完全に正解だ

 病院にゲーム機? と考えると少し不思議に思うかもしれないけど、僕はこれにも一家言がある。

 幼少の頃、僕は喉が弱かった。

 その弱さが災いし、母親の運転で買い物に行く途中に、喉に痰か何かを詰まらせて窒息状態になった。

 突然に真っ青な顔になる僕に母親はパニックになり、救急車なんか待っていられない、一刻を争う、車を運転して直接、病院に乗り付けるしかない、となったが、かろうじてわずかに呼吸できる角度を維持するために抱きかかえておく必要があるし、かといって僕を抱えたままでは運転できない。完全に手詰まりになっていると、その辺を通りかかったおっさんが「わしが運転していったるわ!」と運転して病院まで行ってくれたらしい。

 そのおっさんは、遠くにある総合病院に到着するとそのまま歩いて帰ってしまったらしく、命の恩人だということでお礼が言いたくてその後、ずいぶんと探したけど見つからなかった。

 そんなこんなで、人生において初めての入院をすることになった僕は、孤独と退屈と戦っていた。やはり幼い子どもにとって、家を離れて知らない場所で眠ることは言い知れぬ恐怖だったし、病院という舞台はその恐怖を増幅させた。耐えられずシクシクと泣いていると、病室内を仕切る薄白色のカーテンの向こうから声が聞こえた。

 「面白いもの見せてあげようか」

 隣のベッドは中学生だか高校生だかのお兄さんだったと思う。

 「もう消灯時間過ぎているから静かにね。看護婦(当時は一般的にそう呼んでいた)さんに見つかったら大変だから」

 そう言ってお兄さんが見せてくれたのはパチンコ台だった。本当に、パチンコ屋さんからそのままくり抜いて持ってきたみたいな台がそこにあった。パチンコ台を取り囲む木枠みたいなのを今でも鮮烈に覚えている。

 「おれ、入院が長いからさ。親に言えばなんでも買ってきてくれるんだ。それでパチンコ台ってお願いしたら本当に持ってきた」

 照明の落ちた病室。暗がりの中でお兄さんは確かに笑っていた。

 「もう夜も遅いから明日やろうな。いまはこれを楽しみにして寝よう」

 「うん!」

 不思議と、怖さや寂しさみたいなものが消え失せていた。パチンコ台のことを考えるとワクワクしてたまらなかったのを今でも覚えている。いつの間にか知らないベッドで眠りについていた。

 そういったことを考えると、やはり病院にもこういった楽しみは必要なのだろう。パチンコ台とゲーム機は根本的には違うのだけど、患者への楽しみという点では同じだ。あと、金も儲かるしな。ということで、このゲーム機を軸に病院を経営していくことにした。

 つまり、ゲーム機を大量に置き、ゲームセンターみたいにしてしまえば、チャリンチャリンと5ドルが大量に入り、それが収入の柱となる。それでどんどんゲーム機を増やしていけばいい。

 ゲーム機を並べ始めた。

 並べている途中で「精神科診療室を作る必要があります」とけっこう強めに警告されてしまい、やべ、と焦って精神科診察室を作ったらこんなことになってしまった。

 精神科診察室を取り囲む大量のゲーム機。たぶん、僕がこの部屋に入れられたら発狂すると思う。それでもゲーム機の収入は大切だから、ゲーム機の収入がこの病院の収入の柱になるから、やるしかない。さあ、いくぜ!

 このゲーセンに人が押し寄せて、がっぽがっぽと金が入ってくると思いきや、蓋を開けてみると、チラホラとしか人がやってこない。かなりの時間をかけてやっと緑の服のやつがやってきてチョロンと5ドルが入るだけだ。ぜんぜん人が来ない。完全にあてが外れてしまった格好だ。

 そのうち本当に人が来なくなって、おまけにどんどんと評判も下がっていってあっという間に赤字に転落し、そのまま破産となった。

 最後はなんとか黒字にしようと大量のゲーム機を売りさばいたりしたけど、もうどうしようもなかった。このままでは本当にストロングゼロが手に入らない。

 「もしかして病院に来る人って治療や診察が目的なんじゃ?」

 なんでこんなことに気が付かなかったのだろう。ゲーム機だけが大量に置かれていても誰も来ない。みんな病院には治療に来ているんだ。そのコース内にゲーム機があれば退屈を解消するためにプレイする。そういうことじゃないだろうか。

 つまり、このゲームにおける患者は「受付→総合診察室→治療へ」みたいなルートをたどる。患者自身はけっこうリアリティをもってランダムに動くので、なかなかみんなが通る場所にゲーム機を置くことはできないが、そのコースを何らかのアイテムで制限し、かならず同じルートを通るようにする。

 つまりこう。

 ロビーチェアでルートを作り、診察を受ける際にはぜったいにそこを通るようにし、そこにゲーム機を配置する。これなら確実にプレイしてくれるはずだ。

 と思ったのだけど、期待したとおりにルートを制限できて、みんなゲーム機の前を通過してくれるのだけど、たまにお情けでプレイしてくれる人がいるくらいで、ほとんどが無視状態だ。

