居酒屋やバルといった飲食店に入るとカウンターの中にたいてい、ビールのタップ(=注ぎ口)が設置されている。お客としては、「あれが自分のテーブルについていると、自分で好きなだけビールが飲めるのに」と思うものだ。

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 それを実現して、今、急成長しているのが「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)である。ちなみに同店の場合、タップから出てくるのはビールではなくレモンサワーだ。

 2019年12月、横浜に1号店をオープンし、丸2年を経過し、現在は50店舗。特にコロナの緊急事態宣言が明けた10月には、緊急事態宣言中に停滞していたFCの開業が動き出し、一気に10店舗をオープンさせた。この急成長を続けるときわ亭には飲食店ならではのDXの姿がある。

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「90分3000円の飲食レジャー」が定着

 ときわ亭に入店してから退店までのお客の行動を紹介しよう。

 ときわ亭では全卓にレモンサワータップが付いている。お客はまず従業員からその利用が60分500円(税込、以下同)であること、さらに30分の延長(330円)が可能であることを説明される。そこで、たいていのお客は90分コースを選択することになり、さらにタッチパネルで料理の注文をしていく。

 「オススメ‼」は「名物塩ホルモン」418円、「“肉塊”レモン牛たん」1859円、「ときわ亭カルビ」869円の3品。この中で、名物塩ホルモンは国産豚の小腸、大腸、ガツのミックスで「ときわ亭」を象徴する商品だ。

 同店ではこの焼き方にこだわっており、「なめし焼き」と呼ぶ焼き方を推奨している。それは、①アツアツの網の上に皿からドサッとホルモンを流し込む。②ホルモンをこまめに箸でなめして水分を飛ばす。③焼き上がったホルモンを網の外側にドーナツ状に移動させる。空いた網の中央のスペースに追加ホルモンを皿から流し込む、というもの。

 名物塩ホルモンを注文したお客はこの方法でホルモンを焼くが、①の工程の時に、店内の従業員が一斉に「いってらっしゃ~い」と大きな掛け声を挙げるのが同店の特徴。この掛け声を聞くことでお客は「この店はどこか違う」という印象を受ける。

 実は、ここにときわ亭がお客へ向けたメッセージがある。それは「最高の笑顔まで0秒前」ということで、「最高の笑顔に“いってらっしゃ~い”」ということ。このパフォーマンスをきっかけにお客はときわ亭の一番の特徴である「ストレスフリー」な食事体験に入っていくという趣向である。

 制限時間の30分前には「お食事のラストオーダーです」と告げられ、制限時間の前にテーブル会計を済ませて、90分の制限時間通りにお客の「ときわ亭体験」は終了する。

 客単価はほぼ3000円で推移していて、リピーターにとっては「90分3000円の飲食レジャー」が定着しているのだ。

持続可能な業態を模索する中から生まれた

 ときわ亭を展開しているのはGOSSO株式会社(本社/東京都渋谷区、代表/藤田建)。2005年12月に会社設立、「人生に潤いを!ハピネススマイル創造カンパニー!」をミッションに掲げ、“渋谷で一番眺望がいい”ことをうたった居酒屋や、チーズフォンデュの専門店、肉バルなどトレンドに沿った業態で、主に空中階での店舗展開を行ってきた。

 同社では3~4年前から「年商100億円規模の持続可能な企業」を目指すようになり、SWOT分析(経営戦略策定方法の一つ)を行ったところ、「大衆居酒屋」「路面店」「日常食」という要素が現れた。代表の藤田氏は、この3つをそろえることが同社のミッションをよりかなえるものと考え、この方向に進んでいくことを決断したのだった。

 そして、このような強みを持つ会社をM&Aしようと、全国各地を回り情報を集めた。

 その過程で、仙台でホルモン焼肉酒場を40店舗ほど展開しているときわ亭と巡り合った。同店にはときわ亭のこだわりがあり、「終戦後、仙台市東一番町商店街では焼鳥屋と豚ホルモンをガス火で焼く店(とんちゃん屋)が多くあり、価格の安い庶民の味として人気があった」というストーリーもあった。

