今回のミュージックビデオの監督には、弱冠21歳の映像監督でありCGアーティストのMIZUNO CABBAGE氏を起用。 MIZUNO氏はバーチャルプロダクションで何を狙い、何を思ったのか?本作で3作目となるVaundyのMV制作について振り返っていただいた。

MIZUNO CABBAGE|プロフィール
映像監督/CGアーティスト。2000年生まれ。京都出身。物心ついた時から自主制作映画を撮影から編集までを一人でこなす。14歳からVFXを独学で学び始め、これまで数多くのCG作品を発表してきた。現在は東京に拠点を移しフリーランスの映像作家として活動している。監督でありながらCGアーティストとしても活動しており、CGを活用した作品作りを得意とする。

Vaundyのミュージックビデオ制作は本作で3本目

小林氏:もともと企画の段階でインカメラVFXを使う発想はありましたか?

MIZUNO氏:

まずお話をいただいた段階でAOI Pro.のプロデューサー、芝村至さんからこのような技術があるよと、ご連絡をいただきました。私もその技術を前から追っていて、海外のサイトで知っていました。「面白そう」「使ってみたい」、と思って承諾に至りました。

小林氏:元々CGの作品をよく作っていたと伺っています。

MIZUNO氏:

元々CGの人間で、フリーでCGクリエイターだったのですけど、そこからディレクターになったという形で活動していますね。

小林氏:それで実際のCGだけではない人物の作品はいつぐらいから作り始めたのですか?

MIZUNO氏:

約1年前から監督を始めて、今ちょうど5本ディレクションしたところです。

小林氏:かなり、この業界の若年化が進んでいるなあと(笑)

MIZUNO氏:

私もいきなりこういう大きなお仕事をいただいて、大変なプレッシャーでした(笑)

小林氏:インカメラVFXを軸に考えていくと、シチュエーションが多くて見応えがある作品だなと思いました。

MIZUNO氏:

Vaundyのミュージックビデオは、今回3本目になります。毎年一緒に行っていて、本人とも仲が良い関係です。今回も話をしていく中で、見たことのないものを作りたいと本人も言っていました。
MVとしてまず絶対条件で、いいものを作らければいけないというのがあると思います。それに加えてバーチャルプロダクションをうまくそこにはめ込んでいかなければいけないという課題がありました。そこが構成していく中で悩みどころではありました。

MIZUNO氏が手掛けたVaundyのミュージックビデオその1「life hack」

MIZUNO氏が手掛けたVaundyのミュージックビデオその2「東京フラッシュ

小林氏:全体の中で、バーチャルプロダクションを使ったのは何割程度ですか?

MIZUNO氏:

途中の金網があって、周りにブラウン管があって、人々が囲んでるシーンは実写で撮影したのですけど、それ以外のトイレ、電車は、バーチャルプロダクションで撮影していますね。

MIZUNO氏独特の荒廃した世界観をバーチャルプロダクションで再現

小林氏:取材に行ったときに見させていただいたのは、電車のシチュエーションだったのですが、なかなかあのシチュエーションをいまの日本で撮ろうと思うと大変だなぁと思いました。

MIZUNO氏:

私自身のCGの世界観がまさに荒廃したものだったり、ああいったグラフィティに寄ってる場面、恐らくセットでは難しいものを普段からCGで作っています。
それが今回バーチャルプロダクションによって、実写の世界に落とし込まれたという気がしました。

電車内のカット

小林氏:確かになかなか映像のギリギリの境目って言う感じが(笑)。でも見え方としては大変にリアリティーのある見え方になっていて、展開的にもシームレスに繋がっていく構成になっています。電車の中でそこから扉を出てというのは、最初にプレビズで作ったりしたのですか?

MIZUNO氏:

今回は特に動線が複雑になってきました。スクリーンの関係性もあって。最初のプレビズで何段階も重ねて、構成を積極的にブラッシュアップしながら進めました。

監督が用意したプレビズ

小林氏:聞くと、元々の企画ですとオフィスのシーンもあった(笑)。それはまるっきり方向性が変わってきて今のに落ち着いたような感じですか?

MIZUNO氏:

最初、スタッフも私も含めて、誰もバーチャルプロダクションの特性を理解していない状況でした。テスト撮影を重ねていって、「この企画では少しハマらないよね」という意見が多数出てきたのですよね。
そうなった時に思い切って、ガラッと方向転換しないと劣化したものになってしまうので、まるっと白紙に戻してやり直しました。

小林氏:バーチャルプロダクションが表現しやすい題材に?

MIZUNO氏:

切り替えていくような形で、どんどんやってきましたね。

CGの世界観を伝える方法としてバーチャルプロダクションは最適

小林氏:今回バーチャルプロダクションを行ってみて、単純に良かったこと、普段の撮影と少し違うというような抵抗感があったところがあれば教えてください。

MIZUNO氏:

もっとも感じたことは現実の拡張ができると思っています。私は普段CGをやる上で、クロマキー撮影が多いんですよね。
手前人物で、奥がクロマキーの形が多かったりしますが、実写ではないと出せない世界観、雰囲気みたいなものがあることに気がつきました。
元々CGを行っていたからこそ、よく、映画で「すべて実写です」みたいな煽り文句があるじゃないですか。ああいうのを聞いていた時に、「CGはCGで良いとこあるのにな」って思っていました(笑)

小林氏:無理して実写でやる必要ない(笑)

MIZUNO氏:

「CGはCGの良さがあるのに」と思う中で、監督になって、実写作品を撮るようになってから、「あ、実写でないと、伝えられない空気感みたいなのってあるな」ということに気がついたのですよね。
で、それを行っていく中で、「CGはどのようにすれば世界観を伝えられるのか?」というのを、凄く考えて模索しました。それがバーチャルプロダクションを使った瞬間、意外と上手くハマったということがありました。

