岸田文雄首相が総選挙後に策定する経済対策の原案を独自に入手した。その中身を全5回にわたって詳報する。第1弾では「新しい資本主義」、第2弾では「デジタル田園都市国家構想」の原案を紹介した。第3弾で紹介するのは、岸田首相の目玉政策の一つとなる「経済安全保障」の原案だ。(イトモス研究所所長 小倉健一)

独自入手した岸田内閣の経済対策原案で
「経済安全保障」の詳細が判明

 岸田文雄首相は、9月の自民党総裁選で「令和版所得倍増計画」や「金融所得課税の見直し」などを公約にしながら、首相就任後に方針を一転させてきた。

 岸田首相は「自分では決められないけど、下(官僚)には強い」(岸田派議員)、「就任時に気分が『ハイ』になって、実現できないことを口に出してしまった」(財務省官僚)など、その手腕を不安視する声がある。

 そんな岸田首相が一貫して掲げているのが「新しい資本主義」だ。筆者が独自に入手した、岸田首相が総選挙後に策定する経済対策の原案を基に、ベールに包まれてきた中身をいよいよ明らかにする。

 今回詳報するのは、「新しい資本主義」の中でも目玉政策の一つとなる「経済安全保障」の原案だ。

「経済対策の原案」で明かされた“経済安全保障”の中身とは?

岸田首相の肝いり政策
「経済安全保障」の中身とは?

 経済安全保障とは、国の基幹産業や重要インフラを支える技術や人材などを脅威から守るという概念だ。「バラマキ批判」が伴う上、具体的な政策として成果を出しづらい「分配」政策と比べ、自民党内をまとめやすい分野といえる。

 安倍晋三政権時代に自民党政調会長を務めていた岸田氏が政調会に「新国際秩序創造戦略本部」(後に「経済安全保障対策本部」に名称変更)を創設し、一気に認知度が高まった。

 経済安保分野に精通する甘利明・党幹事長を座長に、2020年12月に「提言」、今年5月には「中間とりまとめ」を公表。その中で経済安保を「我が国の独立と生存及び繁栄を経済面から確保すること」と定義している。中国の通信機器大手ファーウェイ華為技術)などを巡る米中の技術覇権争いや国際経済構造の急激な変化をにらみ、国益が損なわれるとの危機感を募らせてきたのだ。

 岸田首相は先の総裁選で、戦略技術・物資の特定と技術流出の防止に向けた「経済安全保障推進法」(仮称)の策定や、「DFFT(自由で信頼あるデータ流通)」の推進などを公約。新内閣発足で経済安保を担当する閣僚ポストを新設した。

 10月8日の所信表明演説では、「新たに設けた担当大臣の下、戦略物資の確保や技術流出の防止に向けた取り組みを進め、自律的な経済構造を実現します。強靱なサプライチェーンを構築し、わが国の経済安全保障を推進するための法案を策定します」と表明。自民党衆議院選挙の公約にも推進法の策定を盛り込んでいる。

 筆者が独自に入手した経済対策の原案には、首相が掲げる「新しい資本主義」の柱として、「経済安全保障の抜本的強化」を明記。自律的な経済構造の実現に向けて必要な基盤整備を行うとし、先端半導体医薬品、蓄電池の国内生産拠点の整備を支援し、サプライチェーンの国内回帰を促進するという。

 量子技術や人工知能(AI)といった先端技術や戦略物資、人材の海外流出防止に加え、有事における必要な物資の国内調達もポイントだ。

経済安保政策の中には「国民の安全・安心」も盛り込む

 また、レアアース希土類)を含む重要鉱物の分析を進め、サプライチェーンを強靭化。先端分野における重要技術の実用化を加速する。

 具体的には、国際競争に打ち勝つための国家戦略として、研究開発から実証・実用化までを迅速・機動的に推進する「経済安全保障重要技術育成プログラム」を立ち上げ、自国での技術構築や社会発展につなげる。また、官民で連携してサイバー空間における脅威への対処能力の向上も目指し、サイバーセキュリティ演習環境も拡充。新型コロナウイルスの感染拡大時に不足した医薬品の安定供給を支援する事業も強化する。

 財政の単年度主義の弊害是正を図るため、新たに基金を創設し、こうした国家的課題を計画的に取り組む方針だ。

経済安保政策の中には
「国民の安全・安心」も盛り込む

 わが国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、経済対策の原案には「国の安全保障の確保を含む国民の安全・安心」というテーマも盛り込まれた。

 海洋進出を進める中国や、核や弾道ミサイルの開発を重ねる北朝鮮をにらみ、「我が国の領土・領海・領空、そして、国民の生命と財産を断固として守り抜く」と明記。自衛隊の安定的な運用態勢の確保や戦略的な海上保安体制構築の推進、危機管理強化のための情報収集衛星の開発に努めるとしている。

 また、アフガニスタンからの在外邦人らの国外退避で多くの課題が浮き彫りになったことを踏まえ、制度や運用の見直しを含めて在外邦人の保護体制を強化。「世界一安全な国、日本」をつくるため、テロなどの組織犯罪対策も進める。

 外相や防衛相などを経験し、外交・安保政策に自信をのぞかせる岸田首相。最近では、敵基地攻撃能力の保有についても積極的に検討する考えを示し、国の安保政策の指針となる「国家安全保障戦略」の改定も指示している。

 ただ、連立政権を組む公明党には慎重論も根強く、その先行きは不透明だ。外務省幹部からは「防衛計画大綱や中期防衛力整備計画を年末に改定するとなれば、超スピードでの大きな変化になる。果たして、そこまで実現することができるのだろうか」といぶかる声も漏れている。

 なお、ダイヤモンドオンラインでは、独自に入手した岸田首相が総選挙後に策定する経済対策の原案を基に、『岸田内閣「経済対策の原案」を入手、謎に包まれた“新しい資本主義”の中身』と『岸田内閣「経済対策の原案」を入手、“デジタル田園都市構想”の具体的中身』の2記事を配信している。併せてご覧いただきたい。

20カ国・地域(G20)臨時首脳会議に出席する岸田文雄首相(10月12日) 提供元:内閣広報室 Photo:JIJI