 プレイしてくれないどころか、ルート制限のために置いたロビーチェアにこぞって腰掛けられる始末。完全に舐められとる

 結局、こちらもゲーム機の収入はほとんどなく、どんどん評判は下がっていき、あれよあれよとジリ貧状態となって破産となった。今回はあまり時間もかからず破産となった。

 またもやこちらがストロングゼロをプレゼントするパターンである。かなり難しいな。困ったことになった。

 これから堅実にプレイしていってステージを進めていき、終盤で稼ぐ戦略のほうが手堅いとは思うけども、時間的な面からいって妥当ではない。かといってゲーム機の収入を柱にして稼いでいくのも現実的ではない。破産する。どうしたらいいかと途方に暮れていたら、凄まじいことに気が付いてしまった。

 メニュー画面に戻ってみると、最初は解放されていなかったメニューが解放されていた。「サンドボックス」というメニューらしい。なんだろうこれと選んでみて驚愕した。

 これ、フリープレイできるモードだ。どうやら3面のフロトリングのマップをクリアすると解放されるモードで、すべてのマップをチョイス可能、おまけにプレイ状況も好みにカスタマイズできる。

 課せられたミッションをクリアして、徐々にアンロックして進めていくのが通常モードの醍醐味で、こちらのサンドボックスモードは好みの病院を作ったり、徹底的にやりこみしたり、そういったことに向いたモードなのだろう。

 最初の所持金や、収入倍率、アイテム全開放、病気の治療法もすべて研究が進んだ状態で全開放とかもできる。地味に難易度を上げる災害などの有無も選べる。あいつらこんな便利なもの隠してやがったのか

 もちろん、このサンドボックスでプレイしてはいけないなんて言われていないので、こちらでプレイする。最初の所持金もマックスの1000万ドルにした。最初からストロングゼロ100本だ。最高かよ。めちゃくちゃ夢がある。

 かなり有利になる状況を設定し、広そうなマップをチョイスしてゲームを開始した。たぶんこれなら戦える。

 さあいくぜ!

 所持金1000万ドルからスタート。ストロングゼロ100本である。この時点で終わりにしてめでたしめでたしにしても潤沢なストロングゼロだけど、僕は欲張りなのでここから金を増やしてせめて1500万ドルくらいにしたい。ここまで試行錯誤してけっこう苦労したのでストロングゼロ150本くらいは欲しい。頑張るぞ。

 まず受付は、キンタマが痛い人がいると困るので、かなり広いものを作っておく。そして、ここにきて、あるアイデアが僕の中に生まれていた。もちろん、稼ぐためのアイデアだ。

 ここまで試行錯誤でプレイしてみて気が付いたことがある。まず、自動販売機。こちらはドリンクとスナックの2種類があり、患者の空腹や喉の渇きを解決する効果があるアイテムだが、それと同時にこちらの売り上げも収入になる。ゲーム機ほど頻繁に収入は発生しないが、最上位機種である高級ドリンクなどが売れた場合がすごい。

 40ドル!これはでかい。完全に収入の柱となるべき存在だ。こちらも適切に配置していく必要がありそうだ。

 そもそも病院において自動販売機とはなかなか心の支えになってくれる存在なのだ。

 幼少の頃に入院していた僕は、病院内の自動販売機に行く時間を楽しみにしていた。

 「おい、自動販売機に行こうぜ」

 昼を少し過ぎたくらいの時間、付き添いの保護者やらがいないタイミングになると、あのパチンコ台を持っていた隣のお兄さんがいつもそう声をかけてくれていた。

 「いや、でもお金ないし」

 「それくらい奢ってやるよ」

 僕はお金を渡されていなかったので、自動販売機でジュースを購入できなかった。それでいつもお兄さんがジュースを奢ってくれていた。

 入院していた病院の1階には食堂があって、そのさらに奥に謎のスペースがあり、そこに2台の飲み物の自動販売機が置かれていた。そしてスペースの中央にはロビーチェアが置かれていた。分かりやすいようにゲームで再現するとこんな感じだ。

 ここに置かれていた自動販売機は見たこともないメーカーのもので、そこに並ぶ飲料も今までに見たことがなく、いったいどこで売っているんだろうというものがズラリと並んでいた。値段もテーマパーク価格みたいな感じでけっこう高価だった。僕はその中でもピーチネクターのパクリみたいな謎の飲料が好きだった。いつもお兄さんが奢ってくれた。

 「美味いよな」

 お兄さんは軽快に笑った。

 「美味い」

 僕も笑った。思えば、ここでの時間が退屈な入院生活の中での支えだったように思う。かわりばえしない病室、検査、食事、そういった中でここに来ることがささやかな非日常だった。

 もう一つ、この場所における楽しみがあった。それが、いつも同じ時間にくる女の子だ。どうやら彼女もどこかに入院しているようで、お母さんみたいな人に付き添われてよく来ていた。いつもファンタオレンジの偽物みたいな飲み物を飲んでいたように思う。

 その子とお母さんが自動販売機スペースから去った後、お兄さんが冷やかすように言った。

 「お前、あの子のこと好きだろ」

 「な、な、な、な、な、なにいってんですか!! そんなわけないでしょう!」

 むきになって否定した。幼き僕は好きという気持ちを他者に悟られることは死を意味すると考えていたので必死に否定していたけど、その子のことが好きだった。

 「いつか話しかけてみればいいじゃん」

 お兄さんはそう言って笑っていたけど、そんなことできるはずもないと強く思っていた。

 それから数日後のことだった。

 いつものように昼を過ぎた時間になり、保護者の付き添いもいないタイミングになった。絶好の自動販売機タイムなのだけど、その日は何かの検査なのか治療なのか、お兄さんは朝からいなかった。僕はお金を持っていないのでお兄さんなしで自動販売機スペースに行っても意味がない。けれども一人で行ってみることにした。たぶん、同じ時間くらいに来るあの子の顔を見たかったんだと思う。

