(舛添 要一:国際政治学者)

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 新型コロナウイルスの新規感染者が激減している。感染の第5波は収束したと結論づけてよい。ただ、なぜ急速に減少したのか、そして年末年始に感染の再拡大はあるのか、第6波が到来するのであればどのような準備が必要なのか。そのことを押さえておく必要がある。

新規感染者、日本は減って英国は増えている理由

 まず、激減した理由である。第一は、ワクチン接種が進んでいることである。10月20日現在で、全人口に占めるワクチン接種者の割合は、1回目が75.8%、2回目が68.0%である。接種完了者の比率を国際比較すると、日本は、①スペイン、②カナダ、③中国、④イタリアに次いで第5位であり、⑥フランス、⑦韓国、⑧イギリス、⑨ドイツ、⑩アメリカよりも先行している。

 このワクチン接種のおかげで、感染しても重症化したり、亡くなったりする人が減っているのである。

 そこで、集団免疫の理論が新型コロナウイルスにも当てはまるのかどうかが問題となる。集団免疫とは、人口の6割以上が抗体を保有すると、彼らが盾となってウイルスの感染拡大を防止するという考え方である。

 日本の接種率を見ると、すでに集団免疫を獲得するには十分なレベルであり、この理論通りに行くと、もう感染の拡大はなく、完全に収束することになる。メッセンジャーRNAを活用したファイザーやモデルなのワクチンは、デルタ株のような感染力の強い変異株に対しても有効である。したがって、変異株が理由で集団免疫ができないということはないであろう。

 日本では既に集団免疫状態になっていると推論すれば、もう収束に向かうのみであると言うことができよう。専門家の中にはそう考えている人もいる。

 ところが、イギリスの例を見ると、このところ急速に感染者が増えている。10月19日の新規感染者は4万3324人で、1週間の平均4万4251人となった、翌20日には感染者が4万9139人となり、8日連続で4万人を超え、21日にはついに5万2009人と5万人を上回ってしまった。

 この感染爆発の原因は何か。一つには、感染防止上の規制が完全に解除され、人々がマスクを着用せずに外出し、密集するイベントなどに参加していることである。そのため、保健当局はマスク着用や在宅勤務を勧めている。

 イギリス政府は、感染者は増えても、重症者や死者は大きく増えていないことを強調し、今の対応を変更する予定はないとしている。

 感染再爆発のもう一つの原因として考えられるのは、ワクチン効果が減退していることである。ワクチンの有効期間は6カ月であり、個人差もあるが、接種後半年が経過すると抗体が4分の1くらいに減ると見られている。イギリスでは、昨年の12月8日ファイザーワクチン接種を開始しており、多くの人が接種後に6カ月以上の月日が経っている。2回目の接種を終えた人は人口の66.56%に達しているが、夏以降、抗体が減った人が増えているのである。

 そのことが感染力の強い変異株の到来もあって、感染者を増やしているのではないか。そこで、イギリスでは9月16日ブースター、つまり3回目の接種を、高齢者や医療従事者を開始したのである。

英国の感染再爆発から学ぶべきは何か

 このイギリスの例から学ぶべきことは、WHOがパンデミック収束宣言を出さないかぎり、マスク、手洗いなどの感染防止策を講じ続けるべきだということである。

 次に大事なのは、日本でもブースター接種を急ぐべきだということである。

 ファイザー社によると、コロナ・ワクチン3回目接種の臨床試験で、発症防止の有効性が95.6%だったという。

 日本で優先して接種した医療関係者などは、もう接種後半年は経過しており、3回目接種の加速化が急務である。厚労省ワクチン効果が8カ月ということを前提に計画を立てており、12月以降にしか予定していない。しかし最近の海外の研究データを踏まえるならば、8カ月ではなく、6カ月で接種すべきである。

 厚労省や政府御用達の専門家たちは、先行する海外での経験やデータに学ぶことが少なく、また遅い。そのために対応が後手に回っている。ブースター接種についても、同じミスを繰り返すのだろうか。

 イギリスの場合、9月16日ではなく、2カ月前の7月中旬に3回目の接種を開始していれば、ここまでの感染爆発にはつながらなかったのではないか。他山の石とすべき例が海外にあるのに、それを活用できない日本の専門家や厚労官僚はどうなっているのか。

 またニュージーランドでは、10月20日の新規感染者102人と過去最多となった。うち94人が最大都市オークランドに集中している。デルタ株の影響だという。ニュージーランドは、水際対策をきちんと実行し、コロナ感染を抑えることができてきた優等生であったが、遂に「ゼロ・コロナ戦略」は放棄せざるをえなくなったという。ワクチン接種も日本と同等くらいに進んでいる。

