関西で古くから親しまれているお菓子に「ぽんせん」という、小麦粉生地のせんべいがあります。兵庫県朝来市にある創業61年の「ぽんせん」メーカー、マルサ製菓が工場火災に見舞われ、完全復活に向けた資金をグラウドファンディングで募集しています。

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 小麦粉の生地に圧力をかけて焼き、焼き上がりに「ポン」と膨らむことで、ふわふわ、サクサクの食感が生まれる「ぽんせん」。関西地方では、その素朴な味わいが長年にわたって親しまれてきました。

 今回、クラウドファンディングを立ち上げたのは、兵庫県朝来市にある「ぽんせん」メーカー、マルサ製菓の佐賀建斗さん。代表者の息子さんで、2021年5月にお母様が病に倒れ仕事を続けられなくなったため、急遽大学を休学して家業を手伝っています。

 マルサ製菓は1960年大阪市旭区で創業。初めはさまざまなお菓子を作っていたそうですが、やがて「ぽんせん」専業となり、自社で製造機械も開発して業務を拡大してきました。豊かな自然の恵みと清らかな水を求め、現在の兵庫県朝来市に移転したのは1991年のことです。

 朝来市特産の「岩津ねぎ」を材料にしたサラダ味のぽんせんをはじめ、さまざまなご当地ぽんせんも手掛けるなど、順調に業績を重ねてきたマルサ製菓。悲劇に襲われたのは、2019年12月のことでした。

 突然の火災で工場の1棟が全焼。中にあった、ぽんせんの乾燥機など機械類の一部、独自開発した製造機の図面も焼損してしまいました。約1年間の休業を経て、残された設備でぽんせんの製造を再開したのは2020年の10月です。


 悲劇はまだ続きます。2021年5月、建斗さんのお母さんが脳幹出血で倒れてしまいました。幸い、一命はとりとめたものの、今も左半身にまひが残る状態だといいます。

 マルサ製菓は建斗さんのご両親のほか、従業員2名の小さな会社。経営や財務、販路拡大や商品企画といった業務は、建斗さんのご両親がぽんせん製造のかたわら、二人三脚で行ってきました。

 お母さんが倒れたことで、分担していた業務は社長である建斗さんのお父さん1人の肩にのしかかります。そこで建斗さんは、大学に2年間の休学届を出して帰郷。家業を手伝うことにしたのでした。

 工場火災の影響で、半自動でぽんせんを焼く機械は4台のうち、1台しか稼働状態にありません。大きな乾燥機もなくなってしまったので、製造現場は創業時と同じような、ほとんど手作業の状態に逆戻りしてしまいました。

 さらに原料価格の高騰や新型コロナウイルス禍も直撃し、価格も上げざるを得ないことに。製造量も少なくなってしまったことで、取引先も半減してしまったといいます。

 そんな中、マルサ製菓の人々を勇気づけたのは、根強いファンの声。火災後にスーパーから商品が消えたことで問い合わせが殺到し、多くの人から「昔ながらのぽんせんはマルサしかない」という声をかけられたことで、復活を決意したそうです。

 現在、マルサ製菓が作っているのは甘辛い「しょうゆ味」、香ばしい「丹波黒豆味」、ピリッと辛い「ピリ辛一味」の3種類。これには事情があり、どれも基本の「しょうゆ味」がベースになっていて、乾燥させる際のパレットが共用できるものとなっているのです。

 ご当地の「岩津ねぎ」をはじめ、ほかの味を作る際には味が混ざらないよう別のパレットを使う必要があり、基本の「しょうゆ味」シリーズと同時に作ることができません。そこで、ぽんせん作りの完全復活を目指し、クラウドファンディングで資金を募集することになりました。

 目標額は300万円。不成立でも全額が計画に充当されるAll-in方式で実施されますが、建斗さんに話をうかがうと「ほとんどの金額がリターンの商品に消えてしまうので、乾燥用のパレットを買い足し、うまくいけば2台目の製造機械が修理できるかどうか……という感じです」とのこと。

 建斗さんは「とにかく、多くの人に『ぽんせん』を知ってもらいたい。その上で、マルサ製菓を支援していただけると嬉しい」と語ります。マルサ製菓のぽんせん完全復活を目指すクラウドファンディングは、CAMPFIRE11月30日まで実施中です。

<記事化協力>
マルサ製菓(@marusaseika_pon)http://www.marupon.jp/

(咲村珠樹)

火災に見舞われた「ぽんせん」メーカー 復活に向けクラウドファンディング開始