 自動販売機スペースに到着すると、そこには誰もいなかった。「お金もないからすることないな」とロビーチェアに座っていると、あの子がやってきた。ただしいつもと様子が違っていた。いつもはお母さんと一緒なのに、その日は一人で来ていたのだ。

 彼女はそのまま反対側のロビーチェアに座った。飲み物は買わないようだった。

 「なんでここにきて飲み物を買わないんだろう」

 そう思ったけどすぐに気が付いた。彼女もお金を持っていないのだ。いつもお母さんが購入していたので、彼女自身はお金を持っていないのだ。じゃあ、飲み物を買えもしないのになぜここにやってきたのだろうか。

 もしかして話しかけるチャンスなんじゃないだろうか。いや、でもなんて話しかけるんだ。お互いに金がないですなーとか話しかけるのか。どうしようどうしよう。そうやって混乱していると、どんどん胸の高まりみたいなものが抑えられなくなっていた。あかん。話しかけられない。

 その時、ふと見上げると、なにかその光景がもつ違和感に気が付いた。なんだろう、いつもと変わらない、自動販売機の光景で、マイナー飲料が威風堂々と並んでいる、それだけなのに途方もない違和感があるのだ。しばらく考えて分かった。やはりこの光景はおかしい。そう、購入するボタンの四角い赤ランプが全点灯しているのだ。お金を入れて購入可能になったことを示すランプが全点灯している。たぶん、古い自動販売機だからぶっ壊れていたんだと思う。

 「ねえ、もしかしてこれ、ボタン押したら出てくるんじゃない?」

 自然と彼女に話しかけることができた。彼女は突然に話しかけられたことに驚いた感じの表情と、「こいつなに言ってんだ」と戸惑った感じの表情が入り混じった、何とも言えない顔をしていた。

 「押したら出るって」

 勢いよく、ピーチネクターの偽物のボタンを押す。

 ビーガチャン、ガコン!

 小気味良い音を奏でて本当にピーチネクターの偽物が出てきた。そしてサッと仕切りなおすようにまた赤のランプが全点灯した。

 「お金を入れてないのに出てくるよ」

 僕は、お金も入れてないのにジュースが出てくることと、彼女に話しかけたという事実に興奮してしまい、かなりの勢いでまたボタンを押した。いま思うと、彼女は引いていたと思う。ただ、僕はそれがわからず、虚無からジュースを生み出す能力者みたいな感じで尊敬されていると勘違いしてしまい、なかなかの勢いでボタンを連打した。

 ビーガチャン、ガコン!

 ビーガチャン、ガコン!

 ビーガチャン、ガコン!

 そのたびにジュースが排出されてくる。そうこうしていたら、連打していたボタンがめり込んでしまったみたいで何もしていないのに出てくるようになってしまった。

 ビーガチャン、ガコン!

 ビーガチャン、ガコン!

 ビーガチャン、ガコン!ビーガチャン、ガコン!ビーガチャン、ガコン!ビーガチャン、ガコン!ビーガチャン、ガコン!ビーガチャン、ガコン!

 もう取り出すのが追い付かない勢いで「うわあああああ」とパニックになっていると、異常な雰囲気を察した食堂のおばちゃんがめちゃくちゃ険しい顔で走ってきた。

 おばちゃんが駆け込んでくるや否や、愛しき彼女は共犯にされたらかなわんと思ったのか、けっこう大きめの声で叫んだ。

 「この人がジュースを盗んでます! 泥棒です」

 罪の告発。あれだけはっきりと泥棒と糾弾されたことは、僕の人生でない気がする。それから、病院の職員の人にこっぴどく叱られ、親にもこっぴどく叱られ、彼女とこのスペースで会うことはなくなった。

 新しい機種に入れ替えられた自動販売機の前に佇んで待ってみても、彼女は現れなかった。退院したのか。それとも時間をずらしたのか。とにもかくにも、こうして僕の自動販売機の恋は終わったのである。

 そんなこんなで、入院生活においては自動販売機の存在は重要なのである。そこには物語がある。このゲームにおいてもふんだんに設置していくことにしよう。

 そして自動販売機に関して、もう一つの気づきがあった。

 医師が患者を診察する「総合診察室」だ。このゲームにおいて、この総合診察室は要となる存在で、患者の動きを観察していると、人によっては何度も訪れることがあるのだ。つまり患者が集まる部屋だ。

 病院の規模が大きくなるとこの「総合診察室」は複数必要になってくる。そうなると、この複数に配置した総合診察室の周辺に異常に患者が集まるようになるのではないか。そこにゲーム機やら自動販売機を配置すれば、かなりの売り上げが期待できるのではないか。きっとそうに違いない。

 ただし、ゲーム機はそうでもないけど、自動販売機を大量に置く場合は管理員が必要となる。十分な人数を雇用しないと、自動販売機がぶっ壊れて泣きを見る人が出るかもしれないのだ。幼き子どもの、恋が終わることだってあるかもしれないのだ。

