パタハラ(パタニティ・ハラスメント)という言葉を聞いたことはありますか? 育児休暇制度を利用しようとする男性、または利用した男性への嫌がらせです。対義語で一般的によく知られているマタハラ(マタニティ・ハラスメント)もあります。マタハラは妊娠をしている女性や育休を取得して出産を終えた女性への嫌がらせです。

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※画像はイメージです(以下同じ)
 2021年6月に改正育児・介護休業法が成立しましたが、日本では育休は女性が取得するものという考えが根強く残っているため、男性の育休取得によるパタハラ被害への懸念もあります。本記事ではハラスメント専門家の筆者(村嵜要)が職場でパタハラ被害に遭わないための対処法と、パタハラと呼ばれないアドバイスをお伝えします。

男性の4人に1人がパタハラ被害に

 2021年4月に厚生労働省が発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去5年間に勤務先で育児に関する制度を利用しようとした男性労働者の26.2%が、育児休業などを理由にした嫌がらせ(パタハラ)被害の経験があると回答

 内容としては「上司による、制度等の利用による請求や制度等の利用を阻害する言動」が53.4%と最も高く、育児休業の利用を42.7%の人が諦めた経験があることがわかりました。改正育児・介護休業法が成立したことで、現行育休制度がどのように変わるのか? 厚生労働省のホームページより一部抜粋した法改正の主なポイントを見ていきましょう。

 育休取得は原則子が1歳(最長2歳)までとされてきましたが、新制度では子の出生後8週間以内に4週間まで取得することができます。原則1か月前までとされてきた申出期限は原則休業の2週間前までとなり、育休を分割して2回取得することもできるようになります。労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することもできます。

 総じて新しい制度では、出生直後の時期に柔軟に育休を取得できるようになっています。また、「育休を取得するかどうか」を会社が直接従業員に意思確認することも義務付けられました。これは、すべての事業主に適用され、2022年4月より順次施行されます。

男性の育休取得率が上がるかもしれない

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 法改正で期待できるメリットとしては「男女問わず育休を取得しやすくなる」「男性が出世を気にして育休取得を諦めなくてもよくなる」「夫婦でお互いのキャリアプランを話し合った上で多様な働き方、子育てを両立できる」などと考えられます。

 まとまった休みを取得しづらい業種の人も「分割取得」を活用することで子育てに専念することができます。何より「育休が取得しやすい社内の雰囲気」に期待する人も多いでしょう。

育休取得に否定派の上司や経営者も

 今の日本企業では、「パタハラの認知度が低い」「男性の育休取得がまだ少ない」ため、自覚なくパタハラが発生してしまう可能性があります。また、本音では育休を取得してほしくないと思う上司や経営者、パタハラの認識がない人が職場にいると筆者は考えます。実際に「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認証を受けた企業で働く男性が、パタハラ被害に遭ったとして裁判に発展した事件もあります。

 2019年スポーツ用品大手のアシックスの男性社員が、育休取得直後の配置転換は不当でパタハラにあたると、精神的苦痛への慰謝料440万円を求め、東京地裁に同社を提訴しました。男性は当時、東京都内でプロモーション業務などを担当。約1年間の育児休業を取得して、職場復帰直後に茨城県の物流センターへの出向が言い渡されました。

 育休取得前の業務とは全く違う業務を命じられたのです。出向期間が解かれ、東京都内のオフィスに戻ることになりましたが、業務命令はなくなり、再び育休取得前の本来の業務とは違う社則の英訳作業などの業務をしていたとのことです。

 その後、裁判が進み、2021年に男性が所属する「首都圏青年ユニオン」がアシックスと和解したことを明らかにしました。アシックス2007年に「子育てサポート推進企業」として厚生労働大臣認定の「くるみマーク」を取得していたのに、この有様です。

安心して育休を取得するために

通勤

 育休を取得しやすくなることは、とても良いことですが、職場でパタハラと呼ばれてしまうことや、被害に遭うことも起こり得るため、1人ひとりが正しい知識を身につけて未然に防ぐ意識を持つことが大切です。

 パタハラに該当する発言、NG行為がありますので、実際にどのようなケースがパタハラに該当するのか見ていきましょう。

「育休取得したら、今のポジションにはもう戻れないぞ」「●●さんのせいで仕事が増えた」「男性が育休って、奥さんはなにしているの?」

 なかには「これもダメなの?」と思う発言もあるかもしれませんが、会社としては育休取得を認めていても、育休を取得させないように妨害し、こういった脅すような発言をすることはNGです。

パタハラに該当するNG行為とは?

 次にパタハラに該当するNG行為を見ていきましょう。育休取得前後の直後に以下のような行為をすると、育休取得への報復行為で不当だと主張されてもおかしくありません。

「異動させる」「プロジェクトから外す」「人事評価を悪くする」

 筆者が代表理事を務める日本ハラスメント協会がハラスメント調査をする場合、上記のような発言、行為はパタハラに認定しています。

パタハラ被害に遭わないための対処法

パワハラ防止

 最後に自分の身を守る「パタハラ対策」を見ていきましょう。パタハラ対策の1つ目は、過去の育休取得率、過去に育休取得についてトラブルはなかったかを可能な範囲で事前に調べておくことです

 2つ目は、人事部、総務部などの管理部門に育休取得について不明点を確認しておくこと。3つ目に就業規則に記載されている育休の規程を事前に確認しておくことです

 いずれもすぐに調べられることなのでチェックしておくとよいでしょう。もしもパタハラに遭ってしまった場合は、育休取得前後に上司や人事部、総務部など育休取得について相談したことや確認した事実を時系列で記録として整理しておき、会社にハラスメント相談窓口が設置されている場合は利用しましょう。

 設置されていない場合は労働局の総合労働相談コーナーに相談する方法もあります。家族、友人、信頼できる方に相談して1人で抱え込まないことも大切です。

育休を取得する人も周囲への配慮が大切

仕事

 育休中の人に業務の確認のため電話をしたところ、対応の悪さや電話がつながらない等の理由から後々トラブルになり、パタハラに発展してしまうパターンがあります。育休を取得する人も誤解されないように丁寧に対応することが求められます。育休は従業員が個々に与えられる平等の制度のため、取得する際は助け合いの気持ちが大切です。

 育休に入った人に引継いだ業務の確認が必要な場合に備えて、連絡先、連絡がつきやすい時間帯を把握しておくことでトラブルを避けることもできます。男性の育休取得率が上がることが期待される中、職場でパタハラを生み出さない、被害に遭わないためにも本記事がそれを考えるきっかけにしてほしいと思います。

TEXTハラスメント専門家 村嵜 要>

【村嵜 要】

1983年大阪府出身。ハラスメント専門家。会社員時代にパワハラを受けた経験があり、パワハラ撲滅を目指して2019年2月に「日本ハラスメント協会」を設立。年間50社からパワハラ加害者(行為者)研修の依頼を受け、パワハラ加害者50人を更生に導く。 Twitter:@murasaki_kaname

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