スペインの研究グループが、完全に目が見えない女性にとメガネに内蔵した「人工網膜」と「脳インプラント」の連結で、文字を認識させることに成功したそうだ。
これまで眼球移植で視力を回復させた例はあるが、今回は眼球を使わず、人工網膜が捉えた光景を脳インプラントが脳の視覚野に直接刺激を与え、知覚可能な映像を作り出すという技術だ。
その成果が『The Journal of Clinical Investigation』(21年10月19日付)で発表された。
【画像】 人工網膜システムで見た光景を脳インプラントが映像化
ミゲル・エルナンデス大学のグループが開発したシステムは、普通のメガネに内蔵された「人工網膜」と、大脳皮質内に移植される「インプラント」で構成されている。
人工網膜にうつった光景が電気信号に変換され、脳インプラントに送信。
インプラントには長さ1.5ミリの電極が96本伸びており、これが大脳皮質の「視覚野」を刺激する。すると人工網膜から送られてきた物体のパターンを脳が認識するという仕組みだ。
昨年、同じようなシステムが霊長類で成功しているが、今回の対象は人間の女性(57歳)だ。
その女性は16年間まったく目が見えなかったが、システムを介して知覚された映像を解釈するトレーニングを受けると、文字や物体のシルエットを認識できるようになったとのことだ。
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大脳皮質に余計な影響を与えない
この成果以外にも、いくつか重要なことが明らかになっている。
一つは、インプラントが大脳皮質の働きに余計な影響を与えたり、無関係な周辺の神経細胞まで刺激したりはしないということ。
もう一つは、脳の表面に取り付けるタイプの電極よりも、はるかに小さな電流で機能してくれるということ。
このためより安全性が高いと考えられる(念のため、移植手術の6か月後に女性からインプラントは取り外された)。
人工網膜システムの未来
人工網膜システムの実用化までには、まだ課題がいくつも残されている。研究グループは現在、実験に参加してくれる盲目のボランティアを募集しているとのことだ。
こうした話は、目が見えない人だけに関係するわけではないかもしれない。というのも、香港の研究グループが、一部の性能が人間の目をしのぐ「人工眼球」をすでに開発しているからだ。
生身の目よりもクリアな視界を手に入れるため、あえて人工眼球にするという選択肢もいずれは出てくるのかもしれない。それはつまり自らを「サイボーグ化」する未来がやってくる可能性を帯びている。
References:Brain implant bypasses the eyes to help blind users "see" images / written by hiroching / edited by parumo
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