今年5月、初めてタトゥーを入れた。細々した理由はいくつかあるが、結局は「やってみたかったから」というところに行き着く。

 10月現在、自分の体は左足首、左太もも、右手の3箇所にタトゥーがある。どれもワンポイントイラストの、いわゆる「ファッションタトゥー」だ。人は他人の足首やら指の脇やらをよく見ていないので、やや寂しいくらいに周囲に気づかれない。

 一番大きいものでもタバコ箱程度の大きさで、残りは500円玉や印鑑くらいのサイズだ。専用マシンを使った「機械彫り」は、手彫りに比べて、施術に時間がかからず値段も安い。なので、私の体に入っている3つのタトゥーの施術時間はトータルでも30分程度ではないだろうか。値段は合計2万5000円。アフターケアもせいぜい「術後1週間は、入浴はシャワーで済ませる」「保湿する」くらいなので、ファッションタトゥーを機械彫りでひとつ入れるだけなら、美容院に行くよりはるかに手軽と言えるかもしれない。

銭湯やスパ施設は意外と平気

タトゥーを入れると生活で不便が生じる」というイメージがある。よく言われるのが、「がんの有無などを調べる『MRI検査』を受けられなくなる」ということだ。装置から発生した磁場にインクの成分が反応し、火傷を起こす場合があるというのだ。ただ、あくまで「そういう可能性もゼロではない」程度の話らしい。彫り師に確認したところ、「検査前に申告すれば大丈夫。検査自体を断られることは滅多にない」との答えだった。

 もうひとつ、「銭湯や温泉に入れなくなる」ともよく言われる。自分は大の銭湯・サウナ好きなので、この点を一番心配していた。結論から言うと、絆創膏カバーシールでちゃんと隠してさえいれば、タトゥーNGの施設であってもまず何も言われない。

 個人的な実感としては、昔ながらの銭湯よりも、リニューアルしたばかりのキレイな銭湯のほうが「タトゥーNG」を掲げている場合が多い印象だ。また、ファミリーで訪れるようなスパ施設も厳しい。ただ、施設ごとに基準は変わり、「施設指定のカバーシールを貼っていればOK」というルールを採用しているところもある。

 新宿歌舞伎町にある「東京新宿天然温泉テルマー湯」は、規定のサイズ以下であれば女性客はタトゥーがあっても入館できる(サイズを超える場合はカバーシールが必要)。このように条件を設けて入館を受け入れている施設もある。

 おかげで相変わらず銭湯・サウナ通いを続けられているが、タトゥーを入れている人間が銭湯に行くにあたって、全く困らないわけではない。ほとんどのスパ施設はタトゥーの扱いについて公式サイトで明記してくれているが、街の銭湯だと、たとえ公式サイトがあってもタトゥーについては言及していないことが少なくないのだ。

 もちろんカバーシール絆創膏を貼って行けばいいのだが、貼らずに済むに越したことはない。そういう場合は、タトゥーがあっても入場できる施設情報をまとめた口コミサイト「Tattoo GO(タトゥーゴー)」を頼ることになるが、情報が投稿されていない場合があるし、ネット上の口コミをどこまで信用すべきかという問題もある。

 施設ごとに対応が分かれるからこそ、「ここはどのパターンだ?」と迷う。とりあえず公式サイトや公式SNSアカウントを持っている場合は、タトゥーの扱いについて明記しておいてもらえると助かるなぁ……というのが本音だ。

銭湯よりも生命保険に加入するほうが面倒くさい

 とはいえ、もしも周囲に「タトゥーを入れたいけど銭湯やスパに行けなくなるのが心配」という人がいたら、「そこまで気にしなくても意外と平気だよ」とアドバイスするだろう。そして、こう付け加える。

「銭湯よりも生命保険に加入するほうが、はるかに面倒くさいよ」

 そう、タトゥーが入っていると生命保険に加入するハードル一気に上がるのだ。「タトゥーがあると入れない保険“も”ある」とは聞いていたが、“も”どころではないように感じる。タトゥーを入れている時点でNGという保険会社もあれば、一律NGではないが面談が必要という保険会社もある。