 北半球の日本では感染が激減しているのに、南半球のNZでは対極的な動きが出ている。季節的要因が何らかの影響を与えているのかも知れないが、この新型コロナウイルスは今も未知な部分が多い。

制限解除によって2月には「一日の感染者1万人超」の試算も

 ところで、東大の仲田泰祐准教授らの試算によれば、各種の制限が撤廃され、11月から3カ月かけて経済活動がコロナ前のように回復すると、東京都の1日の感染者は2月に5000人を超え、さらに第3週には1万人超になるという。これは、あくまでも一定の仮定の下での試算であるが、イギリスの例などを見ると、絵空事とも思えなくなる。

 東京都は、25日から、認証を受けた店は時短要請などの規制を解除することを決めた。5人以上の利用の場合は、ワクチン接種証明書や陰性証明書などの提示を求める。認証を受けていない店は、酒の提供は9時までとするが、85%の店が認証を受けている。神奈川県埼玉県千葉県もほぼ同様な対応である。

 大阪府でも、25日に規制をほぼ解除するが、認証を受けた店は一つのテーブルに4人以下、認証のない店は来店時に4人以下と制限するとし、また会食時間を2時間以内とすることを決めた。

 このような規制解除が、感染の再拡大に繋がらないような感染防止策を主体的に講じる必要がある。

 日本人はマスクの着用を極端には嫌わないし、花粉症の時期や冬には装着することに慣れている。その点はイギリスとは異なる。完全解禁に向けて、イベント会場などでは実証実験も始まっている。着実に通常への復帰を進めねばならない。

 イタリアでは、全ての職場でワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)が義務化された。それに対して抗議のデモが各地で起こっているが、イタリア政府が強硬策を採るのは、中国に次いでコロナ感染が拡大し、多くの犠牲者を出しているからである。

 日本でも、ワクチン接種証明書や陰性証明書を活用して、経済活動との両立を図らねばならない。

 第6波について、次に問題になるのが病床の確保である。岸田文雄首相は、今夏の感染力の2倍の流行になった場合でも対応できる医療体制を整備すると明言した。また「すぐに受け入れ可能」と申告してコロナ病床用の補助金を受け取りながら、実際には稼働していない「幽霊病床」の「見える化」を進めることにも言及している。当然のことである。

 後藤茂之厚労大臣は、国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO、これは尾身茂氏が理事長なのである)に病床2割増を法律に基づいて要求するという。この「幽霊病床」の問題は、私が何度も指摘していたが、安倍・菅政権は政府御用達の尾身チームのみの言い分を聞いてきた。しかし、岸田政権に代わって、やっと尾身チーム以外の意見にも耳を傾けるようになってきたようである。

 岸田政権は、このような努力によって、病床の8割以上の稼働を目指すとしている。

 さらに、岸田首相は、医師などの不足で患者を受け入れられないようなことが起きないように、事前に人材確保・配置調整を進めておくという。これは、地方自治体、保健所、地元の医師会が協力すれば可能であり、現に成果を上げている自治体もある。少なくとも自宅に放置されて命を失う人を出してはならない。

大きな可能性を持つ経口薬、だがまずはワクチンを

 日本の新規感染者の減少にはワクチンが大きな貢献をしていることは否定できないが、同時に期待されているのが経口治療薬の開発である。

 アメリカの製薬大手メルクは、新薬「モルヌピラビル」の治験を進め、FDAに緊急使用許可を申請しているが、早ければ11月30日にも承認される可能性がある。承認されれば、世界初の経口治療薬となるが、治験の結果、この薬は重症化を50%減少させる効果があったという。

 日本の塩野義製薬スイスのロシュ、またファイザーも経口治療薬の開発を進めており、メルクに続いて承認される見通しである。

 これらの経口治療薬は、まさにゲームチェンジャーとなる可能性がある。自宅での治療ができるために、病床も不足しない。それは、経済との両立を可能にするし、コロナを極度に恐れることもなく、インフルエンザに罹ったときと同じように、心理的負担からも逃れることができる。

 しかし、アメリカの感染症対策のトップ、アンソニー・ファウチ博士が言うように、まずはワクチンであり、経口治療薬に過度に期待してはならない。WHOは、貧しい国でワクチン接種が進んでいない以上、コロナ感染は2022年も続くと警告している。出口はまだ先のようである。

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