2019年7月、半導体素材3品目に対する日本政府の対韓輸出規制強化をきっかけに韓国で爆発的に盛り上がった「ノージャパン運動」(日本製品不買運動)がすでに2年以上続いている。この影響で韓国市場から撤退していく日本企業がいくつも出たが、最近、韓国内では「ノージャパン運動は下火になってきた」という声も聞こえるようになった。

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 韓国の一般国民の日本製品に対する感情は変わってきたのだろうか。

日本製品購入者を勝手に撮影・ネットにアップして吊し上げ

 15日、韓国メディアはユニクロの韓国第1号店であるロッテマート蚕室店が営業を中止すると報じ、その原因を「コロナと不買運動の影響のため」と分析した。経済専門紙の「毎日経済」によると、日本製品に対する不買運動後、韓国内のユニクロ店舗は、2019年8月末の195カ所から現在は135カ所へと30%(60カ所)も減少したという。同紙は、韓国でユニクロ事業を展開しているFRLコリアは、2020年の売上高が前年度比で41%も激減し、営業損失も前年度より7倍以上に膨らんだと伝えた。

 ユニクロは「ノージャパン運動」の主要なターゲットとなってきた。韓国では、消費者に不買運動を強要する社会的圧力が強かった。例えば明洞などの繁華街に位置する店舗の前には、いつも「ノージャパン」のプラカードを持った一人デモ隊(大半が進歩市民団体所属の女子大生)が待ち構えていたし、ネット上には、ユニクロの売り場を訪れる韓国人を盗撮した写真をアップし「歩く犬、豚」などの嘲弄や誹謗を浴びせる「ユニクロ監視団」が登場したりした。筆者には、友人と一緒にユニクロ買い物をしたとき、その友人がショッピングバッグを急いでかばんの中に隠しながら「人の目が怖い」と言っていた記憶が強く残っている。

作られた「ノージャパン運動」

 そもそも韓国社会に浸透したノージャパン運動は、最初から消費者によってではなく、販売側、それも労働組合側が主体となって始められた「強制的」なキャンペーンだった。日本政府の輸出規制発表直後、スーパーで働く労働者で構成された「全国マート産業労働組合」は、「顧客に日本製品の案内を拒否する」という宣言文を発表し、韓国の3大スーパーチェーンであるイーマート、ロッテマート、ホームプラスに日本製品販売中断を要求する公文書を送った。

 宅配労働組合ユニクロ製品の配送を拒否すると宣言した。彼らは、組合員にユニクロ製品の配送を拒否する姿を写真にとってインターネットに掲載することを奨励し、「ユニクロは配達しません」と書かれたステッカーを配り、配送車両に貼るよう促した。

 これに全国各地の市民団体や自営業者団体も呼応し「日本製品は売らない!」というデモを続けた。大邱のあるスーパーでは「アサヒ プライムリッチ198万ウォン(約19万円)」、「ほろよい99万ウォン(約9万円)」などのどんでもない値札をつけて、「買うなら買ってみてください!」という案内文で、日本製品を購入しようとする消費者をからかった。

 しかし、このように狂気溢れるノージャパン運動が、最近、下火になっているというニュースが韓国社会のいたるところから聞こえてきている。ユニクロが世界的なデザイナー相澤陽介氏とコラボした「ユニクロ アンド ホワイトマウンテニアリング」商品は、発売開始からわずか2時間で完売したというニュースが複数のメディアで伝えられた。

 15日、インターネットメディア「マネートゥデイ」はソウル松坡区(ソンパグ)のユニクロロッテワールド店を直接訪問し、当時の熱気を詳しく伝えている。

「午前10時30分、ソウル市松坡区ロッテワールドモールの中にあるユニクロ売り場の前には長い行列ができた。列に並んだ人々が増え続け、100人余りに達すると、ユニクロ側は新型コロナを考慮して番号札を配った。午前10時40分に受け取った番号札には、『午前11時30分に入場可能』という案内が書かれていた」

「オープン前から並んだおかげで早めに売り場に入場できたというキムさん(25)は、『普段からホワイトマウンテニアリングが気になっていたが、価格が高くて気軽に購買できなかった。ユニクロが協業するというので嬉しい気持ちで買いに来た』と説明した。(インタビューに応じた)彼らはみな、ユニクロが高価ブランドとのコラボレーションマーケティングを行うたびに必ず購入するといった」

