健康診断の脂質検査で「コレステロール中性脂肪の数値が高い」と指摘され、気になった人もいると思います。コレステロール中性脂肪の数値が高いと、健康にどのような影響を及ぼすのでしょうか。また、脂質検査でC判定(要経過観察)やCより悪かった場合、どのような対策が求められるのでしょうか。脂質検査の基準などについて、内科医の市原由美江さんに聞きました。

動物性脂肪や卵の摂取控えめに

Q.そもそも、コレステロール値や中性脂肪値が高いと、どのような病気を引き起こす可能性があるのでしょうか。

市原さん「コレステロール値が高いと動脈硬化が進みやすいので、狭心症心筋梗塞脳梗塞など、血管が細くなることで引き起こされる病気のリスクが上がります。また、中性脂肪値が高いと内臓脂肪が蓄積され、肥満の原因になるほか、脂肪肝へ進展する恐れがあります。これらは糖尿病のリスクになりますし、脂肪肝は肝臓がんのリスクにもなります。

一方で、低ければいいというものでもなく、中性脂肪は体内のエネルギー源になるので、数値が低過ぎる場合、倦怠(けんたい)感などの症状が出る人もいます。コレステロールは細胞膜やホルモン、胆汁酸の原料であり、体に必須の成分です」

Q.脂質検査の項目にある「LDLコレステロール」「HDLコレステロール」「総コレステロール(TC)」「non(ノン)-HDLコレステロール」のそれぞれの違いについて、教えてください。

市原さん「LDLコレステロールは『悪玉コレステロール』と呼ばれ、肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ働きがありますが、過剰になると動脈硬化を引き起こします。HDLコレステロールは『善玉コレステロール』と呼ばれ、余剰なコレステロールを回収する働きがあるので、数値が低いと問題があります。

コレステロールはLDLコレステロールとHDLコレステロールを合わせたもので、以前は主にこの数値で病気のリスクを判断していました。しかし、体によい働きをするHDLコレステロールが高いことで総コレステロールも高くなることがあるなど、総コレステロールでは病気のリスクを正確に判断できないため、最近では、LDLコレステロール、HDLコレステロールを見て判断しています。

non-HDLコレステロールとは、総コレステロールからHDLコレステロールを差し引いたものです。悪玉と呼ばれるコレステロールはLDLコレステロール以外にもあり、それらを表したものです」

Q.健康診断の脂質検査でC判定(要経過観察)やCより悪かった場合、日々の生活でどのようなことに取り組むべきでしょうか。

市原さん「結果が『経過観察』であれば、急いで受診する必要はありませんが、基準値を超えているので生活の改善は必要です。LDLコレステロールやnon-HDLコレステロールが高いのであれば、動物性脂肪を含む食品や卵の摂取を控えめにしましょう。例えば、動物性脂肪を含む食品には、肉の脂身や加工肉(ウインナーベーコンなど)のほか、牛乳やヨーグルト、チーズといった乳製品が該当します。また、卵も1日2個以上食べているのであれば、1日1個までにとどめておきましょう。

なお、D判定(要医療)やDよりも悪かった場合は、すぐに内科を受診しましょう」

Q.中性脂肪値は下がっても、コレステロール値がなかなか下がらない人もいるようですが、なぜなのでしょうか。体質的な問題なのでしょうか。

市原さん「中性脂肪は炭水化物の過剰摂取や飲酒、脂肪の摂取によって高くなります。一方、コレステロールは動物性脂肪や卵、乳製品などの過剰摂取によって高くなるので、両者の数値が上がる原因はそれぞれ異なります。コレステロール値が下がらないのは体質的な問題もありますが、やはり、日々の食事の内容に原因があると思います。

ただし、女性ホルモンや甲状腺ホルモンが減ると、コレステロール値は高くなります。食事の内容を改善しても数値が改善しない場合、特に甲状腺ホルモンの検査をするのが望ましいです」

Q.LDLコレステロールやnon-HDLコレステロールの数値が高いと病気のリスクが高まるということですが、近年、「コレステロールの基準値がおかしい」といった指摘が出ているほか、「コレステロール値に一喜一憂する必要はない」という学説も登場しているようです。コレステロール値は本当に気にしなくてもよいのでしょうか。

市原さん「確かに最近、このような指摘も散見されますが、日本動脈硬化学会の指針に沿って医療を行っているわれわれにとっては信じがたい状況です。同学会の基準は、図の通りです。厚生労働省が5年おきに公表する『日本人の食事摂取基準』では、2015年からコレステロール摂取の上限値がなくなりました。

なぜなら、食事から摂取するコレステロールが血液中の悪玉コレステロールにどの程度影響を与えるかについては、個人差が大きいからです。しかし、上限値がなくなったことは『コレステロールをどれだけ摂取しても大丈夫』を意味しているわけではありません。また、この基準値は病気のない健康な人の基準値であって、糖尿病や慢性腎臓病、心筋梗塞の既往の有無などによって基準値は異なります」

オトナンサー編集部

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