鉄道事業者が設置したのではない、地域住民などが慣習的に渡っている非公式の踏切を「勝手踏切」といいますが、では正式な鉄道に分類されない遊園地の乗りものが道を横切っていた場合はどうでしょうか。愛知県にあった例を紹介します。

登山道を正式ではない鉄道が横切る場合は…

2021年9月、参議院議員が埼玉県内にある「勝手踏切」を横断したとして書類送検されたニュースが話題になりました。勝手踏切とは、地域住民が慣習的に使用している踏切道のことで、鉄道会社などが設けた正式な踏切ではありません。しかしながら、国土交通省の調査では全国に約1万7000あるとされています。

にわかに勝手踏切の存在がクローズアップされたわけですが、かつて愛知県犬山市には登山道を歩いていると、突如として現れる線路がありました。そこを越えなければ先へは進めず、さながら勝手踏切を渡るような感覚になります。

どんな列車が走ってくるのかしばらく待ってみたところ、やって来たのはなんと「きかんしゃトーマス」。これは隣接するテーマパーク「日本モンキーパーク」の豆汽車で、一部の区間だけが園外に飛び出していたのです。

一帯は成田山名古屋別院大聖寺(犬山成田山)をはじめ神社仏閣が点在しているので、参詣者が多く訪れます。また、登山やハイキングを楽しむ行楽客もいます。そうした環境から、登山道はそれなりに往来者がいたと推測されます。線路と交差する地点には、「あぶない」「線路内立ち入り禁止」といった標識が立てられ注意喚起されていました。ところで、ここは「踏切」なのでしょうか。

一般的に鉄道と呼ばれる公共交通機関は、鉄道事業法や軌道法に基づいて運行されています。対して、遊園地内を走っている豆汽車は公共交通機関とはみなされず、ゆえにこれらには法が適用されません。

あくまでも遊園地のアトラクションなので、ここは厳密には踏切と呼べないでしょう。ただ、線路(豆汽車)側が正式な鉄道ではない点は、勝手踏切に通ずる部分がありそうです。

遊園地の豆汽車が通るだけとはいえ、安全面に配慮しなければなりません。そうした事情から、豆汽車が改修されると同時に園外へ飛び出す線路はなくなりました。その後、豆汽車そのものも2009(平成21)年に廃止されています。

登山道を歩いているといきなり現れる「きかんしゃトーマス」。テーマパーク「日本モンキーパーク」の豆汽車なので、踏切も正式なものではない(2005年11月、小川裕夫撮影)。