JAM Projectのメンバーとしても活躍するシンガー・遠藤正明がソロとしてひさびさのリリースとなるのが、現在放送中のTVアニメ『サクガン』のオープニングテーマ。自身が惚れ込んだ世界で描かれるワクワク感や親子愛などを盛り込んだ「恍惚ラビリンス」は、この時代の閉塞感を遠藤のパワフルな歌声が打ち破るような、ポジティブなエネルギーに満ちた一曲だ。そんな「恍惚ラビリンス」がどのようして生まれたのか、遠藤に話を聞いた。

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サクガン』に負けない熱さと前向きさを楽曲に
――9月の遠藤さんは、JAM Projectの全国ツアー”GET OVER -JAM PROJRCT THE LIVE-”がありましたが、JAMとして久々のファンを前にしたステージはいかがでしたか?

遠藤正明 お客さんを前にして最後にJAMをやったのは2年前だっけ?(”JAM Project Special Live 2019 A-ROCK”以来)。去年は20周年という区切りの年だったので、そのライブが本当にやっと実現したというか、感慨深かったですね。個人的にはJAMってコール&レスポンスやってなんぼのもんのグループなので、そういう意味では声が出せないなかでどうなるのかなって思ってたんだけど、普通に楽しめましたね。

――8月には遠藤さんバースデーライブもありましたし、最近は徐々に観客を入れたライブも再開されてきました。それもできなかったこの1年の生活は、改めて遠藤さんにとってどんな時間でしたか?

遠藤 俺にとってはね、ライブができないのがいちばん苦しかったことだったんですけど、ほとんどの仕事って家で曲を作る仕事だったりするので、生活スタイルはそんなに変わってないですよね。でもいちばん変わったのは、飲みに行けないこと。みんな知らないと思うんですけど、俺、飲みに行くのが好きなんですよね(笑)。

――存じています(笑)。

遠藤 飲みに行くのが好きで遠藤会という飲みサーまで作った人間が飲みに行けないのが、いちばんのネックというか。それで家で飲んだりっていうのはあったんですけど、家にいるとそんなに飲まないんですよ。そこで感じたのは、俺、酒が好きなんじゃないんだなって。酒が好きなんじゃなくて、酒を一緒に飲んでわいわいする場が好き。それで家で変わらず制作活動をするんですけど、それってアウトプットじゃないですか。それでインプットというのが俺の場合、飲み会だったんですよ。それを封じられた今、アウトプットしかしていなくて。インプットの場がなくて本当に死活問題だなって。

――遠藤会という場が遠藤さんにとって大きなインプットの場だったと。

遠藤 だからコロナ禍で時間があって曲いっぱい作れるでしょって言う方がいらっしゃるんですけど、逆に俺は一曲も作れてなかったんですよ。アーティストの個人差や性格もあるんでしょうけど、俺はできなかったなあ。

――そんななか10月から放送されるTVアニメ『サクガン』のオープニングテーマ「恍惚ラビリンス」をリリースします。『サクガン』自体は2019年のアニメ化の発表から公開オーディションと時間をかけて制作されてきましたが、遠藤さんにオープニングテーマのオファーが来たのはいつ頃でしたか?

遠藤 それこそメメンプー役がオーディションで選ばれてっていう頃にお話をいただいて、作品を読ませていただいて「こういう作品なんだ」って。最初はオープニングを制作させていただくというところから始まったんだけど、作品を読ませてもらったら面白くて、すごくのめり込んでいた自分がいて。俺の世代でも全然入れるというか、ロボットものなんだけど父親と娘の壮大な冒険もので、今まででありそうでなかったようなストーリーですごく面白かったですね。男としてこの世代でもハマる、夢中で読んでいました。

――コロニーから外世界のラビリンスに挑むというストーリーはロマンがありますよね。その作品から感じたものを「恍惚ラビリンス」に込められたと。

遠藤 そうですね。最初にこの話をいただいて、オープニングはガガンバーという父親の目線で曲を書いてくれというオーダーをいただいて。作曲編曲も初めて一緒にやるチームで、そういう意味でもすごく新鮮でした。『サクガン』も冒険ストーリーということで俺もワクワクしながらやらせてもらったし、すごくいいテンションで持っていけたというか。でも最初は、「こういう感じの曲を考えています」というのをいただいたんですけど、最終的に完成した「恍惚ラビリンス」とはまた違った曲調なんですよ。