 ということで8つの「総合診察室」を設置。もちろん、でかい声の医師がいると恥ずかしい思いをする患者もいるかもしれないので、受付から離して設置する。当然、ここに入る8人の医師を雇用する必要もある。その中心は多数の患者で溢れかえることが予想されるので、そこにゲーム機を4台設置。好評なら増やしていく計画だ。もちろん、それぞれの部屋の前に自動販売機も設置する。これでバカ売れ間違いなしで収入の柱になってくれるに違いない。

 ただし、4台のゲーム機ではそこまで大きな収入は見込めない。もう少し台数が欲しい。そこで、患者は総合診察室で受診したあと、だいたい治療系の部屋に移動する、という行動様式に着目した。

 8つの「総合診察室」から離れた場所に治療系の部屋を密集させ、その途中の通路をわざと狭く作り、そこにゲーム機を並べる。これなら、お、治療に行く前にやってくか、みたいになるはずだ。

 こういう感じ。

 これで必ずやゲームがプレイされ、ジャリジャリと収入が上がるはず。めざせ、ストロングゼロ150本!

 予想通り、人が集まりだした。ゲーム機に夢中になっている患者もちらほら見かける。

 こちらの通路でも予想通り、通りがかりにプレイしていく人が見られた。

 うおおおお、予想通り人が集まりだして、自動販売機の商品は管理員の補充が間に合わないくらい売れるし、ゲーム機もフル稼働しはじめた。

 こちらの通路も大盛況! 初期の設備投資で940万ドルまで減らした所持金が簡単に990万ドルほどに持ち直した。こりゃ笑いが止まらん。すぐに1000万ドルを超えて簡単に1500万ドルとかになるはず。ストロングゼロ150本だぞ! 150本!

 と最高潮に浮かれていたけど、良かったのはここまでだった。基本的にゲームや自動販売機の収入で儲けるには人件費を抑えなければならないので、医師や看護師の雇用が制限される。そうなると、やってくる患者を治療できないし、待ち時間も長くなるので、どんどん病院の評判が下がってくる。
 すると患者が集まらなくなるのでゲーム機周辺も閑散とし始める。あと、最初は物珍しさでゲーム機に集まってくれるけど、そのうち飽きるのか、時間が経過すると人が集まらなくなってくる。そのへんも影響して、どんどん所持金を減らすモードに突入してしまった。

 さすがに初期から1000万ドル持っているのでそう簡単に破産はしないけど、徐々に所持金が減るジリ貧モードに突入し、あまり改善の見込みもないため、この病院は失敗だと早々に切り上げた。

 他にも、新たなマップを開始し、いろいろな間取りで人を密集させ、そこに置いた自動販売機やゲーム機で儲けようと企むも、最初こそは調子よく稼げるものの、すぐに評判が急降下し、飽きられ、ジリ貧モードに突入する始末。大雑把なバカゲーのたぐいかと思いきや、このへんのバランスが実に良く出来ている

 「もしかして、ゲーム機で稼ぐの、難しいのでは?」

 「もしかして、病院ってまっとうに治療や診察をしたほうが儲かるんじゃ?」

 ここにきてやってこの真理に到達した。

 「病院は治療する場所」

 その言葉を聞いてあるシーンが鮮烈に思い出された。

 「おい、そろそろ張り込むぞ」

 隣のベッドの、パチンコ台のお兄さんは少し声を潜めて言った。今週もあの時間がやってきたのだ。

 入院していた病院には小さな売店があった。そこは日用品やちょっとした食べ物や飲み物を売る小さなスペースだったのだけど、その隅っこに小さな雑誌スペースがあった。もう何年も売れてなさそうな文庫本などが陳列される中に週刊少年ジャンプがあった。本来の発売日である月曜日から1日だけ遅れて火曜日に、ジャンプが入荷するのである。しかしながら、なぜだか知らないけどその店には毎週、一冊しか入荷しなかった。

 お兄さんは毎週、このジャンプを購入していた。読み終わったやつを見せてくれるものだから、僕もすっかりジャンプを読む習慣がついてしまい、続きが楽しみな漫画がいくつかできていた。

 ただ、問題なのは「1冊しか入荷しない」という点だった。同じく入院している高校生と思われるお兄さんも、そのジャンプを狙っている。とうぜん、1冊しかないジャンプを巡って争いになるわけだ。

 火曜日の何時ぐらい入荷するのかはだいたい分かっているので入荷したら即、買えるように張り込む。売店のおばちゃんは修羅のごとき恐ろしさを誇る怖いおばちゃんだったので、店の中で待つことは許されなかった。店の近くで待つことも許されなかった。

 修羅の逆鱗に触れず、それでいてすぐに購入できる位置、これがなかなか難しく、最適なのが受付の横だった。この病院は変わった構造をしていて、受付が4つに分かれていた。それでも混むので8つにしたらいいなんて大人たちが言っていた。そのうちのもっとも売店に近い受付の影が張り込みに最適だった。

 その受付にシフトを引いて2人で張り込む。向こうの高校生も手下みたいなものを引き連れて同じように張り込む。いつもヒリヒリする戦いがそこにあった。

 ただ、高校生の方はそこまで本気ではないようだった。数日くらい待てばお見舞いの同級生がジャンプを持ってきてくれるらしいのだ。それでも早く読みたいので張り込む。ただ、あまり本気ではないのでいつも僕たちに負けていた。

