突然ですが、就職して1年未満でやめてしまう「超短期離職」という言葉をご存知でしょうか。厚生労働省によると四大卒が新卒として入社しても、10人に1人は1年未満で辞めています(出典:厚生労働省 新規学卒者の離職状況)。私(森川剛、@a54689)は元お笑い芸人で、転職エージェントでキャリアアドバイザーとして勤務した後に起業をし、現在は大学生の就職支援を行う会社を経営しています。

 これまで1500人以上の方とキャリア面談を行ってきましたが、その中には短期離職をした方も多くいました。そして、今回記事にするのは「不当解雇」によって意図せずに超短期離職をした方です。なぜ、新卒1年目の社員が意に反して解雇されたのか、どのような経緯でそうなったのか話を聞きました。

大学を卒業をして不動産ベンチャーに

「社長と距離が近く、その上でお金を稼ぎたかった」と当時の就職活動における軸を教えてくれたKさんスポーツ推薦で「MARCHクラスの大学へ進学し、体育会学生として4年間部活動に励んだそうです。ちなみに「体育会学生」というのは部活動に所属している大学生を指し、高校時代に一定数の競技実績を残すと、大学側から声が掛かるのだと言います。

「体育会という厳しい環境下でやってきたので、就活でも競争環境のある企業を選ぼうと思っていた」

 そうして入社先に決めたのが、東京の一等地に本社を構える不動産ベンチャー。ここから彼は投資用不動産の営業マンとしてのキャリアを歩みだします。

入社3か月で社内トップに

Kさん
成績優秀者に選ばれて順風満帆な社会人生活を送るKさん(写真右側)
 ベンチャー企業で裁量も大きく、仕事に没頭できたKさん。ひたすらに営業活動をして、仕事終わりには顧客を捕まえるために、都内のbarをはしごして、とにかく名刺を配り歩いたそうです。そんな日々を過ごし、気がつけば、入社3か月で社内トップの成績を叩き出していました。

営業として5000万円ほど売り上げて、多くのインセンティブをもらっていました。この時は楽しくて仕方がなかったです」

 投資用不動産という事で商材の単価も高く、企業の経営者など目上の人に対して営業活動をすることがKさんには合っていたようです。ところが…。

突然の社長交代で会社が激変

「私の会社は、オーナー企業だったので、いわゆる“雇われ社長”という形で社長がいたのですが、年明けに突然クビになったんですよね」

 Kさんの会社のように「オーナー」と呼ばれる経営者とは別に出資をして実質的支配者となっているパターンがあります。

コロナもあってか、ちょっとずつ会社全体の営業成績が悪くなっていきました。営業会社であれば当然チームごとにノルマがあるのですが、それも未達の月が続きました」

 そうこうしているうちに、オーナーから「社長交代」が発表され、Kさんが慕っていた社長が会社を去ることになります

「入社してから営業チームの編成も4回変わったりと、まさにベンチャーだなって感じていました。でもさすがに社長が解雇になったのには驚きました」と振り返るKさんですが、ここから彼は自分の運命を左右する人物と出会うことなります。

インフルエンサー社長の就任

インフルエンサー

 社長が解雇となり、オーナーが新たに連れてきた社長はなんと、SNSで数万人のフォロワーがいる女性インフルエンサーだったそうです。

オーナーヘッドハントして連れてきた女性社長なのですが、SNSを駆使して数万人フォロワーがいる、不動産業界ではちょっとしたインフルエンサー的な方でした。切れ者ですごい仕事ができる方なのですが、気が強く気分屋なところがあって、お気に入りの部下とそうじゃない人では態度の差が激しいと感じていました」

 これまでの社長とあまりにもタイプが違ったことで、Kさんは新社長となかなか打ち解けることができなかったそう。加えてKさんは続けます.

「“お気に入り”に入れなかったことで毎日なにかしらの小言を言われる日々が続きました。正直タイプが合ってなく、言い争いになるなんてこともありました

 相手も人間である以上、一定数の好き嫌いがあるのは理解できますが、ここからKさんの不当解雇へのカウントダウンが始まります。

ある日突然、呼び出され「クビ」宣告

「ある日、いつも通りに仕事をしていたら突然社長から呼ばれて会議室にいきました」

 呼び出されたKさんが社長室に行くと、社長が開口一番に「Kくん申し訳ないけど今日でクビね」と言ってきたそうです。なんのことか分からず、Kさんが聞き返したところ「社長曰く、僕が社内の同期社員に対して『転職あっせんをして転職支援業者から紹介料をもらってる』と言ってきたのです」。