――『サクガン』という作品の、どこをフィーチャーして曲にするかというのを話し合われたと。

遠藤 うちらはうちらで素直にその作品を読んで、こういう曲のほうが合うなってディスカッションをして生まれた曲なんですね。俺からも「こういう感じはどうでしょう?」って提案させていただいて、向こうも「いいですね」って今のスタイルになったといいうか。

――そうしたすり合わせがあって、現在のブラスの入ったファンキーでポジティブなサウンドになったわけですね。

遠藤 俺も原作を読ませてもらって作画を見せてもらったんですけど、絵もすごく綺麗な一方で、大人な世界観も感じたんですよ。なので、すごく大人な感じでおしゃれで、でも力強くて、親子愛もあって。冒険ものなのですごく展開もあるし、それなら歌も展開をしていきたいねっていう話をして。初めて仕事するクリエイターたちだったんだけど、色々と話し合って、すごく新鮮に制作できましたね。

――作品のクオリティーも相まって、遠藤さんもモチベーション高く制作ができたと。

遠藤 うん。ロボットものということでスーパーロボットリアルロボットもいいんですけど、今回出てくるビッグトニーというロボットは、マシン好きは絶対好きだろうなって。俺、あまりに好きすぎて放送前にフィギュア予約しちゃいましたもん(笑)。それぐらい男の子というか、俺ら世代も刺さるようなロボットデザインでもあるし。

――そうしたテンションの高さというのは曲調や遠藤さんの歌唱にも表れているのかなと感じますね。

遠藤 今のアニメの作品ってすごく絵も綺麗だし、展開も早い。それに見合うだけの作品にしないと、歌が追いつかないって思いますね。最初に提案してもらった曲は、落ち着いた大人の曲をイメージされていたんですけど、それじゃあ歌が作品に負けちゃうなって。

――作品に負けない熱さと展開の多さというのはそこから来ているんですね。一方で作詞のほうはいかがでしたか?

遠藤 作詞は父親目線、ガガンバー目線で書かせてもらったんですけど、最初に書いていたのは本当にガガンバー目線すぎて、娘のことをほったらかしにしちゃったんですよ(笑)。

――そこは若干ガガンバーともダブりますね(笑)。

遠藤 制作サイドからも「これもいいんですけど、娘も主役なのでもうちょっと……って」(笑)。そういうことで書き直したんですけど、ちょっと手こずりつつもそこから”No matter what you say・・・ No matter what I say・・・”という、この作品でいちばん言いたかったフレーズを思いついたんですよ。ここからガガンバーとメメンプーの性格がわかってもらえたらなって。「お前が何を言おうとも君は自分の道を進んでいくし、俺が何を言おうとも君のことを想っている」という、2人の頑固さというか、それをすごく言い表せたらいいなって。そういうのが上手くハマったなって自分では思います。

――冒険譚というゴージャスさもある一方で、ガガンバーとメメンプーの親子愛も盛り込んだ楽曲になったわけですね。

遠藤 やっぱり曲でワクワク感は出したいなと思ったし、親父と娘の大きな家族愛も感じてもらえたらなって。

――そこはやはり遠藤さんの、いわゆるさまざまな経験を積んだ人間による歌詞と歌があって説得力を持つんだと思います。

遠藤 嬉しいですね。「俺に歌ってほしい」って言われたときは、最初「俺でいいんだ」って思ったんですよ。新しい才能を発掘していくアニメ作品で俺に白羽の矢が立ったことはすごく嬉しかったんですけど、最初は正直どうなんだろうなって考えながら作品を読んだり曲を作らせていただいたんですね。でも、俺の世代だからこそこういう歌詞を書いて歌える、だから嘘くさくないのかなって。やっぱりリアリティがないと嘘くさくなる。こういう年代だからこそこの歌をうたわせていただいたんだなって。

――そうしたリアルがアニメにも必要な瞬間はありますよね。

遠藤 俺は今年の8月28日で54歳になったけど、磯野波平さんと同い年なんだよね(笑)。だからってわけじゃないけど、親父目線というか、こういう歌詞をうたっても嘘くさくないんだと思います。

――またそれはアニメの楽曲という意味のほかにも聴く人を勇気づけるんだと思います。

遠藤 こういう時代に、みんながいろんなことを考えていますよね。もちろん作品のための曲ですけど、そこからみんながいろんなものを感じ取ってもらいたいですね。

こんな時代だからこそ、素直な想いを届ける音楽を
――そしてカップリングは遠藤さんの詞曲による「キミの詩 -Sing a Song-」になります。

遠藤 「恍惚ラビリンス」はブラスが入ってキラキラしているロックチューンなので、正反対のものにしようと。俺の得意な暗くて、女々しくて(笑)、そういうバラードがいいんじゃないって。ディレクターとかとも話していて「そういう曲にしよう」となったので、色も匂いも表題曲と正反対のものを振り切った曲にしたいなと思って、シンプルイズベストというか、余計な物を削ぎ落とした曲にしようと。

