旅行でホテルに宿泊する際、最初にフロントでチェックインをしますが、迎えてくれるホテルスタッフから、「おかえりなさいませ」とあいさつをされ、違和感を覚えたという声がネット上などで上がっています。初めて、そのホテルに宿泊するのに、知り合いのようにあいさつをされることへの違和感で「本来であれば、『いらっしゃいませ』ではないか?」という主張です。

 なぜ、「いらっしゃいませ」ではなく、「おかえりなさいませ」とあいさつをするホテルがあるのでしょうか。ホテルジャーナリストの高岡よしみさんに聞きました。

“第二のわが家”と思ってほしい

Q.初めて宿泊する客に対し、チェックインするときのあいさつが「いらっしゃいませ」ではなく、「おかえりなさいませ」というホテルがあるのは、なぜでしょうか。

高岡さん「初めて宿泊するホテルのチェックインで『いらっしゃいませ』ではなく、『おかえりなさいませ』とあいさつをされると違和感があるかもしれません。しかし、これはホテル側が“第二のわが家”として、お客さまをお迎えし、わが家にいるのと同じようにくつろいでほしいという気持ちを表現する工夫の一つです。

これはホテルではなく、旅館の例ですが、私が以前、京都の有名な老舗旅館『柊家(ひいらぎや)』に初めて宿泊したとき、玄関に到着すると、季節の設(しつらえ)とお香の良い香りとともに、おかみやスタッフから、『おかえりやす』と京言葉の温かいあいさつで出迎えられ、非常にリラックスした気持ちになった経験があります。

柊家の玄関に掲げられた『来者如帰(らいしゃにょき、来る者帰るがごとし)』と書かれた額は有名ですが、これは『わが家に帰って来られたようにくつろいでいただきたい』という意味で、柊家のおもてなしの心です。ホテル業界では、国内外に168店舗展開しているホテルチェーン『スーパーホテル』が初めての宿泊客に対しても、チェックイン時に『おかえりなさいませ』のあいさつを採用しています」

Q.いつごろから、「おかえりなさいませ」と言って、初対面の宿泊客を迎えるようになったのでしょうか。

高岡さん「『おかえりなさいませ』のあいさつは近年、『ホスピタリティー』、あるいは『おもてなし』という言葉が盛んに使用されるようになり、この『おもてなし』を可視化しようとして、工夫を凝らした結果、使われる機会が増え始めました」

Q.では、初対面の宿泊客でも「おかえりなさいませ」とあいさつをするホテルは日本に多いのでしょうか。

高岡さん「おもてなしの気持ちを表すとはいえ、初対面の宿泊客に対して『おかえりなさいませ』とあいさつをする日本国内のホテルが多いとは言えません。『いらっしゃいませ』や『こんにちは』『こんばんは』といったあいさつが一般的です」

Q.宿泊客に「ゆっくりとくつろいでほしい」という気持ちを伝える手段として「おかえりなさいませ」というあいさつが有効なように思いましたが、なぜ、日本のホテルでは、このあいさつがそこまで普及していないのでしょうか。

高岡さん「『いらっしゃいませ』には“お客さまの来訪を歓迎します”という意味があり、老舗のホテルや高級ホテルでは、この『いらっしゃいませ』のあいさつでお客さまをお迎えすることがスタンダードとされています。このあいさつの響きから、そのホテルの格調の高さを感じることができ、それを好まれるお客さまは多いのではないでしょうか。そのことから、多くのホテルで『いらっしゃいませ』が使われているといえます。

おかえりなさいませ』のあいさつを取り入れているホテルは、新業態のホテルに多いかもしれません。例えば、先述したスーパーホテルはビジネスマン向けでありながら、宿泊客にくつろぎを提供するために温泉施設が付いている店舗もあります。そうしたホスピタリティーに関する独自の取り組みの一つが『おかえりなさいませ』のあいさつです」

Q.ホテルで初対面のホテルスタッフに「おかえりなさいませ」とあいさつをされたとき、何と返せばよいのか困るという声もあります。何と答えればよいのでしょうか。

高岡さん「難しく考える必要はありません。宿泊客側のこれからの滞在が気持ちよく始まることが大切なので、その時に自然に出てくる表現でよいのではないでしょうか。『おかえりなさいませ』とあいさつをされたら、自宅のように『ただいま』でも構いませんし、違和感があるのであれば、『こんにちは』『こんばんは』『お世話になります』のような言葉や、あるいは会釈で返せばよいと思います」

オトナンサー編集部

なぜ、「おかえりなさいませ」?