「彼は希望を持って山形でアナウンサーに挑戦したはずでした。それなのに、入社してからまだ1か月もたたない時期に先輩社員から『死ね』というLINEが送られてきたんです。彼はその後も新しい職場で一生懸命働いていたのですが、入社3年目の今年、ついに限界を迎えてしまったんです…」

 こう語るのは今年4月から休職しているさくらんぼテレビアナウンサーAさんの知人だ。

 さくらんぼテレビ山形県を拠点としたフジテレビ系列の地方局。今年で開局25周年を迎え、地方局としては珍しく中途でアナウンサーの正社員採用があるため、それを目指して入社する人も多い局だという。Aさんも、かつて抱いたアナウンサーという夢に再チャレンジし、見事狭き門を突破したひとりだった。

 しかし現在、社のHPに掲載されているアナウンサー7人のうちAさんを含めて2人が休職している。また、2年前には全社員約60人のうち4分の1にあたる15人以上の社員が一気に退職するという異常事態も起きていた。

 普通の企業では考え難い状況の裏には、社内で横行するハラスメントの数々があったという。文春オンラインAさんの知人や複数のさくらんぼテレビ現役・元社員から、局内での過酷な勤務実態の証言を得ることができた。(全2回の1回目/#2を読む)

◆◆◆

自分以外の社員と親し気だったのが気に入らなかった…?

 前出・Aさんの知人が続ける。

「Aにハラスメントをしていたのは主に報道部の副部長を務めていた先輩社員のXという人物だと聞いています。アナウンサーは報道の現場に携わる機会が多く、Xと取材することも何度かあったようです。Aは入社後、新しい職場に少しでも早く馴染めるように、先輩社員たちとも積極的にコミュニケーションを図っていたようでした。ところが、Xは自分の派閥を作りたがる性格だったようで、後輩であるAが自分以外の先輩社員と親し気に接していたのが裏切りだと思ったのかもしれません。Aは『深夜に何の脈絡もなく、突然Xさんから『死ね』というLINEが送られてきた』と言っていました」

 X氏はもともと新人に対する厳しい指導で知られていたそうだが、Aさんへの態度は傍から見ても異常なものだったという。

 AさんとX氏とのやり取りを目撃したある現役社員は、「XのAへの言動は『厳しさ』という言葉ではとても表現できない、理不尽さを感じるものでした。まるでAだけを目の敵にしているようでした」と語る。

「Aは入社してから2~3か月たった頃に『X氏からスマホを投げつけられた』と言っていました。Xが席を外しているときに彼の携帯がデスクの上で鳴っていたのですが、Aは他人の携帯に勝手に出るわけにもいかないので自分の仕事をしていた。するとXが走ってやってきて、スマホを手に取ると、思いっきりAの方に投げつけて『取れや!』と怒鳴ったんだそうです。でも、きっと電話に出たら出たで勝手に出たことで怒ったでしょうし、Aにしてみればあまりにも理不尽な怒鳴られ方です。機嫌が悪いと何をされるか分からないので常に気を張っていなければならず、Aは日々強いストレスを感じているようでした」

休日は月に2日以下、休職中の女性を「Aが妊娠させたから」と吹聴される

 それでもAさんは新人という立場もあり、理不尽な環境の中でも新しい職場に慣れようと必死に努力を続けた。一時期はほとんど食事もとれないような状況で、急激に体重が落ちたという。ただ、2年目からは責任のある仕事も任されるようになり「これはやっていけそうだ」と思っていたそうだ。

 しかし、2年目になってもX氏からのハラスメントは絶えることがなかった。

 1か月で2日間しか休みをとれないような多忙を極めるアナウンサー業の中で、ようやく取得した休日にも警察の会見への出席を強要されるなど、Aさんはどんどん疲弊していったという。

「面と向かった暴言のほかに陰口も言われていたようです。例えば、部署の女性社員が体調不良で休職した時には、Xが『Aが妊娠させたから休んでいる』といった根も葉もないでたらめを言いふらしていたようです。その女性社員が休職した理由はXのパワハラが原因なのですが、自分の責任を棚に上げて、酷いセクハラ発言で2人を傷つけるようなことをしたんです」(前出・現役社員)

重なるパワハラと過酷な労働で、精神がボロボロに

 また、Aさんが受けたパワハラはX氏からだけではない。ベテランカメラマンのY氏からも「目をつけられていた」と前出の現役社員が続ける。

「Y氏はさくらんぼテレビの開局から勤めている古株カメラマンということもあり、取材現場では大きな影響力を持っていました。彼の機嫌を損ねると撮影が進まないため、周囲は常に気を使っていました。Y氏は自分を頼ってくる後輩は可愛がりますが、1人で仕事を回せてしまうAのようなタイプは嫌いだった。取材中、『蹴るぞ』と脅されたり、『どけよ』と体当たりされた社員もいました。Aに対しても山形駅前という公衆の面前で数十分にわたって怒鳴りつけたり、『俺の(撮った)ニュースを笑った』などといった被害妄想に満ちたメッセージをAに送り付けたりしていたようです」

 X氏やY氏からのハラスメントに加え、前述のような過酷な勤務状態も重なって、Aさんはついに昨年度末に40度近い高熱を出して倒れてしまう。

「その場で医者からすぐに精神科に行くように勧められたと言っていました。精神科の先生には『働いてはいけない。もう精神がボロボロになっている』と言われてしまったようです」(前出・知人)

 Aさんは今年4月1日には会社に休職することを報告。4月末には無理を押して番組に出演もしたが、人前に出られる体調ではないことを自覚し、5月からは完全に休職しているという。

