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 これもある種の自然選択に基づく進化なのだろうか?アフリカで、牙のない状態で生まれてくるメスのゾウが増えているという。

 科学者はこれについて、象牙目当ての密猟が増加したことによる、遺伝的な反応である可能性を指摘している。

【画像】 1977年以降、牙のない象が増えている

 プリンストン大学の進化生物学者、シェーン・キャンベル=ステイトンは、もともとはトカゲ研究の専門家だ。

 2016年のある朝、YouTubeを見ていたキャンベル氏は、アフリカゾウについてのある動画を偶然見つけた。

 それは、モザンビークにあるゴロンゴーザ国立公園に生息している象たちに奇妙なことが起こっているという内容だった。メスのゾウの多くに牙がないというのだ。

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 アフリカゾウは、オスもメスも牙がある。通常は、牙を持たないメスは2%程度しかいないため、こうした現象は異常だ。

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 キャンベル氏は興味をそそられ、同大の生物学者ロバート・プリングルに誘われたのがきっかけとなって、自身が現地に赴いてこの現象を調査することになった。

 それから7ヶ月後、キャンベル氏は現地でヘリに乗って、ゾウの数を数えていた。ゴロンゴーザ国立公園で過去に撮影された映像と、現在の頭数を比べてみると、気になる結果が出てきた。この30年の間に、牙のないメスのゾウの数が急激に増えているのだ。

 1977年から2004年の間に、牙のないメスのゾウの割合は、18.5%から33%に増えていた。

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photo by Pixabay

内戦によるゾウの密猟の影響

 1977年以降に、牙なしのメスのゾウが増える傾向が始まったのは、決して偶然ではないという。

 1977年モザンビークでは血なまぐさい内戦が始まった。15年以上にわたる戦争で、相対する両軍は、アフリカゾウの牙を乱獲して象牙を売りさばき、戦争の財源とした。

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 その結果、終戦の1992年までに、ゴロンゴーザのゾウの数は9割以上減少した。

 戦争中、国立公園内で牙のないメスが見られる頻度は、ほぼ3倍近くになり、2頭に1頭は牙がない状態だった。

 密猟者は、牙のあるゾウを狙うため、牙のないゾウのほうが生き延びる可能性が高いことは確かだ。

 だが、牙なしのメスゾウが生まれる割合は若干少なくなったとはいえ、この傾向は内戦が終わっても相変わらず続いた。

 1972年から2000年の間の全体数をみると、牙なしのメスの個体の生存率は牙ありの生存率の5倍に達するという。

 これは、密猟の影響がゾウの急速な進化を進めたことを意味すると、キャンベル氏たちは見ている。

「偶然だけで、こんな短期間にこれだけの大きな変化が起こることは、ほぼありえないことなのです」

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photo by Pixabay

オスにとっては危機的な状態を意味する

 しかし、なぜ、メスだけに牙が生えてこないのだろうか?

 ゴロンゴーザ国立公園以外のアフリカゾウの個体数が多い地域でも、牙のないオスの話はあることはある。このパターンは、牙が生えない遺伝的起源に、性別が関係していることを示している。

 ゴロンゴーザ内の、牙があるメスと牙がないメス両方の遺伝子ゲノムを解析してみたところ、牙がなくなる状態を引き起こす優性遺伝子アメロゲニン(AMELX)の変異を特定した。

 アメロゲニンは、母親からX染色体を通して子供に伝わり、人間も持っている。この遺伝子が変異すると、人間の女性の場合は歯が脆くなったり、発達が悪くなったりする。

 しかし、人間の男性の場合、X染色体上のこの遺伝子が壊れた状態で受け継がれると、たいてい死んでしまうという。

 研究者たちは、これと同じことがアフリカゾウにも起こっているのではないかと考えている。

 オスのゾウが、X染色体の壊れたアメロゲニンを受け継ぐと、死んでしまうのだ(つまり生まれない)が、メスの場合には牙がなくなるだけで済む。

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photo by iStock

ゾウの牙の喪失が生態系全体に波紋を広げる可能性

 牙がなくても、それほどたいした問題はないのではと思うかもしれない。だが、この傾向は、アフリカゾウの生態系全体に大きな影響を与える可能性がある、とキャンベル氏は言う。

ゾウの牙は、木の皮を剥いだり、貴重なミネラルを掘り出したり、地下水源を見つけたりと、さまざまな目的のために使われる大事なツールです。

もし、牙がなくなってしまったら、ゾウの行動も変わってしまいます。例えば、木の皮を剥ぐことができないとしたら、もう木を押し倒したりすることはなくなるでしょう

 アフリカサバンナに生息しているほかの動物たちは、ゾウのこうした行動に依存している。

 ゾウが木を押し倒すことで、草原植物が繁殖する新たなスペースが生まれ、それがほかの生き物の生息地となる。牙をもつゾウの数が減ることは、こうしたプロセスを妨げることになるのだ。

これは、人間の活動が、生命の木全体の生き物の進化の軌道をいかに変えてしまっているかを示すひとつの例です。

人間は、5つの大量絶滅イベント以外で、歴史上、もっとも影響力のある進化のプレッシャーといえます

 モザンビークの内戦が終わって久しいが、牙のないメスゾウの数を内戦前のレベルにまで戻すには、1世紀かかるかもしれない。

密猟というプレッシャーがない場合の2%台に戻るには、5世代、6世代、あるいは7世代くらいかかるかもしれません。それはもちろん、ここまで変わってしまうのにかかった1世代よりもはるかに長い時間なのです

 この研究は『SCIENCE』誌に掲載された。

追記(2021/10/26)本文を一部修正して再送します。References:Poaching drove the evolution of tusk-free elephants | Ars Technica/ written by konohazuku / edited by parumo

 
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ゾウの牙に変化が。密猟が原因で牙がないゾウが増えている