 そこで、藤田氏は仙台のときわ亭のデューデリジェンスを行うことにしたが、そうした中、先方のオーナーから「一度食べに来てくれ」と言われたのだった。実際に現地で商品の数々を食べたところ、「この店を東京でやったら絶対にはやる」という確信を抱くようになる。

 そして、この業態の力を引き出すために、各テーブルにレモンサワータップをつけた「0秒レモンサワー」の仕組みを考えた。

 藤田氏はこう語る。

「当社のミッションにある『人生の潤い』とは、大切な人との時間を過ごす喜びを分かち合うこと、楽しい場を共有するということです。ときわ亭はお客さまが0秒でお酒を注ぐことができて、タッチパネルで注文して、自分でホルモンを焼いていることから、店内に『すみませ~ん、すみませ~ん』という言葉がないのでお客さまも従業員にとってもストレスフリーの楽しい場となっています。まさに当社のミッションを具現化した業態だと思います」

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 GOSSOと仙台のときわ亭との関係性はパートナー契約。食肉のサプライヤーでもある仙台のときわ亭はGOSSO にホルモンをはじめとした食肉を供給し、GOSSOはときわ亭の全国での展開権利を所有している。

「人生の潤い」のためにDXを進める

 藤田氏はときわ亭のコンセプトを「ストレスフリーの焼肉エンターテインメント」と述べるが、これが誕生する以前から「人生の潤い」を具体化するためのさまざまな施策に取り組んでいる。

 GOSSOが重視していることは「お客さまが行きたい店とは従業員が働きたい店」ということ。そこで「従業員にとって楽しい職場」であることを何よりも優先した。

 アルバイトの離職率を下げるために、労務AIを導入。アルバイトが勤務に就いて、初日、1週目、8週目、12週目にアルバイトの状況を分析している。それぞれの節目においてアルバイトの承認欲求は異なるため、社員からアルバイトへ掛けるべき声の内容も異なるわけだが、これを適切に行うことによって、アルバイトの定着性が高まり、その結果、社員が休日をきちんと確保できるようになる。

 同社では『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)をバイブル的な存在としている。この中にある「お互いの違いを尊重し、シナジーをつくっていく」ことに最も注力している。

 具体的には、職場において、上下、役割の違いで居心地のよくないところをつくらない。お互いの関係性の質を上げていくために日々のコミュニケーションを大切にする。会議では会話を大切にして、さまざまな主義主張を尊重する。

 藤田氏はこう語る。

「当社が追求しているのは『人はどのようにすれば輝くことができるか』ということ。このような考え方を持った組織が勝つと考えています。そのために職場のチームは『誰のために』『何のために』ということを考えていき、お客さまから、そして従業員同士で『ありがとう』と言われるような場面や雰囲気づくりに力を入れるようにしています。その理念がないとAIの活用やDXは『楽をするため』となり、何らかの適正化ではなく『省くため』のものになってしまう。そこで、会社が目指している『人生の潤い』の部分に、それに共感した一人一人に生きがいとやりがいを合わせていきます」

 さらに、藤田氏は「情報過多の時代の中で、お客さまに忘れられないようにすること」の重要性を付け加える。「お客さまが2回目、3回目で来店しなくなるのは、前回、料理がおいしくなかった、接客がよくなかった、という要因がある。しかし、一番大きな要素は『お客さまから忘れ去られている』ということ」と語り、常にお客さまに価値提案を行うことが重要であると言う。

 そして、その一環として、9月より一部店舗で配膳ロボットを導入し、これまで培ってきたストレスフリーな環境をより進化させていく仕組みづくりの検証を行っている。

 現状の「ときわ亭」の標準は、店舗規模が30坪60席。路面ないし、地下1階・地上2階でファサードがつくれること。現在の全店舗の平均月商は1000万円程度。

 今年の11月で50店舗体制となり、来年2022年に50店舗を出店し100店舗体制とする。大都市から中都市に加えて、ロードサイドにも出店。家族経営で運営できる小規模な業態も開発。2023年の段階で300店舗体制を想定している。

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