 折に触れて相談を受けていたAさんの知人はこう嘆息する。

「休職してパワハラから解放されるかと思いきや、『Aはずる休みをしている』『人に仕事を押し付けるダメな奴』とXが発言していたことがAの耳に入ってしまったのです。ただでさえうつ病でつらい時期に、Aにとっては酷い追い打ちだったと思います」

何度も『死ね』と言われて…「あそこは人をおかしくする場所」

 ハラスメントを理由にさくらんぼテレビを離れざるを得なかったのはAさんだけではない。数年前までさくらんぼテレビアナウンサーをしていたBさんは、文春オンラインの取材にこう答えた。

さくらんぼテレビの労働環境の悪さは有名です。東北の他局からは“山形の北朝鮮”なんて呼ばれているくらいです。自分がいたころもパワハラセクハラは当たり前でした。あそこは人をおかしくする場所なんです。今も、アナウンサーが足りないせいで、とある番組ではディレクターメインで出演していると聞きます。これは通常ではありえない異常事態です。自分がいたころよりも状況は悪化しているのではないでしょうか」

 Bさんがさくらんぼテレビに在籍した頃は、前出のX氏の前任としてZ氏が報道部の副部長を務めていた。

「Z氏は二面性がある人で、上司がいるときはニコニコして、イライラしているときは部下に暴言を吐いていました。部下を呼びつけて1時間近く叱責することは日常。自分も『死ね』と言われたことは何度もありますし、他の人にもそういった言葉を言っていたのを普段から聞いていました。部下を帰らせないようにプレッシャーをかけることもしょっちゅうでした。自分よりも立場が低い人間を攻撃する弱い者いじめが好きな人です。ある男性社員は、備品が紛失した時に、何の根拠もなく『お前がなくした』とZ氏に責任を負わされました。彼は2、3日の間その備品探しだけを延々とさせられ、結局、その備品は彼とは関係ないところから発見されたのです。しかし、Z氏から謝罪の言葉は一切ありませんでした」

会社が長時間労働を強要する体制

 Aさんを苦しめた長時間労働についても、Bさんは「会社がそれを強要するような体制になっていた」と語る。

さくらんぼテレビの勤務表は自分で勤務時間を記入したものを上司に提出します。当時は、まず副部長だったZ氏に勤務表を提出するのですが、残業時間が多すぎると認印を押してくれないのです。仕方なく、残業時間を少なく書き直して承認をもらったことが何度もありました(※さくらんぼテレビ側は「そのような事実はありません」と否定)。本当の残業時間を書いたら月に100時間を超えていたことも何度もあったと思います。幸い在籍中に自殺者が出たことはなかったですが、いつそういったことが起きてもおかしくない状況でした」

 記事内のハラスメントは証言のほんの一部でしかない。他にも記者のもとには数々の証言が寄せられた。

専務T氏の“独裁体制”がパワハラ体質の温床に

 では、なぜこれほどまでにさくらんぼテレビではハラスメントが横行しているのか? その原因として証言者が声を揃えて名指すのは、専務のT氏の存在である。

 前出の現役社員が語る。

「T専務はもともとフジテレビに出入りしていた制作会社の社員でした。さくらんぼテレビの開局にあたって彼は『開局準備室』に入ることになり、局の立ち上げにかかわることになったのです。そんな経緯もあってか、10年以上前から社内はT氏中心に動いていたようで、ある新入社員が『この会社はどうしてこの人中心に動いているんだろう?』と思うほど、あからさまだったようです。専務になった今では社の人事権を完全に掌握しているので、歯向かえる社員は誰もいないと聞いています」

 このT専務の“独裁体制”こそが、さくらんぼテレビの“パワハラ体質”の温床なのだとBさんも言う。

「多くの社員にパワハラめいた言動をしていたZ氏はもともとT専務の子飼いで、その影響を強く受けています。T専務自身もよく各部の部長をはじめとした管理職を誰かしら呼びつけては説教していて、時には2~3時間にわたることもあった(※さくらんぼテレビ側は「そのような事実はありません」と否定)。私たち現場のスタッフがいる前でも『お前は局長の器じゃねえんだ!』『俺が作ってきたニュースを全然わかってねえな』と叱責することもよくありました。とにかくその人のやり方を徹底的に全否定する。結果的に管理職はみんなT専務の顔色を窺ってばかりで、思考停止に陥っています。

 T専務は『おれは専務だぞ!』が口癖で、自身の叱責が終わった後には『お前らパワハラだと思うならそれで構わねえ』と開き直ったような態度をとることも多かった。そうやって社内のハラスメントを容認しています。そんな土壌があるからこそ、上司が変わってもハラスメントが絶えず、離職する人が後を絶たないのだと思います。フジテレビ系列はもちろん、県内の他の系列局内でも『さくらんぼテレビのT専務はやばい』という話は耳にしました」

証言者は「報復が怖い」とも…

 しかし、なぜこれほどまでハラスメントが横行している中で、誰も声を上げようとしないのか。Bさんはその理由についてこう語る。

「自分が正しいことを言っているという自信はあります。でも正直、報復が怖い。会社を辞めた後でも同じ業界で働いていれば変な噂を流される可能性もある。ある元社員も自身のSNSに捨てアカウントらしきアカウントから中傷めいた書き込みをされて怯えていました。ただ、私の証言で少しでも今働いている人たちの環境が良くなればと思います」

 さくらんぼテレビは多くの関係者の告発の声に対し、一体どんな答えを返すのか。10月14日、取材班はT専務を直撃した。

#2へ続く】

 10月21日(木)21時からの「文春オンラインTV」では本件について担当記者が詳しく解説する。

《全社員の4分の1が退社も…》「パワハラではないが『非常にあたりが強い』という話はあった」 “パワハラの温床”さくらんぼテレビの専務の言い分 へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

さくらんぼテレビ外観