(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

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 中国の第3四半期のGDPは前年比4.9%増となり、第2四半期の7.9%増から大幅に減速した。電力不足や供給制約が生産部門の打撃になったほか、新型コロナウイルス感染の散発的な拡大が消費を圧迫したとされている。

 今後の見通しもけっして明るくない。不動産大手の「恒大集団」経営危機を契機に不動産業の債務リスクが経済全体に波及するとの懸念が生じている。

不動産に依存する中国経済

 金融機関は恒大集団の破綻懸念から不動産企業への融資に慎重になっている。

 銀行融資とともに不動産企業にとって重要な“影の銀行”(シャドーバンキング)からの資金調達も難しくなっている。9月の不動産向け信託商品(理財商品)は318億元(約5600億元)と前月に比べて半分以下に減少した。

 不動産業を巡る信用収縮の状況を踏まえ、中国人民銀行(中央銀行)は「一部の金融機関は規制に対して誤解がある」として、安定的で秩序だった形で不動産融資を続けるよう金融機関に求めたことを明らかにした。

 人民銀行は「恒大集団の問題は個別の事象であり、リスクコントロール可能だ」との見方を示している。恒大集団の負債は約3000億ドルと確かに大きいものの、中国全体の与信総額の0.6%にすぎない。銀行などによるローンの比率は11%程度でしかなく、システミックリスクにはつながらないとの見方が現時点では一般的だ。

 人民銀行の金融機関に向けた声明で不動産業の資金繰りは一時的に緩和するかもしれない。だが、構造的な問題が解決されない限り厳しい状況が続くだろう。

「関連産業を含めた中国の広義の不動産業のGDPへの貢献度は30%弱に達する」という推計がある。日本や米国での不動産業のGDPへの貢献度が20%前後であることを鑑みると、中国経済の不動産依存が突出していることがよくわかる。

 増大する需給の不均衡の状況を見れば、住宅市場が今後大幅な長期調整を迎えるのは必至だ。また中国の高齢化率は約12%となり、30年前のバブル崩壊直後の日本と同じ水準となっている。少子高齢化の影響で世帯形成率が下がっており、持ち家に対する需要が減退することは間違いない。

 家計に与える打撃も深刻だ。家計の資産に占める住宅資産の比率は60%前後と米国の2倍の水準となっている。家計の負債は金融危機前の米国に匹敵する水準にまで上昇しており、不動産バブルの崩壊がもたらす逆資産効果の悪影響は計り知れない。

海外の投資家が「中国離れ」

 これだけでも中国経済のハードランデイング・シナリオは十分に描けるが、筆者の懸念は別にある。

 中国の不動産企業は、国内の銀行やシャドーバンキングに加え、金融市場からの資金調達も行っており、近年、国内外での社債発行が活発だった。経営状態の悪化が明らかになった恒大集団は9月下旬以降、元建て社債の利払いについては着実に実行している。傘下の企業も9月下旬に「期日を迎える理財商品について10%分の支払いした」ことを明らかにした。中国政府の指導かどうかはわからないが、今のところ国内の投資家は大きな被害に遭っていない。

 一方、海外の投資家の間では危機感が急速に高まっている

 恒大集団は9月下旬以降、米ドル建て社債(ドル債)の利払いを3回にわたって見送っており、未払い額は計2億7900万ドルに達している。最初の期日(9月23日)から30日後の10月23日までに利払いを実行しなければデフォルトと認定されることになっている。

 10月に入り、恒大集団以外の不動産企業が発行する社債のデフォルトも相次いでいる。花様年控股集団(ファンタジアホールデイング・グループ)が4日にドル債を償還できず、格付け会社から「部分的なデフォルト」を認定された。15日には香港上場の中国地産集団(チャイナ・プロパテイ-ズ・グループ)が「期日のドル債(2億2600万ドル)の元利金を支払えなかった」と公表した。新力控股(シニックホールデイング・グループ)も18日、2.5億ドル相当のドル債を償還できなかった。来年(2022年)1月の大規模なドル債の償還(計62億ドル)が迫っており、不動産企業が発行する社債のデフォルトは、今後増えることはあっても減ることはないだろう。

 このような状況は、社債の利回りの高さに注目していた海外の投資家の間で「中国離れ」を引き起こしている。

 第3四半期の中国の不動産企業のドル債の発行額は約19億ドルとなり、前年比61%減少した。10月の不動産企業のドル債の発行は18日時点で1本にとどまっている。

 中国企業のドル債に対する海外の投資家の買い意欲は9月に大きく落ち込んだ(10月13日ブルームバーグ)。恒大集団や新力控股などの不動産企業のドル債は額面に対して2割前後まで下落しており、新規発行による借り換えは難しい状況だ。

ハイテク企業を苦しめる「資金のデカップリング」

 中国の1~8月期の国有企業の利益総額が民間企業の総額を8%上回り、通年ベースで13年ぶりに国有企業の収益が民間企業を凌駕する可能性が出ている。

 主な理由は、国有企業は銀行からの低利の資金調達が容易なのに対し、民間企業はその手段が限られていることにある。

「官民格差」に苦しんでいる民間企業は近年、社債発行などで海外からドル資金を調達している。例えば、中国のインターネット検索大手「百度(バイドゥ)」は8月下旬にドル債を発行し、10億ドル分の資金を調達した。

 中国の民間企業のドル資金調達の総額は1.2兆ドルに上ると推計される(外貨準備額 [約3.3兆ドル] マイナス対外純資産額 [約2.1兆ドル] )。1.2兆ドルの内訳はわかっていないが、不動産業以外にもハイテク企業の多くがドル資金を成長の源泉として有効活用してきたと考えられる。

 デジタル技術を手掛ける民間ハイテク企業が主導する中国のニューエコノミーはこの5年間で爆発的な勢いで成長した。ハイテク産業の中国のGDPへの貢献度は2016年は20%だったが、現在では40%と驚くべき水準に上昇している。今年第3四半期も17.1%増と一人気を吐いている。

 だが米中間で進む「資金のデカップリング」がハイテク企業を苦しめつつある。

 ニューヨーク市場では8月、中国企業の新規上場がゼロとなった。中国政府が7月、中国企業の海外上場規制を強化する一方、米当局も中国企業に対し追加の情報開示を要求していることが災いした形だ。

 中国の太陽光パネル大手の晶科能源(ジンコソーラー)は9月中旬「市場シェアが世界4位に後退した」ことを明らかにした。上場先の米国の市場で中国系企業に対する投資家の評価が厳しくなり、事業規模の拡大が思うに任せない状況となっている。「弱り目に祟り目」ではないが、「ドル債発行」という資金調達までもが困難となれば、民間ハイテク企業はこれまで経験したことがないほどの困難に直面してしまうだろう。

 少子高齢化が進む中国では、技術革新による生産性向上が至上命題となっているが、「恒大集団をはじめ不動産企業のドル債のデフォルトラッシュが、民間ハイテク企業の今後の成長の大きな足かせとなりつつある」との構図が浮かびつつある。

 早晩構造調整が不可避だった不動産業のみならず、ハイテク企業が低迷するリスクが浮上していることが、中国経済にとっての最大の問題なのではないだろうか。

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