悲しい虐待事件が後を絶ちませんが、大きな事件の前兆として、虐待を受けている子どもたちの体に「あざ」が見られることがあります。一方で、赤ちゃんのお尻や背中に現れることが多い、薄青いあざのような「蒙古(もうこ)斑」が腕や脚など目立つ部位に出ることがあり、「虐待によるあざ」と誤解されるケースもあるようです。また、大人になってからも消えずに残る場合もあり、やはり、あざに間違われたことのある人も。

 蒙古斑について、ネット上では「お尻以外にもできるの?」「うちの娘は脚に出ているので、虐待と疑われたことがあります」「正しい知識が広まってほしい」といった声が上がっています。蒙古斑の正体について、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

レーザーで治療可能

Q.そもそも、蒙古斑とは何でしょうか。

西さん蒙古斑とは、主に赤ちゃんの臀部(でんぶ)、つまり、お尻に見られる青いあざのことをいいます。英語で『モンゴリアンスポット』と呼ばれるように、モンゴル系黄色人種である日本人に多く見られますが、白人ではあまり見られません。5歳ごろまでに自然と消えることがほとんどですが、まれに、大人になっても残る場合もあります。

原因はメラニン色素(肌の色を濃くする色素)をつくる細胞『メラノサイト』が通常の表皮ではなく、より深い『真皮』の部分に存在し、そこで、メラニンを産生することによるもので、茶色ではなく青っぽいあざのように見えます」

Q.蒙古斑が出現しやすい部位はどこでしょうか。

西さん「一般的に出現しやすいのは、背中の下の方やお尻です。それ以外に見られるものは『異所性蒙古斑』と呼ばれ、お尻のものに比べて消えにくい特徴があります。できやすいのは背中や手の甲、足首とされていますが、顔にできることもあります」

Q.蒙古斑が出るのはアジア人だけなのでしょうか。

西さん「日本人では9割に見られるものですが、人によって、大きさや場所の違いがあります。黒人にも同程度あるといわれていますが、アジア人ほどは目立ちません。ヒスパニック系で5割、白人1割以下と人種による差が大きいです」

Q.幼児になっても蒙古斑がみられた場合、どうすればよいのでしょうか。成長してからも消えずに残っている人もいるようです。

西さん蒙古斑は5歳までに消えることが多く、遅くとも10歳ごろまでに消失します。10歳ごろまでは様子を見ましょう。ただし、色が濃い場合や腕や顔、脚などお尻以外の場所にできる異所性蒙古斑の場合は、大人になっても消えにくいので、治療を検討した方がよい場合もあります。

通常、治療にはレーザーが使用されますが、皮膚の薄い小児の方が大人よりも効果が出やすく、治療にかかる回数が少なくて済みます。そのため、顔や腕などの目立つ部分にあって、気になるようであれば、早めに治療を考えてもよいでしょう。異所性蒙古斑は、レーザーによる治療は3カ月に1回の頻度であれば、保険が適用できるため、子どもの場合は、医療費助成制度によって公費負担で済むこともあります。

また、ごくまれに蒙古斑ではなく、『ムコ多糖症』などの代謝疾患の一症状として現れる場合もあります。全身に蒙古斑が見られる場合は一度、小児科で相談してみましょう」

Q.幼児の親の中には、目につきやすい部位に蒙古斑が出たことで「虐待による青あざでは」と疑われるケースもあるようです。

西さん「白人の場合、蒙古斑の出現率は1割以下のため、以前は『海外でよく間違えられた』という話を聞きましたが、最近は国際結婚も多く、蒙古斑を知らない親も増加しています。虐待など打撲による青あざの場合は日に日に色が変化して消えますが、蒙古斑の場合は短期間で消えることはなく、同じ場所に同じようなあざが見られます。そのため、数日から1週間程度で見分けることができます。

また、青あざの場合、その部位を触ると痛がりますが、蒙古斑の場合は特に痛がることはありません。虐待を疑われるのはとても心外でつらいことだと思います。その場合、蒙古斑とは何かをしっかりと話して、数日後、変化がないことなどでしっかり疑いを晴らしましょう。目立つ場所に現れた場合は、気にする幼児もいるので、『自然に消えることが多いから、しばらく様子を見て、消えないようであれば治療をしようね』と相談に乗ってあげることも大切です」

オトナンサー編集部

背中にも現れる蒙古斑