 当時は17名入社した同期のうち、半分以上がすでに辞めており、その退職にKさんが関係していると言われたそうです。

「そして僕が自分の会社も作っており、『自社に対して不利益を被ることをしてる』と言ってきたのです」

 突然のことに驚きを隠せないKさんでしたが、身に覚えの無い罪を被る訳にもいかず、「そんなことは一切しておりません」と反論。しかし、社長は「同期の証言で裏も取れてる」とキッパリ。社長からの驚きの一言に言葉を失ったというKさんですが、この事件とは別のトラブルが原因になっていたといいます。

別件の社内不正行為が飛び火

不正 会計

「ここからはかなり生々しいのですが、結論から申し上げますとハメめられました。僕も同僚から話を聞いて真相にたどり着きました」

 Kさんによると本件(転職あっせん事件の疑惑)とは別に、数か月前から課長が不正行為をしていたことが発覚。

「自社で抱えているお客様を、課長が個人的に同業者ほか(別の投資用不動産会社)に振って、紹介料を得ていたのです。後にこの課長も不正がバレて解雇となるのですが、この不正行為に僕の同期である新卒社員も加担していたそうです

ウソの密告でKさんが窮地に

 一見、その事件とKさんの転職あっせん疑惑に繋がりは無いように思えますが、「社内不正の行為については社長を含めた経営陣はすでに知っていたようで、密かに取り調べを行っていたようです」(Kさん)。そこで主犯格である課長の右腕として暗躍していたKさんの同期が先に取り調べを受けたのですが、どうやらこの社員が新社長の“お気に入り”だったようです。

「その同期はかなり新社長のことが好きだったようで、いつも媚びを売っていました。あまりに社長にべったりなので色々と噂話も立っていました。ただ、主犯格の課長と共に悪事を働いていることがバレて、取り調べを受けたそうです。お気に入り社員であったことから社長はかなり落胆したとか。そこで何を思ったのか、最後に社長に嫌われたくない一心で嘘の密告をしたそうです」

 嘘の密告とは、社内でも好成績を出しているKさんが社内の同期に対して転職あっせんをしてるというもの。「それで僕が後日社長から呼び出されることになったのです」とKさん。ここから一気に話が加速します。

密告者からは聞けないまま退職をする

解雇通知書
会社から渡された解雇通知書
「その密告者の同期と話したかったのですが、先に彼が辞めてしまい、連絡も取れなくなってしまいました。なぜ、僕をハメめたのかはいまだに確かめることができなかったです。

恐らく、その同期は営業成績も良いとは言えない状態だったので、うまくいっている僕を妬んでいたのではないかと思います。さらに自分の好きな社長に対して、日頃から盾ついていた僕が気に入らなかったのかと」

 Kさんは事実無根だと訴え続け、社長との面談時は、ボイスレコーダーを使って録音していたそうです。 

「録音を聞いてもらえばわかるのですが、決定的な証拠は無く、向こうは証言だけで解雇だと言うのです」。筆者も実際にボイスレコーダーを聞きましたが、「転職あっせんをした」「してない」の押し問答で、社長側は「証言がある」の一点張りでした

 その後、Kさん弁護士にも相談をしたものの、対企業ということから「仮に決着が着いたとしても大した額は取れない」とのことで、時間と体力を消耗するだけと判断し、諦めて退職を決意しました。

弁護士に相談するも退職を選択

法律 弁護士

「次第に私も、自分の人生の貴重な時間をこんなことに使ってる場合ではないと感じて、最後は向こうの要求をのんで退職をしました」

 こうしてKさんの新卒としてのファーストキャリアは終了。当時は社員寮に住んでいたことで、そこもすぐに退去となり、最後の挨拶もできぬままだったそうです。最後にKさんからこんなメッセージをもらいました。

「もちろん、すべてのベンチャー企業がそうでは無いと思います。しかし、もしベンチャー企業に入社をしたいと考えている人がいたら、なるべく情報を仕入れて、しっかりと考えてから入社を決めるのがいいと思います。それでも全部は難しいですが……

 総合人材情報サービス株式会社アイデムの調査によると、今までで最も早く辞めてしまった職場の退職理由は「職場の人間関係に問題があった」が最多であったというデータが。Kさんも新社長との関係構築がうまく出来なかったことであらぬ疑いをかけられて退職をしています。

 転職市場では「短期離職者は根性がない」と一括りにされがちですが、実際に話を聞いてみると、それぞれ理由があってやめています。この記事の体験談が一人でも多くのビジネスパーソンに届いて、キャリアの参考になることを願います(※ちなみにKさんの前職企業は、その後、新社長の独裁経営が続いたことで営業マンの8割が辞めたそうです)。

TEXT/キャリアアドバイザー 森川 剛>

【森川 剛】

お笑い芸人。第二新卒特化の転職エージェントで勤務した後、起業。現在はキャリアアドバイザーとして自身の経験を活かし、新卒学生のキャリア支援を行う。 ■twitter:@a54689

成績優秀者に選ばれて順風満帆な社会人生活を送るKさん(写真右側)