 ただ、ある週だけ予想より早く入荷してしまったことにより、高校生グループに買われてしまったことがあった。大変なことだ。続きが気になる漫画がいくつかあるのに、それが読めないのだ。

 お兄さんの保護者は、頼めばパチンコ台でも病院に持ってきてくれる親御さんなので、「その親に今週のジャンプを頼めばいいじゃん」と思ったけど、ジャンプだけはだめらしい。どれだけ強く言っても間違えて月刊の方のジャンプを買ってくるらしい。

 「俺たちは絶対にジャンプを読む必要がある」

 お兄さんのジャンプに対する思い入れはかなり強いものがあった。

 「高校生のところに盗みに行く?」

 簡単に犯罪に手を染めようとする幼き日の僕が怖い。さらっとこれが言えるのはけっこう怖い

 結局、高校生のところに読ませてくれと頼みに行ったのだけど、いつも購入する僕らを良く思っていなかった彼らは「読みたければ今週号の表紙の真似をしろ」と無茶な要求をしてきた。もう何の漫画が表紙だったか忘れてしまったけど、けっこう再現不可能なダイナミックな感じの表紙で、それはねえよ、と思ったのを今でも覚えている。

 「こうなったら仕方がない。親に頼むか」

 お兄さんは最終手段を出した。

 「でもな、どれだけ言っても月刊の方を買ってくるんだよ。なんだろうなあれ」

 お兄さんはそう言ったけど、そんな一度や二度のミスで大袈裟に言っているんだろうと思ったら、本当に次の日、月刊ジャンプが届けられていた。週刊の方より分厚いやつだ。本当に間違えて買ってきた。なんなんだ、これ。

 なんだかそれを見た瞬間、妙に面白くて2人で笑いあった。月刊ジャンプを囲んで大笑いした。

 あまりにも大騒ぎしているものだから、看護師さんがやってきて大目玉を食らった。その時にけっこうな剣幕で言われてしまった。

 「ここは病院ですよ? 治療する場所です!」

 その時、あれだけ笑っていたお兄さんが、ものすごく寂しそうな表情を一瞬だけ見せた。

 「治療する場所? じゃあ、いつまでも治らない俺はなんなんだよ」

 そう小さく呟いていた。少しだけ傾きかけた太陽が逆光になってお兄さんを照らしていた。僕は当時、幼くてよく分かっていなかったけどいまだに思い出すと胸がキュッとなる。あんなに優しくて明るくて面白いお兄さんが一瞬だけ見せた苦悩を思い出して胸が締め付けられるのだ。

 「病院は治療する場所」

 それは当たり前の言葉だけど、なんだか重いもののように思えた。

 そう、治療だ、病院の醍醐味は治療、特にこのゲームにおいてはそうなのだろう。ということで、このフリープレイモードであるサンドボックスを利用し、真っ当に治療を中心とした病院経営に乗り出すことにした。具体的には次の方針である。

・患者の待ち時間を極力減らす
 こまめに観察し、待ちが発生している施設はすぐに増設する。増設に伴い、そこで働く人間も同時に雇用する。

・スタッフを大切にする
 スタッフは長く働いていると昇進していくし、「給料が安い」と不平不満を言い賃上げを要求してくる。どうしても人件費を抑えたくて、そうなると生意気だとスタッフを解雇して賃金の安い新人を雇用していた。いま考えると、いくらゲーム内とはいえあまりにも非道すぎた。守銭奴すぎた。スタッフを大切にし、賃上げにも応じる。人手不足になった職種はすぐに補充する。

・スタッフのスキルアップ
 このゲームでは「研修室」を設置し、雇用したスタッフに研修を受けさせることでスキルアップさせられる。例えば、精神科スキルがなく、精神科診療室での診療を行えない医師でも精神科の研修を行うことでスキルを獲得し、精神科の診療ができるようになる。長く雇用するスタッフをスキルアップすることで治療のクオリティを上げる。それが病院の評判や患者な満足度に繋がる。

・あくまでも治療で収入を得る
 自動販売機やゲーム機は、患者の空腹や退屈を解決するのに必要なものであるが、そこで生じる収入を頼りにはしない。あくまでも補助的な収入だ。メインは治療だ。訪れる患者の症状に合わせた治療設備を適切に設置し、人員を配置する。それが病院の評判に繋がる。

 よくよく考えたらけっこう当たり前のことなのかもしれない。この境地に至るまでにずいぶんと遠回りをしてしまった。ここで声高らかに宣言しておく。病院とはゲーム機を収入の柱とした施設ではない。あくまでも治療が柱だ。

 それでも、何度か試行錯誤した。例えば、最初からストロングゼロ100本に匹敵する潤沢な資金があるわけだから、たくさんの施設を一気に整備し、あらゆる病気に対応、混雑しそうな施設も大量に整備し、スタッフを大量に雇用する。これをやるとなぜかぜんぜん病院の評価があがらずにジリ貧の展開となりまくった。

 何度も失敗しても病院を作り直す。すべては金のため。ストロングゼロのため。そして試行錯誤の果てに、もっとも軌道に乗りやすい運営方法を確立した。

 まず、前述したように最も混雑しやすい「総合診察室」は最初から8つくらい設置してもいいが、それ以外は最小限度にとどめる。ただ、キンタマのことを考えて受付は広めにしたほうがいい。おそらく最初から病院の規模がでかすぎると効率が悪いのだと思う。それ以外は必要最小限にとどめる。最初はこぢんまりと始めるほうがいい。

