(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 米国の有力研究機関が、北朝鮮の核戦力を研究した報告書で、北朝鮮のミサイル基地を攻撃できる能力を保持することを日本に対して提案した。

 北朝鮮は対外戦略のなかで、有事には日本領土に核弾頭および通常弾頭のミサイルを撃ち込むことを宣言している。その攻撃を抑止するためにも日本がミサイル攻撃能力を備えることは不可欠だという。

ためらいなく日本に核ミサイルを撃ち込む北朝鮮

 この日本への政策提言は、ワシントンの有力研究機関「ヘリテージ財団」が10月18日に公表した「北朝鮮の核ドクトリン」と題した報告書に明記されていた。

 同報告書は、米国の国防総省が10月15日に出した「北朝鮮の軍事力」という報告のすぐ後に公表されたが、それぞれは独立した報告書であり相互の関係はない。ヘリテージ財団の報告書は、国防総省の報告書に比べて北朝鮮の軍事活動のなかでも核戦力、核兵器、核戦略などに重点を置いている点が大きな特徴だ。合計24ページから成る同報告書は、ヘリテージ財団の上級研究員で、米国政府のCIA(中央情報局)で長年、朝鮮半島情勢の分析にあたったブルース・クリングナー氏を中心に作成された。

 同報告書の中で、日本に関する部分で最も注目されるのは、北朝鮮当局が核兵器、とくに核弾頭を装備した各種ミサイルを、戦時には米国だけでなく、米国の同盟国である韓国と日本にためらいなく使用する意図を表明しているという指摘だった。

 同報告書によると、米国当局も、北朝鮮が有事には日本に核攻撃をかける意図を明確にし日本国内の米軍基地だけではなく東京や大阪という主要都市も標的としているとの認識を持っている。

 同報告書は、北朝鮮による日本への核攻撃の戦略について、以下のように記していた。

北朝鮮は、米国との戦闘の際に、米軍や国連軍に日本の港湾、空港、基地などを使用させないようにするため日本に核攻撃の威嚇をかけることを戦略の1つとしている。

・2017年の北朝鮮のミサイル発射の際には、金正恩氏自身が「日本国内の米帝国主義侵略勢力の基地攻撃の演習を意図している」と言明した。

・その際に北朝鮮の朝鮮中央通信などの報道は、同種のミサイルが日本の岩国の米海兵隊基地を攻撃する地図を提示した。

北朝鮮公式メディアは同時に「日本の4つの島は核爆弾により海底に沈められる」「日本は我が国の近くに存在する必要がなくなるのだ」などといった当局のコメントを伝えた。

・同時に北朝鮮当局は核攻撃の標的として東京、大阪、横浜、名古屋、京都の具体的な都市名を挙げた。

北朝鮮は2021年9月に長距離巡航ミサイルを発射したが、射程1500キロとされる同ミサイルも有事には日本を攻撃し、米軍への支援を停止させるために使用されることになる。

日本もミサイル攻撃能力の開発を

 ヘリテージ財団の同報告書は以上のように北朝鮮核ミサイルの日本への威嚇や攻撃の戦略意図を説明し、そのうえで日本がとるべき措置として以下の諸点を提案していた。

(1)ミサイル防衛の強化

 日本政府は昨年(2020年)6月に突然、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」配備計画の中止を発表した。これにより、日本のミサイル防衛能力は大幅に後退した。北朝鮮の対日ミサイル攻撃能力の増強に対して、日本はイージス・アショアの再検討を含めて速やかにミサイル迎撃能力の強化を図るべきだ。

(2)ミサイル攻撃能力の開発

 日本政府は総合的なミサイル防衛能力の強化の一環として、自国を襲うミサイルの発射の抑止や防止を目的とする攻撃能力を保持すべきである。日本にミサイルを撃ちこもうとする敵国のミサイル基地を破壊する能力を持つことは、多面的な防衛効果を高める。日本の攻撃能力は、敵国のミサイル発射を阻止できるだけでなく、敵国の日本攻撃の意図を抑止する効果も発揮する。敵国が被害を恐れるからだ。

(3)ミサイル攻撃能力の日米同盟への統合

 現時点において日本の自衛隊は効果的なミサイル攻撃を実行するための偵察、監視、照準の能力を十分には保持していないため、米軍との協力が不可欠となる。日米合同でミサイル攻撃態勢の枠組みを統合・構築することによって、これまでの日米単独の北朝鮮ミサイル戦力への対処よりも大幅に効率が高くなり、北朝鮮に対する強力な抑止効果ともなる。

 以上のような日本に対する政策提言は、国防総省の「北朝鮮の軍事力」報告からうかがえる日本への期待とも一致する部分が多いようである。日本は、最近の安全保障情勢の急激な悪化に伴い、こうした新政策の採択を問われる状況に置かれているという現実を官民ともに認めざるをえないだろう。

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北朝鮮のミサイル発射を伝えるニュースをテレビで見る韓国・ソウルの人々。(2021年9月28日、写真:AP/アフロ)