――サウンドもピアノがメインのシンプルなもので、このアレンジを手がけたのがかつてJAM Projectのバンドでも活躍された寺田志保さん。

遠藤 志保ちゃんは昔から一緒にやらせてもらっているんですけど、以前からこの方の才能を買っていて。JAMで一緒にやっていたときも「すげえな」って、うちらのような野蛮なロック好きが持っていないクラシカルな旋律というか(笑)。そんな志保ちゃんのアレンジが好きで、今回もこの曲をやってもらいたいなって思ったんだけど、志保ちゃんって毎回俺の歌をやってもらうとすごくシンプルにしてくるんですよ。

――たしかに非常にシンプルかつ効果的なアレンジですよね。

遠藤 でも俺、ここまでシンプルだと思ってなくて(笑)。「コーラスも考えてきて」って言っていたんですけど、レコーディング当日に「コーラスいらないよ」ってなって。いや入れようよ!って(笑)。聴いていただくと間奏と最後にウーワーのコーラスが入っているんですけど、最初はそれさえもいらないと(笑)。

――寺田さんとしては、やっぱり遠藤さんの歌を前面に打ち出したくなるんじゃないんですか?

遠藤 でもそこまでシンプル?って。忙しすぎて俺の現場で手を抜いてるんじゃないか?って思ったもん(笑)。でも抜いていく作業って意外と難しいじゃないですか。シンプルだからこそ難しいし、深いし。そういう意味ではこれもすごく楽しくやらせてもらったなって。

――そんな寺田さんの目論見通りか、遠藤さんのメッセージが伝わる一曲になりました。

遠藤 でも作ったときはあまりにも暗いかなと。こういう時代だし、あまりに暗すぎるのもなあって思って、あと2曲提出したんですよ、もうちょっと明るいものとカラッとしたものと。でもこれでいいんじゃない、こっちがいいよって周りからも言われて。元々暗い人間なんですよ、わかってると思うけど(笑)。だからしょうがないんですよね、これがリアリティというか。

――曲調的には少し暗いというのが逆に今の時代に聴くうえでリアリティがあるかなと。その一方で歌詞は前向きですし。

遠藤 曲調はこうなので、歌詞はあまりに暗くはしたくなかったなって。カップリングなので好きなことは書けるんですけど、やっぱり『サクガン』に沿った歌にしたいなって。もし俺がガガンバーだったらメメンプーをどう守るんだろう。それはやっぱり俺は歌でしか守れないと思うんですよ。そう思ってこういう歌詞になりました。

――それはメメンプーであり、聴いているファンに向けての歌でもあるのかなと。

遠藤 そうだね。もちろんこういう時代に、この曲を聴いてちょっとでも力になってくれたらなって思いましたね。俺はもともとSNSをやらない人なので、ライブぐらいしかコミュニケーションをとる機会がなかったんですけど、それも封じられている時代で、だからこそすごくファンのありがたみを感じるし、曲でみんなに何かを伝えてあげたいなっていう想いはありますよね。今回はカップリングですけどみんなに伝えられる場があって幸せだと思いますよ。

――そうですね。曲という場で遠藤さんの素直な想いを知ることができるのはファンにとっても嬉しいことだと思います。

遠藤 JAMって、強くなきゃいけないじゃないですか。JAMが弱かったら誰もついてこないし、だからJAMは強くなきゃいけないし、警告する側の人でなくてはいけないんですよね。でもソロの自分ってそこまで強くないし、女々しいし、暗いし……っていう同じ目線での歌詞しか書いてこなかった。それがリアリティであって、これが自分なんだって。JAMはJAMで強い自分を出していてそれも嘘ではないんですけど、ソロではこれが俺のリアルなのかなって。

Always Full Voiceーー”いつでもやる奴”でいたい
――改めて本作は、『サクガン』という作品を通して遠藤さんが今伝えたい想いというものが打ち出せた作品なんだとわかりました。

遠藤 俺は幸せなことに、タイアップという作品を聴いてもらえる場がまだあるので、自分のなかでまだ保てているというのはありますよね。インプットする場がなくてアウトプットばかりと言いましたけど、なんとかインプットしようとするんですよ、飲みに行けなくても(笑)。そういう意味ではこういう場を与えてもらっていることはすごく幸せなことだなって思いますね。