 新しい疾病の患者が到着するとアナウンスが入るので、それが出てから必要な治療部屋を設置し、人員を配置する。それでもまだ職員のスキルアップが完了していないので治療に時間がかかったり失敗したりして評判は下がっていく。けれども、研修を重ねて地道にスキルアップして治療を続けると必ず、評判が上がり始める局面が来る。そこまでをストロングゼロ100本に相当する豊富な資金と、ゲーム機や自動販売機の収入で耐え忍ぶ。

 それによって実現した病院がこちらだ。

 最も混雑する「総合診察室」を8個ほど並べて設置しその中央を少し広めのスペースにする。そこはおそらく大量に人が集まるようになるので、狂ったようにゲーム機や自動販売機を設置する。この収入が初期の病院を支えてくれるが、どうせすぐに飽きられるのであてにはしない。本分はあくまでも治療だ。

 実際に病院を開いてみると、予想通りの場所に人が集まり、予想通りに自動販売機やゲーム機が稼いでくれた。こちらをご覧いただきたい。

 経営をはじめて4年経過した時点で1060万ドルを所持している。最初に初期投資したお金を回収し、利益を上げ始めた。もちろん、治療による収入が大きいのだけど、自動販売機やゲーム機の収入がかなり下支えしてくれている。

 ただし、そこから2年ほど経過する頃になると、いっきに人が減ってくるし、あまりゲーム機もプレイしてくれなくなる。いつものパターンだ。ここでのステータスに注目して欲しい。

 所持金は1200万ドルほどに増えているものの、その下の評判のステータスが一気に0になっている。これはまだこの病院が未熟だからだ。いつもはここから一気に奈落の底に落ちていくのだけど、今回は違う。自動販売機収入に支えられながら、地道に治療を続け、患者さんのためを思って設備投資をし、スタッフのスキルアップを行っている。

 破産の恐怖と戦いながら、それでも地道に、実直に、スタッフも大切にしながら経営していく。その思いが実ったのか、経営16年目、ついに病院の評判が反転した。

 反転したらあっという間で、今度は一気にマックスに振り切れる勢いになった。こりゃもう、地域でも「あの病院、いいよね」「わかる」と噂になっているレベルに違いない。地道にやってきてよかった。なにごとも地道が一番だよ

 こうなると完全に軌道に乗るもので、もう自動販売機やゲーム機の収入に頼らなくても治療の収入で所持金が増えていく。この時点で2000万ドルストロングゼロ200本だ。うひょー。

 このまま徐々に規模を拡大していけば所持金がとんでもないことになるぞと期待した経営18年目、大変なことが起こった。

 雇用するスタッフの数が上限を迎えてしまったらしく、しっかりと「スタッフ定員到達」と表示された。新たに人を雇えなくなってしまったわけだ。どうやら全体で75名が上限らしい。

 これは大きな誤算だった。このゲームは、基本的に新たに人が雇えないとそう大きなことができないという特徴がある。この部屋が混んできたからもう2,3個ほど設置しておくか、とやっても、そこに入る人員がいないわけである。むしろ、いたずらに設備を増やすと人手不足に陥り、一気に評判が下がって瓦解する危険すらある。

 普通なら、この時点でこれ以上、病院の規模を大きくはできないので満足して終わるか、それとも別の評価軸、患者の満足度を極限まで上げるとか、病院の価値を極限まで上げるとか、そういった方向にやりこみを進めていくのだと思う。けれども、僕は事情が違う。とにかく、金、金、金、なのである。すべてはストロングゼロのために。

 現時点では病院経営が完全に軌道に乗っているので、ほぼ放置していても金が増え続ける状態だ。ただし完全放置というわけにはいかない。きちんと見張っていないと機械がぶっ壊れて火災が起こることがあるし、ランダムに起こるイベントも手動で受託し、時にはそのイベントを効率よくクリアするために手動で人を配置したりする。おまけに「待遇が悪い」と辞職を匂わす職員も出てくるので、そうなったらなんとか、なだめすかして残留してもらわねばならない。

 これらを放置しているといっきに設備が廃れ、人手不足になり、経営が瓦解する。そして、1年の最後には総決算みたいな画面が表示されるので、それもスキップできないのでしっかりと見なくてはならない。つまり放置しながら別のことをやるってのは、なかなか難しい。ずっと画面を眺めながらうっとりと、これでストロングゼロが200本かあ、夢が広がるなあと、増えゆく金を眺めてゆくのである。完全に守銭奴のそれだ。

 経営25年で所持金が3000万ドルを突破。ストロングゼロ300本である。ちなみにこのゲームは時間の経過を止めたり早めたり遅くしたりできるのだけど、早送り状態でプレイすると1年経過するのに20分くらいかかる。25年だと500分。8時間ちょっとだ。

 経営35年で4000万ドル突破。ストロングゼロ400本。もうめちゃくちゃなことになっている。400本、ケースにすると17ケースほどだ。ただ、その増え方が鈍化したように感じた。1000万ドル増やすのに10年かかっている。

 相変わらず病院の評判はマックスで振り切れているのだけど、院内を歩く人の数が減ったように思う。これがこのゲームの深いところなのだけど、完全に軌道に乗ったと思い、特に大きな変化をさせることがなくても、なにかのきっかけで一気に状況が変化する危険があるのだ。

