(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 10月19日午前、北朝鮮日本海に向けて弾道ミサイルを発射した。岸田文雄首相はミサイルが2発発射されたことを明らかにした。

 北朝鮮は軍事政策のなかで日本を明確に潜在敵と位置づけ、核弾頭装備のミサイル攻撃の標的に含めている――米国の国防総省が10月15日に発表した「2021 北朝鮮の軍事力」という報告書からは、日本が切迫した脅威に直面している状況が明確に伝わってくる。

 北朝鮮は日ごろ日本を敵視する言動をとりながらも、その敵視の全体図や背後の基本政策は不明確のままである。だが、米国の同報告書は北朝鮮の対外政策における軍事的な対日敵視姿勢を詳細に論じている。

 また同報告書は、北朝鮮政府の情報機関が日本国民を拉致したと明記して、日本人拉致事件の基本構図も改めて鮮明にしていた。

日本は核ミサイル攻撃の標的

 米国の国防総省の国防情報局(DIA)が公表した「北朝鮮の軍事力」と題する報告書は約80ページにわたり、北朝鮮の軍事的基本戦略や兵器体系、脅威などを詳しく伝えている。

 同報告書は、北朝鮮が米国からの圧力にもかかわらず、なお核兵器の地下実験や長距離弾道ミサイルの発射実験を続ける意図を捨てていないことなどを述べていた。同時に日本にとって注目されるのは、北朝鮮の日本に対する軍事面での戦略や認識を多角的に記述している点である。

 同報告書によると、北朝鮮は自国政権を朝鮮半島での唯一の正当国家とみなし、武力を行使してでもその国家としての独立性を保ち、朝鮮半島の統一への野望を追求することを基本目標としている。そのための手段が、強固な軍事力、とくに核兵器と各種ミサイルであるという。

 そのうえで同報告書は、北朝鮮の軍事面での日本の位置づけや認識として以下のように述べていた。

北朝鮮は歴史的にも現在も、米国を最大かつ最も切迫した外部からの国家安全保障への脅威とみなすが、韓国と日本の存在は、米国の北朝鮮に対する侵略活動の延長と位置づけてきた。日本は韓国とともにイデオロギー面でも北朝鮮の敵であり、とくに日本のここ20年ほどの軍事能力の増強は北朝鮮の軍事面での対日警戒を高めた。

北朝鮮は日本を韓国とともに米国の同盟国としての直接の脅威とみなし、核弾頭装備も可能な弾道ミサイル攻撃の対象として、日本国内の主要都市や米軍基地を標的としている。北朝鮮による韓国に対する通常戦力は近年、その増強のペースが緩やかとなったが、日本を標的とするミサイルや核の戦力は急速に強化・拡大している。

北朝鮮は日本を標的とするミサイルとして短距離スカッドの改良型の一部、さらには対日用の主力ミサイルとして準中距離弾道ミサイル(MRBM)のノドンを配備している。北朝鮮2017年7月には、大陸間弾道ミサイルの火星(ファソン)14号を高度に打ち上げて日本海へと着弾させたが、長距離ミサイル日本国内の米軍基地グアム米軍基地の攻撃に使う戦略も保持している。

北朝鮮は日本を明らかに敵性国家として位置づけながらも、必要に応じて日本政府と接触するルートを残している。2016年日本人拉致事件への対応として日本政府の代表団と会談したのはその一例である。

 以上から明確に伝わるのは、北朝鮮が日本を確実に軍事面での敵とみなしていることである。これが日朝関係の真実なのだといえよう。

日本人拉致は政府情報機関の犯行

 米国防情報局の報告書は以上のように北朝鮮の日本認識について伝えながら、日朝間の主要懸案である日本人拉致事件についても触れていた。

 同報告書は北朝鮮の情報機関が軍事力の一端であるとし、以下のように述べていた。

北朝鮮の主要情報機関は朝鮮人民軍偵察総局、朝鮮人民軍保衛司令部、朝鮮労働党統一戦線部、国家保衛省などであり、その活動の主な対象は米国、韓国、日本である。1970年代から80年代にかけて日本人を主として日本国内から拉致したのも、これら情報機関の活動の結果だった。

 日本人の拉致は北朝鮮政府の工作員が首脳部からの命令を受けて実行したことは現在では明白となっているので、以上の記述は自明だとはいえる。しかし拉致事件に直接の関わりがなかった米国当局が、改めて北朝鮮政府の情報機関の犯行だと公文書で言明したことは、日本の拉致問題が国際的認知を得るうえで意味があるといえよう。

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