花王株式会社(社長・長谷部佳宏)テクノケミカル研究所は、セルロースナノファイバー※1を用い、物がすべり落ちる表面を作り出すことで、付着を抑制する水性のコーティング剤技術を開発しました。
今回の研究成果は、第30回ポリマー材料フォーラム(2021年11月10~11日、オンライン開催)にて発表予定で、同フォーラムのパブリシティ賞を受賞しています。
※1 サステナブルな素材として注目されている、植物などから得られる繊維をナノサイズまで細かくほぐしたもの。

■背景  私達は日々の生活の中で、窓の汚れや鳥の糞など、さまざまな付着物に悩まされています。付着物は景観を損なうだけでなく、屋根の積雪で家屋が破損する、太陽光パネルに付着した鳥の糞で発電効率が低下する、といった

図1.ウツボカズラ
悪影響を引き起こすこともあります。また、これらを除去するには、多大な労力やコスト、エネルギーが必要です。

 ウツボカズラという植物(図1)は昆虫をすべらせて捕食することで知られていますが、その壺内面は潤滑液で覆われており、その内面を模倣した表面は「滑液表面(すべる性質を持つ表面)」と呼ばれています。花王は、この構造に着目し、塗布するだけで対象面を滑液表面にするコーティング剤の開発を行ないました。同時に、環境や作業者の健康にも配慮し、有機溶媒を用いない設計を検討しました。


■塗布するだけで滑液表面を作り出す、環境と人に優しいコーティング剤を開発
 コーティング剤でウツボカズラのような滑液表面を再現するには、対象の表面が常に潤滑油で濡れている状態を作る必要があります。花王は、液体を保持する性質に優れたセルロースナノファイバー(CNF)と潤滑油を組み合わせると、CNFが潤滑油を保持し、長期間に渡って微量の潤滑油が放出され続ける表面を作れるのではないかと考えました。
 しかし、潤滑油は疎水性(水をはじく性質)なため、逆の性質を持つ親水性のCNFにはなじみません。そこで、花王がこれまで蓄積してきたCNFの表面を疎水化する技術を応用し、潤滑油となじみやすくしたCNF(疎水化CNF)で潤滑油を強固に保持する技術を開発しました。さらに、環境や作業者の健康に配慮し、有機溶媒を用いない水性のコーティング剤を作ることを目指しました。そのためには、疎水化CNFと潤滑油を水中に微分散(乳化)させる必要があります。今回、CNFが界面活性剤と同様の作用を持つことに着目し、強い力をかけることで、疎水化CNFが潤滑油を覆った毬(まり)のような状態で水中に乳化することができました(図2)。
 また、コーティング剤を対象物の表面に塗布すると、毬のような構造体が積層した膜を形成していることを確認しました(図3)。これにより、当初の狙い通りにCNFが潤滑油を保持し、長期間に渡ってすべる性質を維持できる表面が作れたと考えられます。
図2.疎水化CNFが潤滑油を覆ったコーティング剤
図3.毬のような構造体が積層した膜
              



■付着せずにすべり落ちる効果を確認
 和歌山県アドベンチャーワールドご協力の下、インコのケージにコーティング剤を塗った板を入れて、糞の付着抑制効果を検証しました。その結果、塗布した板からは糞がすべり落ち、付着を抑制することを確認しました(図4)。
図4.アドベンチャーワールドでの鳥糞付着抑制検証

■様々な物がすべり落ちる様子
■まとめ
 疎水化CNFで潤滑油の保持性を改善することで、高持続性の滑液表面を作りだし、さらに、環境や作業者の健康にも配慮した水性のコーティング剤を開発しました。この知見を応用し、今後は付着物によるトラブルの解消やさまざまな表面におけるメンテナンス低減に有効活用できるよう、用途に応じた提案を行ない、商品としても発売していきます。

配信元企業:花王株式会社

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