 経営48年で5000万ドル突破。ストロングゼロ500本。こんどは1000万増えるのに13年かかった。明らかに収益のペースが鈍化している。

 ついに、単月でみると赤字を叩き出すようになってしまった。あんなに順調だったのになぜ。このままではまた一気にジリ貧状態になってしまう。早めに手を打たねばならない。

 何が原因なのかと隅々まで病院を監視していると、妙に「総合診察室」の待ちが多いことに気が付いた。この部屋は適切な数が整備され、それを補う人数の医師が雇用されているはずなのに、かなりの待ちが発生している。観察していると、診察室を不在にしている医師が多いようだ。

 じゃあその医師たちは診察をほっぽり出してどこにいっているのか、探してみると意外な場所にいた。

 なんかめちゃくちゃ揉めてる。

 ここはスタッフが休憩するためのスタッフルームで、疲労を取るために必ず設置しなくてはならない部屋なのだけど、そこで医師や看護師が密集して揉めている感じがする。ここでずっと揉めているから診察室や治療部屋が空いてしまい、収益に悪影響を与えている。

 おそらくこのスタッフルームで何らかのドラマが展開しているのだと思う。まさかあ、そこまで緻密に各個人が個性を発揮しているの? と思うかもしれないが、そうとしか考えられないのだ。

 じつは、医師たちが多く集まる「総合診察室」密集エリアにも立派なスタッフルームを整備している。立地も設備もさきほどのスタッフルームより立派なやつだ。サッカーボールのオブジェまで置かれている。けれども、ここを誰も使わないのだ。面白いくらいだれもここで休憩しない。

 それで、医師たちはわざわざ遠くにあるこの小部屋のルームに歩いてきて揉めている。普通に考えるとここで何らかのドラマが展開されていると考えるべきだ。

 このスタッフルームの人間模様を眺めていると、マーク・カザグルマという医師が揉め事の中心にいるような感じだ。その彼のステータスを見てみた。

 「片思い中」

 ぜったいにマーク・カザグルマが揉め事の中心だ。エネルギー十分に片思いしとる。しかも「不機嫌」とあるので、どうやらその恋は上手くいってないようだ。ではこの片思いの相手は誰か。

 色々と観察していると、どうもマーク・カザグルマ医師の動きが、エイミー・ハリネズーミ医師に対してだけ少しぎこちない感じがした。

 彼女のステータスに「魅力的」とある。おそらく、マーク・カザグルマ医師の片思いの相手はこのエイミー・ハリネズーミ医師で、そして彼女は魅力的なので色々な人に好意を寄せられ、まるでドラマのような恋模様やいざこざがこの小さなスタッフルームで展開されているのではないだろうか。

 とにかく、経営に影響を与えるレベルの揉め事は困るので、このスタッフルームは閉鎖して治療室に作り替えた。

 もうひとつ、収益を安定させる秘策を思いついた。色々と病院を眺めていて気が付いた。

 姿が犬のようになってしまう「いぬばか症」という疾病がある。これを治療するには「犬小屋」という設備が必要となる。どうやらこの治療、なかなか効率が良いのだ。

 まず、治療した際の収入が大きい。他にも報酬の大きい疾病はあるのだけど、この「いぬばか症」の治療には医師ではなく看護師があたることができる。もう医師は手一杯なので看護師があたることができる利点は大きい。治療にもそんなに時間がかからない。けっこうサクサクと進む。そして、現実的な頻度で患者がきてくれるのだ。

 これをもっと治療することができれば収益が安定するはずだ。具体的には、複数の「犬小屋」を設置することが大切になる。ただし、それだけでは「いぬばか症」の患者がきてくれるわけではない。

 そこで「マーケティング室」によるマーケティングを利用する。このマーケティング室では病院自身をPRするキャンペーンと、特定の病気に対するキャンペーンが行え、患者を呼び込むことができる。

 ここで「いぬばか症」のキャンペーンを継続して行うことにより、「いぬばか症」の患者がより多く押し寄せてくれるようになるのだ。そこに複数設置した犬小屋で効率よく治療していき、収入を得ていく。この病院に「いぬばか症」治療あり、みたいな状態になればかなり効率よく治療でき、収入が安定する。

 経営57年で6000万ドル突破。ストロングゼロ600本だ。もう! そんなに飲み切れないよ!

 25年 3000万ドル
 35年 4000万ドル
 48年 5000万ドル
 57年 6000万ドル

 この施策が完全に当たりだった。1000万ドル稼ぐペースが13年と鈍化していったところが大幅に改善され、9年で消化できるようになった。

 経営68年で7000万ドル突破。ストロングゼロ700本

 経営78年で8000万ドル突破。もう止まらないぜ! ストロングゼロ800本!

 経営88年で9000万ドル突破!うおおおおおおおお。ストロングゼロ900本!!!

 ここにきて一つの懸念が生じた。この所持金、9999万ドルでカンストしちゃうんじゃないかという点だ。つまりストロングゼロ999本で終わっちゃうんじゃないだろうか。冗談じゃない。こちとらここで一生分のストロングゼロを稼ごうと思っているんだ。9999万ドルでカンストされちゃ困る。

 経営97年経過で9998万ドル。くるぞくるぞ、カンストしないでくれ。上の桁までいってくれ! 頼む! 神様! こい!