――たしかに『サクガン』からのインプットでこうしたアウトプットができたわけで。それはやはり、アニソンシンガーだからこそできるものでもあるのかなと。

遠藤 うちらってタイアップ欲しいとか歌いたいって言ってもどうなるものでもないじゃないですか。うちらはずっと受け身の人間でそれが仕事なので、幸せなことにこういう場を与えてくれたら120パーセントの力を発揮して応えられる人間でありたいなと。コロナ禍であろうがやる奴はやるし、やらない奴はやらないし。俺はいつもやる奴でいたいなって思いますね。

――アニメ作品とタッグを組むという限られたチャンスのなかで、どれだけ100パーセント以上のパフォーマンスを発揮できるか。

遠藤 チャンスってみんな人それぞれ同じぐらい来ると思うし、それが来たときにちゃんと応えられる人間でありたいし、やっぱりそうじゃないといけないなって思いますよ。インプットできない、飲みにいけないこのときをね(笑)。

――しかしインプットができない現状はかなり切実ですね。

遠藤 そうなんですよ。ほんと死活問題なんですよ(笑)。

――そうなると遠藤さんといえども、やはりライフスタイルも変わってくるのかなと。

遠藤 ここだけの話ですけど、うちのバンドのギターが体質改善をするために白湯を飲み始めたんですよ。「白湯!?なんかの修行?」って最初思ったんですけど、俺も始めてみたんですよ、白湯。

――朝に白湯を飲むといいと言いますよね。

遠藤 今年入ってからずっとやってるんですけど、ジジくさいって言われるのが嫌であまり言ってなかったんですよ(笑)。

――最近は若い人もやっているみたいですから大丈夫ですよ(笑)。

遠藤 で、ほかにやる気を出すにはどうしたらいいのかっていうのもあって、前は泳ぎに行ってたりしていたのが最近は行かなくなって。運動もしなくなって、なんかしなきゃいけないと思って。それでオリンピックが始まる前から予選とか観ていてたら、アスリートたちが試合前にぴょんぴょん跳ねるんですよ。これなんだろう?と思ってそれで真似してみたら、やる気が出たの。

――アスリートが集中力を高めるのに、試合直前でぴょんぴょん跳ねるというのも聞いたことがります。まるで「SKILL」の”I can fly!”のような(笑)。

遠藤 そうそう(笑)。それで、白湯飲んだあとにジャンプするんです。そしたらめっちゃやる気が出るの。逆にそうしないとやる気が起きなくて。だから自分の体質や生活を根本から変えてやる気を出さないと、制作は作れないなって。自分が前向きになるためにはどうしたらいいだろうっていうのを試行錯誤していますね。

――今だからこそ自分の体質を見つめ直すというのは、いいことだと思います。

遠藤 それからというのも、気分的にはトゲトゲしくなくなりましたよ。いつもギラギラしてなくちゃいけないってずっと思ってて、十代からずっとそうやって生きてきたんですよね。ギラギラするのは悪くないんですけど、もうちょっと落ち着いた自分もいていいのかなって。そういう意味では自分のことを見つめ直すことがなかったのでいい機会だったと思う。

――そうした変化が音楽にどう影響するのかも楽しみの一つですね。

遠藤 そうですね。楽しみにしておいてください。

INTERVIEW & TEXT BY 澄川龍一

●リリース情報
TVアニメ『サクガン』オープニングテーマ
遠藤正明
「恍惚ラビリンス
10月27日発売



品番:LACM-24177
価格:¥1,320(税込)

<INDEX>
01. 恍惚ラビリンス
作詞遠藤正明 作曲・編曲:Carlos K.、Keisuke Koyama、DAICHI、Konnie Aoki
02. キミの詩 – Sing a Song –
作詞・作曲:遠藤正明 編曲:寺田志保
03. 恍惚ラビリンス (off vocal)
04. キミの詩 – Sing a Song – (off vocal)

●ライブ情報
遠藤正明 christmas acoustic night 2021-22 ~present of the voice~

2021年12月24日(金)
会場:名古屋市青少年文化センター[アートピア]
開場 17:00/開演 17:30

2021年12月25日(土)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
開場 16:00/開演 17:00

2022年1月8日(土)
会場:渋谷区文化総合センター 大和田 さくらホール
開場 17:00/開演 18:00

前売り:¥6,000(税込・指定席)

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関連リンク
遠藤正明オフィシャルサイト
https://endoh-masaaki.com/
リスアニ!

掲載:M-ON! Press