長引くコロナ禍で改めて自分の人生を見つめ直す。そして、「仕事や会社がすべてではない」と気づいた中年たちは、生きがいを求めて趣味に走る。何か新しいことに挑戦したい——。その気持ちは大切だが、「衰えた挑戦者」が若かりし頃と同じ感覚でいると、ときには身体的、精神的、金銭的な危機に直面する。アウトドアや登山、自転車は中年の人気趣味だが、思わぬ落とし穴が隠されている。

◆中年の登山グッズにご用心

 実生活ではなかなかトップに立てないが、時間とカネには余裕のできた中年たちは、手頃な達成感を求めて山の頂を目指す

 しかし、年間260万人が登り、東京都民には「楽な山」として認知される高尾山ですら、年間100件程度の遭難者が発生し、滑落による死者も出ている。登山好きで山やアウトドアの情報をブログで発信しているディーアイさん(35歳)は近頃、無謀な中高年が増えていると警鐘を鳴らす。

「山は天気が崩れやすいので、十分な備えもなく踏み入ることは、とても危険です。にもかかわらず、私が夏山ですれ違った中年のハイカーのなかには、綿のTシャツ、ジーパン、スニーカーという格好の人がいました。背負っているリュックを見ると普通の雨傘がささっていたので、おそらく登山用の雨具は持っていなかったのでしょう。山で天候が悪化したときには、傘は強い風に飛ばされ、役に立たず、ジーパンは濡れて動きにくくなります。急な大雨によって山で風雨にさらされると、真夏でも低体温症になってしまう人もいます」

◆ミスをしても中年には誰も注意してくれない

 山は人間の思い通りにはいかないし、予想をくつがえす事態がつきものだ。しかし、プライドが高い中年の間違いを指摘することは面倒事の種になりかねないという。

「どんな組織や集団においても、新人時代とは違い、中年になるとミスをとがめる人が減りますが、それは登山でも同じこと。無自覚のうちにどれだけ危険なことをしていても指摘してくれる人は少ない。自分の身を守る術は自分で調べて備えるしかないのです」

 どれだけ人生経験を積んでいても、大自然相手では敵わない。初心者は情報収集を徹底し、身の丈に合ったレベルの山から攻め、経験を積んでいくしかない。

自転車は小金持ち中年の人気趣味

 春や秋に、道路をロードバイクで風になって駆け抜ける快感は、懐に余裕のある大人にのみ許された贅沢だ。中年の人気趣味の一つである自転車に、松倉友樹さん(39歳)も魅了されたひとり。

「入門モデルですら10万円から。高級モデルやカスタムパーツに手を出せば、100万円を超えます。この世界では、高くて新しいモデルほど乗り心地がよく、走りが楽になるので、財布が許す限り、いいものを欲しくなってしまう」

 だが、そんな高額商品にもかかわらず、盗難にはきわめて脆弱だ。

◆高級自転車盗難の悲劇

「私の仲間内では、5人中1人の割合で盗まれています。もともとロードバイク界隈では、中古パーツの流通が盛んゆえ、そこに盗品が紛れ込んでも、ほぼ判別困難です。例えばいいホイールは前後で最低でも10万円しますし、ブレーキ機構や変速ギアなどのパーツも高価です。これらはシリアル番号の刻印がないため、盗んだ自転車を分解して売りに出されたらもう追跡できません」

 当の松倉さんも、新車で買えば100万円の高級愛車を盗まれ、ヤフオク上でパーツ売りされた

◆盗まれたパーツヤフオクで自ら落札

「私の愛車がなくなったタイミングで、同じ型のレアなパーツが出品されていたので、状況証拠的には出品者はクロ。でも、警察もヤフオクも対応してくれない。その出品物が、私の所有物である証拠がないと警察は動けないし、警察が動かなければヤフオク側も出品を止められない。各パーツに特有の印をつけておけばいいんでしょうが、そうすると自分がそのパーツを売るときに困るし、なにより愛車にあえて傷をつけたくない」

 盗まれたパーツを自らヤフオクで落札し、犯人を追い詰めた松倉さん。恐怖だったという。

【ディーアイさん】
山好きが高じて信州へ移住。ブログのぼるひと」で、山行記録や登山用品情報を発信中

【松倉友樹さん】
趣味で始めたトライアスロンを契機に中古ロードバイクを購入。愛車は「Specialized S-Works Tarmac

取材・文/鶉野珠子・真島加代(清談社)

―[やってはいけない!]―


趣味で始めたトライアスロンを契機に中古ロードバイクを購入した松倉友樹さん(39歳)