小林氏:実写のライブ感とCGで作り上げたコントロールできる部分なんでしょうね。

MIZUNO氏:

そうなのですよ。絶対実写ではできない、セットを組まなきゃできない存在感をそのままを拡張してそこに置けるというのがあるから。
見ている視聴者の方にも、何か空気感がより伝わるようなものが作れるのではないかと思いました。

小林氏:MIZUNOさんは、もともとCG制作もしていたので、実写では表現しきれない先の想像力もある。それが無いと、この技術で何をしたらいいの?ということになってしまう。

MIZUNO氏:

確かにそうだったと思いますね。僕は表現したい世界観が先にあったので、何かそれをうまくはめ込むことができたのかなっていう。

小林氏:これだったらできるじゃん!っていう

MIZUNO氏:

そうですね。

バーチャルプロダクションはシステム的なところが課題

小林氏:それを考えていくとまた広がっていきます。それで今回、この作品を作ってみて、思っていたものと違ったということは何かあったりしますか?

MIZUNO氏:

デメリット的なことでいうと、少し、システム的なものが追いついていないというのがありました。
海外では、もっと大きなスクリーンやもっと凄いCGのディテールを詰めていってしまうのですけど、国内ですと少し限界があります。マシンのスペックがあって、どうしてもそこがまだネックになっている気がしました。
でもこれって、恐らく市場が拡大していくと高くなると思うので、この技術が恐らくここ数年で一気に発展した時に、もっと自由の利くものになっていく気はしました。

小林氏:実際ディスプレイの広さが撮影できる範囲の限界にもなっている。その大きさがあればディスプレイまでの距離もとれる。あとハイスピード、そういったものにどこまで対応できるかも…。

MIZUNO氏:

どうしてもそこで幅が狭められてしまうのが、大変もったいないということがあって。もっと拡張性のあるものができてくればいいなと思いますね。

バーチャルプロダクションは網目が細かいものや反射物に有効

小林氏:クロマキーでの撮影が多いとのことですが、それと比較してどれぐらい利点があるのか?クロマキーの方が向いていることがあれば教えて下さい。

MIZUNO氏:

一番の利点はやはり透過物や反射物。そういったものがクロマキーですと絶対に抜けないものになってしまうので、それがうまく抜けることです。
例えば今回、金網のシーンを撮ってますが、網目が大変細かいですよね。あのシーンをクロマキーで撮影してしまうと、網の部分が緑に溶けて緑が反射してしまいます。消えてしまうことがあるのですけれども、それが絶対ない。あと、色被りで消えてしまうってことも基本的にありません。

金網を使用したシーン

小林氏:あと効果的だったものは電車の窓ではないでしょうか?

MIZUNO氏:

反射物ですね。これも有効です。手すりや窓の映り込みがクロマキー撮影ですと、CGの後処理でやるしか無くて。リアリティーは出ないんですよね。
それが出せることによって、その現場の空気感だったり、フレームの中のちょっとした部分ではあるんですけど、そこにディテールが映り込んで、凄くリアリティーのある画になっていくと思いますね。

小林氏:今回一本撮り終わって、この次はこういう使い方をしてみたいとかありますか?

MIZUNO氏:

今回は挑戦した点が多くて、例えば回転台で回す、人物を回しながら背景も回すみたいな、あまり他の海外プロジェクトでも行っていないことに挑戦しました。それももっとスクリーンが大きくなったり、もっとハイスピードに対応みたいなことになってくると、恐らくやれることがもっと広がるなとは思っています。
あえて人物を固定して背景だけ動かすという固定概念にとらわれず、なんかいろんな動きを作っていけるんじゃないかなと…模索したいですね。

小林氏:リアリティー寄りではない、現実感を少し拡張した感じの世界(笑)

MIZUNO氏:

そうですね。やっぱりリアリティーって、実写で撮ればいいじゃないっていう話なので、それは実際実写で撮ってしまえば一番のリアルなので。

小林氏:そうですね。

MIZUNO氏:

そうではない「CGでしかできない表現」も追求したいです。

小林氏:でも確かに。そういうノイズが入ってきたりとか…だいぶ取り入れてましたね。こういったこともいろいろな今後の展開として考えて…。

MIZUNO氏:

できれば面白いなとは思いますね。
あと広さと、使う側の視点が増えたらいいなと思っていまして。
ディレクターやクライアントやすべてのスタッフに言えることなんですけど、仕事をする段階で、技術を使いたいから映像を作るという考え方になると、上手い使い方ができないと思います。
逆にバーチャルプロダクションをひとつのツールと見て、「こういう映像を撮りたいから、バーチャルプロダクションがハマるのではないか?」ということを、監督やクライアントが理解して、そこが咬み合わさっていく作り方をしていくと、恐らくもっと広がっていくと思います。

小林氏:確かに。企画ありで、これだったらこれっていう。今回は外側から固めてった感じですが(笑)。ではぜひ今度、うまくハマる企画があればってことで(笑)

MIZUNO氏:

本当に、だから、積極的に使える監督さんが増えていくと、もっと面白いものがまた世の中に溢れていくんだろうなと思いますね。

小林氏:そうですね。そこに期待したいですね。ありがとうございます。

小林基己
MVの撮影監督としてキャリアをスタートし、スピッツウルフルズ椎名林檎リップスライムSEKAI NO OWARI欅坂46、などを手掛ける。映画「夜のピクニック」「パンドラの匣」他、ドラマ「素敵な選TAXI」他、2017年NHK紅白歌合戦のグランドオープニングの撮影などジャンルを超えて活躍。バーチャルプロダクションのVFXアドバイザーの一面も。noteで不定期にコラム掲載。

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