「日本製品を買うとは面の皮が厚い」

 このネット記事には2600件以上の「腹が立つ」(「いいね」は340件)という意見があったが、記事の下には購入者を非難する書き込みが殺到した。

「正気じゃないよ」

「まったく高級に見えないビジュアルだ。(ノージャパンで)熱かった夏のことを思い出せ」

「買うのは自由だが、これだけ議論になっているのに、わざわざ買いに行く人々の面の皮は本当に厚いと思う」

「並んでいる時間に一生懸命金を稼いで本物の名品を買え! お前らが並んで買おうとしている企業がどんな企業なのか知っているのか!」

 ネットの反応を見る限り、日本製品、特にその代表格と見られているユニクロの製品に対する反発は続いているようにも見える。

 しかしそれはほんの表層の反応なのかもしれない。

「実店舗では買いづらいけどオンラインショップなら」という消費者が増加

 折しも10月14日には、ファーストリテイリング本体の2021年8月期の決算が発表された。そこで触れられている韓国事業については「通期で若干の減収も、黒字化しました」と説明されている。

 韓国メディアは、ユニクロの「堅調」の要因をこう分析している。有名ブランドとのコラボ戦略と共に、オフラインショップを減らして「シャイ・ユニクロ族」を狙ったインターネット販売を強化する戦略が功を奏した、と。「シャイ・ユニクロ族」とは、ユニクロを愛用しているのだが、周囲の視線を気にして、実店舗ではなく、オンラインショップで製品を購入しているユーザーを指す。

 このようにネット上にはまだ「ノージャパン」を強く主張する意見が残っているが、実生活で「何が何でも日本製のものは受け付けない」などという人は減ってきているようだ。オンライン上で旭日旗論争を巻き起こし、韓国のネット民やメディアから総攻撃を受けた日本のアニメ『劇場版「鬼滅の刃無限列車編』は、今年1月に公開されてから31週間も上映され続け、215万人を超える観客を動員している。現時点で2021年の興行5位にランクインしている。

 日本食の人気も高い。若者の間では韓国の寿司屋に入り、値段の張る「おまかせコース」を頼むことが大流行しているし、若者たちの街で食文化の激戦地と言われる弘大前には過去10年間で日本食堂が33.5%も増加したという統計もある。同期間に韓国料理店が8.6%、洋食レストランが30.5%減ったことと比べると、驚くほどの成長ぶりだ。

政権・与党はいつでも「ノージャパン」を再燃させられる

 自動車市場でも日本車が勢いを取り戻しているようだ。韓国輸入自動車協会(KIADA)によると、今年1-8月の日本車の販売台数は、レクサスが6828台、トヨタ4375台、ホンダ2532台となり、前年同期比で見るとそれぞれ35.2%、16.4%、38.9%という具合に急伸しているという。特にレクサスに関しては、今年の販売台数が1万台に復帰する可能性もあると見られている。このような日本車メーカーの反転攻勢について、韓国の専門家らは、不買運動が停滞していることや、半導体の需給異常などで韓国車が生産に支障を来たしていることが原因だと分析している。

 最初からノージャパン運動の影響を全く受けていない分野もある。韓国のユーザーが「代替商品がない」と嘆いたゲーム市場だ。ソニーコリアの売上高は2018年が1兆1199億ウォン、2019年が1兆4331億ウォン、2020年が1兆5331ウォンと、「ノージャパン運動」の最中でも着実に拡大してきた。韓国に「あつまれ どうぶつの森」ブームをもたらした任天堂コリアの売上高も、2018年に1687億ウォン、2019年に2300億ウォン、2020年に至っては4000億ウォンと大きな成長を記録した。

 ただ、だからといってこのまま韓国の「ノージャパン運動」が消滅するかと言えば、答えは「ノー」だろう。というのも、文在寅政権になってから韓国社会の底辺に強い反日感情が植え付けられてしまっているからだ。「ノージャパン運動」が完全に終息するとは思えない。むしろ与党のシンクタンクはその報告書で「反日は選挙に役立つ」と述べていることからも分かるように、来年の大統領選挙に向けて、政権や与党が「反日不買運動」を扇動し、世論の支持を取り付けようとする動きが起きないとも限らない。

 上述したように、韓国の「ノージャパン運動」は、国民の自発的な運動というよりも、政治的主張を持つ一部のグループに先導された面が強い。その意味では、政府や与党によって、いつでも燃え上がらせることができるよう準備されているのである。

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