 ある一社で実際に面談を受けた。「反社会的勢力との繋がりはありませんよね?」といった質問をされた後(繋がりがあったとしても正直に言わなくない!?)、タトゥーを見せるように頼まれたのには、さすがに少し抵抗を感じた。太ももタトゥーは、服を着ていると見えない。相手が女性とはいえ、なぜ初対面の相手の前でズボンを下ろさねばならないんだ……。なお、タトゥーものさしで丁重にサイズを測られた。

 現在加入しているところは、「タトゥーと言ってもファッションタトゥーですよね?」と一言確認されただけで終わった。ただ、勤め先で入っている保険でお世話になっている方に個人向けの保険もお願いした形なので、それでスムーズに進んだところは多分にあるだろう。

「和彫りか否か」が大きな分かれ目になる

 大手生命保険会社にタトゥーの扱いについて質問したところ、第一生命と住友生命は「タトゥーを入れている方には基本的に商品のご案内をしていない」、日本生命は「加入自体がNGということはないので、いったん面談を経てから商品を案内したい」、明治安田生命は「商品によっても加入できる/できないが変わるので、どの商品を希望するかも含めて総合的に判断させてほしい」との回答だった。

 要するに「一律NG」、もしくは「ケースバイケース」ということらしい。そして、問い合わせをしているうちに気づいたのだが、「和彫りか否か」は大きな分かれ目のようだ。各社の担当者にまずタトゥーの絵柄やサイズを確認されることや、「要するに、いわゆる“ファッションタトゥー”ですね?」といった言葉から、ケースバイケースの中でも和彫りかどうかが最初の分岐になっていることを感じた。

 2018年まで某生命保険会社に勤務していた知人にも話を聞いた。「今は違うかもしれないし、会社によりけりの部分ではある」と前置きした上で、彼女はこう語る。

生命保険会社がタトゥーを入れている人間を警戒するのには、『反社会的勢力との繋がりの可能性』と『健康リスク(器具が十分に消毒殺菌されていないと、施術時にC型肝炎やHIVなどの病気に感染する可能性がある)』のふたつの理由があります。

 そのため本来は簡単な手続きの契約でも、身元照会や血液検査が必要になる場合があります。また、希望する商品やタトゥーの範囲などによって加入手続きの流れが変わるので、『タトゥーを入れているお客様にはこういった対応を取る』とは一概に言えないんです」

 あれだけスラスラと生命保険の案内をしてくれたオペレーターが、こちらがタトゥーのことを申告した途端いきなり口が重くなったのには、「条件によって加入手続きの流れが細かく分岐するので、下手なことは言えない」という事情があったらしい。ただ、タトゥーを一律NGにしている保険会社は、最初からその旨をどこかにわかりやすく明記してくれるとありがたくはある……。「わざわざ電話で問い合わせた結果、そもそも加入できないことがわかった」というのは、悲しい気持ちになってしまうので……。

好き好んで背負った不便に不満を言うのはカッコ悪い

 タトゥーを入れると、日常生活のちょっとした場面でひと手間が発生するようになる。ひと手間はあくまでひと手間でしかないので、今のところ幸いなことに、深刻に困るような問題には直面していない。たが、筆者が女性であるぶん、「ひと手間」で済んでいるのかもしれない。男性であれば、タトゥーによって反社会的勢力との繋がりを疑われてしまう可能性はさらに高くなりそうだ。

「このひと手間、減らせるのでは?」と感じる部分があるのも事実だ。しかし、「タトゥーを入れると生活で不便が生じる」という言説がこれだけ世に出回っている以上、タトゥーを入れることは、「それによって発生する不便を飲み込む」ことに通じる。そして、現代日本においてタトゥーを入れる理由とは、自分のような「やってみたかったから」がほとんどだろう。不便が生じるのを知った上で個人が勝手に選択したことなのだから、不満を言うのはカッコ悪い。そのような考え方は理解できるし、実際、自分自身の中にもある。

タトゥー反社会的勢力のような捉え方は時代遅れだ」という意見が年々広がっている。一方で、「自分が好き好んで背負った不便について不平不満を言うのはカッコ悪い」という価値観も存在する以上、この面倒くささは今後しばらく続いていくのだろうなと思う。タトゥーを入れたことで生じる不便さについて何か意見を表明していくべきか、それとも止めたほうがいいのか、現時点で自分の答えは出ていない。こういう原稿を書いている時点で、「少し何かが変わると助かる」と感じているのは否めないのだけれど。

(原田イチボ@HEW)