 1億ドル。ストロングゼロ1000本

 上の桁あったああああああああああああああああああ!

 カンストせずに上の桁あった。こりゃもう確実に9億9999万ドルまでいくじゃん。ストロングゼロ9999本いくじゃん。1日に3本飲んでも3333日。およそ10年飲める。そんなに酒浸りだったらたぶん途中で死ぬからこれはもう一生分ってことでいいだろ。

 ただ、そうやって一生分のストロングゼロを稼ぐにはもうひとつ懸念事項がある。

 この経過年度のところ、どう考えても二桁しかない。つまり99年でカンストする可能性が高い。そうなると、あと2年ほどしか時間が残されていないわけで、さすがに一生分のストロングゼロを稼ぐことが難しい状況に追い込まれてしまう。

 頼む、99年でカンストしないでくれ。

 そして、ついにその時はやってきた。

 経営99年目、12月31日。所持金1億228万ドル(ストロングゼロ1022本)

 頼む。99年で終わらないでくれ。こい!

 経営100年目。

 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 3桁目あったああああああああ! しかも感じ的に999年までありそう。それだけあれば絶対に9億9999万ドル(ストロングゼロ9999本)いく。絶対に行く。うおおおおおおお!

 といったところで、さすがにいつまでも締切を引き延ばせないので、ストップがかかり、経営100年で打ち止めとなりました。そうか、さすがに999年までやるのはあかんか。もう締切、引き延ばせないか。

 ということで結果。

 経営100年
 所持金 102,070,278ドル(ストロングゼロ1020本)

 ということで、守銭奴がストロングゼロをもらえると信じ込んで経営ゲームをプレイすると、ゲームとしてあまり大きくやることがなくなったとしても、一生分のストロングゼロを稼ごうと延々とプレイを続ける、ということが分かった。


 今回、「ツーポイントホスピタル」をプレイしてみて、病院にはドラマがあるとつくづく思った。このゲーム内においても、患者の動きやスタッフの動きを100年分も眺めていると、様々なドラマが連想できた。やはり病院には人それぞれのドラマがあるのだ。

 多くの場合、病院は体に不調をきたしたときに訪れる。いうなれば日常から切り離された存在だ。必然的に日常と切り離されるため多くの想いやドラマが生じるのではないのだろうか。ということで、最後にもう一度、病院の思い出を語らせていただきたい。

 そろそろ僕も退院かというとき、お兄さんが病院からいなくなった。

 何があったのか僕には教えてもらえなかった。ただ、一日がかりの検査を終えて病室に戻ると、お兄さんのベッドは綺麗に整頓されて何もなくなっていてガランとしていた。お兄さんは何も言わず、そんな素振りを見せることなくいなくなった。

 ただ、その週のジャンプだけが、僕のベッドに置かれていた。

 しばらくして退院した僕は、親に交渉し、毎週、ジャンプを買えるだけのお小遣いをもらえるようになり、欠かさず購入した。それはすっかりジャンプを読む習慣がついてしまったのもあるし、続きが気になる漫画もあった。それよりないより、ジャンプを買い続けることで、あたかもお兄さんと笑いあったあの日が続いているように感じたのだ。

 しばらくは欠かさずジャンプを購入していたのだけど、そうもいかない事件が勃発した。ジャンプが10円値上げされたのだ。ギリギリ買えるだけのお小遣いしかもらっていなかった僕は、親に交渉したけど小遣いアップは認められなかった。こうして毎週のジャンプ購入を諦めることになったのだ。

 ジャンプを買えなくなった瞬間、はじめて僕の中のお兄さんが消えたことを実感した。ガランとしたベッドを見たときも、置手紙のように置かれたジャンプを見たときも感じなかった感情が、10円値上げされたことで押し寄せてきたのだ。

 もう、お兄さんには会えないんだ。

 きっと、あのとき、お兄さんは転院したんだと思う。そして病気を治して今でも元気に暮らしていると思う。けれども連絡先もしらない僕らは会うことはない。お互いに元気でいたってもう会うことはないのだ。

 ジャンプの10円の値上げでそれを実感した僕は、ただただ泣いたのだった。

 僕は酔っぱらうとこの話をする。ジャンプの10円値上げによってお兄さんを失った話をする。それはきっと、今でもどこかで元気にしているお兄さんとお酒を酌み交わしている感覚なのかもしれない。

 今回、ツーポイントホスピタル守銭奴プレイでいただけることになった1020本のストロングゼロ、これを飲みながらまたお兄さんを思い出し、酒を酌み交わしたい。

 その際には守銭奴プレイではないまっとうなプレイでこのツーポイントホスピタルをプレイしたいものだ。きっと、忘れてしまっていた病院の思い出をまた思い出すに違いないから。

 「ヨッピーさん、10200万ドル稼いだのでストロングゼロ1020本ください」

 「は?」

 勝手に信じ込んでいただけなのでまったく話が通じなかった。

 おわり

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著者
pato
テキストサイト管理人。好きな言葉は「人の心を動かすのは才能ではなく、真摯さとひたむきさ」。ストロングゼロ(ダブルレモン)と稲村亜美さんの存在だけで自分の人生は救われると本気で信じているおっさん。
ブログ:  多目的トイレ Twitter: @pato_numeri
編集
自称“無職”のボードゲーム好き。
ライターとしてさまざまな媒体で面白記事を執筆。
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