あまりに残酷だった10歳少女への虐待 2歳児用の紙おむつを着用できるほど痩せ細り… から続く

 起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第78回)。

1998年6月7日、最後の標的となった花奈ちゃん

 1998年6月7日のことだ。

 松永太が企む緒方純子の親族の殲滅。その最後の標的となったのは、緒方の妹の長女である花奈ちゃん(仮名、以下同)だった。

 

 福岡地裁小倉支部で開かれた公判の判決文(以下、判決文)は、そこでの痛ましい状況を明かす。

〈松永は、6月7日、「片野マンション」(仮名)の洗面所でドアを閉めて花奈と2人で話をした。その話合いの前に、松永が台所で花奈に通電した記憶があるが、はっきりとは覚えていない。松永と花奈は、夕方、2人で洗面所から台所に出て来た。松永は、緒方に対し、「花奈ちゃんもそうすると言っているから。」と言い、同意を求めるように花奈の方を向いたところ、花奈は下を見てうつむき加減に小さくうなずいた。緒方は、松永がこれから花奈を殺すつもりであることを理解したが、松永に対し何の異論も唱えなかった〉

 文面からわかる通り、ここで取り上げた状況は、緒方の供述に基づいたものである。なお、これらのなかには事実認定されなかったものもあることを事前にお断りしておく。判決文は、花奈ちゃん殺害について松永から示唆された際の、緒方の心情にも触れる。

「花奈が死にたいと思うのも無理はない」

〈緒方は、花奈は生きていても辛いだけであり、死にたいと思うのも無理はないと思う一方、花奈はもう少し松永の指示に従って生き残れるように頑張れないのかと腹立たしく思った。緒方は、花奈は学校へも行かせて貰えず、ひどい通電を繰り返されるし、生きていても辛いだけだなどと考え、松永の意向に従い、花奈の殺害を自分でも納得した〉

 そしてここでも、自らの手を汚さない松永の卑劣な姿を緒方は明かす。

〈松永は、「片野マンション」の台所で、緒方と甲女(=広田清美さん。甲女がいつ台所に来たのかは分からない)に対し、「両方から引っ張れ。」と指示した。甲女は嫌そうな顔をした。松永は、緒方と甲女に対し、「今から遣れ。」又は「そろそろ遣れ。」と言って、自らは和室に入った〉

 以下も緒方の供述は続く。

〈花奈は、「片野マンション」の台所の南側和室前付近の床の上に、頭を南側に、足を北側に向け、自分で仰向けに寝た。緒方は、電気コードを用意し、花奈の右肩辺りにしゃがみ、花奈の首の下にコードを1回通した。その際、花奈は、緒方が電気コードを通しやすいように、頭を少し持ち上げた。花奈の顔にタオルを掛けたり、口に布(ガーゼ)を入れたことはない。甲女は花奈の左肩辺りにしゃがんだ。緒方と甲女は持っていた電気コードの先端を互いに交換して手渡した。その間、花奈は目を閉じていた〉

首の上の方で電気コードを交差させ、首の上の方を絞めた

 ここで緒方は、前回の犯行後に松永から指摘されたことを思い出す。

〈緒方は、佑介(花奈ちゃんの弟)殺害後、松永から、「首の上を絞めないと、時間ばかり掛かって完全に絞めることができない。」と言われたので、電気コードを花奈の首の上の方で交差させ、首の上の方を絞めるようにした。緒方と甲女は、コードを両手でつかみ、両側に力一杯引っ張った。その際、緒方が引く力の方が強く、花奈の頭が少し緒方の方にずれたので、緒方は、甲女に対し、「ちゃんと引っ張らんね。」と言った。緒方は、佑介を殺害するとき、松永から、「十分すぎるほど引け。」と指示されたので、5分間くらい首を絞め続けた。その間、花奈が身体を動かして暴れるなどしたことはなかった。緒方は、十分に首を絞めたので花奈は死亡したと思い、心音は確認しなかった〉

 これが緒方の記憶を基にした花奈ちゃん殺害時の状況である。一方で、同じくその場にいた清美さん(甲女)の記憶は異なる。

〈甲女は、花奈殺害当日、夕方ころ起き、30分か1時間くらい経ってから、松永の指示を受けて、和室で、独りで、「東篠崎マンション」(仮名)に移るための荷物をまとめたり、整理したりした。甲女が荷物の整理をしていると、甲女が起きてから2時間くらい経ったころ、松永が台所で緒方に対し、「花奈に電気を通す準備をせい。」と言うのを聞いた。松永と緒方は、台所の南側和室付近で、花奈に通電し始めた〉

全裸仰向けに寝かされ、すのこに縛り付けられ通電

 清美さんは松永と緒方が花奈ちゃんに通電している間も、荷物の整理を続けていた。その際、台所を通ることがあり、通電の様子を何回か見たと供述する。

〈花奈は、床に2枚並べたすのこの上に、頭を南側に向けて全裸で仰向けに寝かされ、両手首、両足首、両膝を帯のような紐ですのこに縛り付けられた状態で通電された。松永は、花奈の足元付近で、背もたれのある椅子に座り、花奈の方を向いていた。緒方は、花奈の右肩付近に立っていた。松永は、クリップを取り付けた電気コードやコンセントに差し込んだ延長コードの差込み口を持ち、緒方に対し、「(クリップを)太股に付けろ。」と指示した。緒方は、花奈のいずれかの足の太股の外側と内側にクリップを取り付けた〉

 松永は、延長コードの差込み口と電気コードのプラグをそれぞれ片手で持ち、それらを接続させて通電したという。

〈花奈は、通電されると、身体を痙攣させながら、「ヒックヒック」と、しゃっくりのような声を上げた。そのとき、花奈の陰部にクリップを取り付けて通電するのも見た。松永と緒方は、その日、花奈に対し、それ以外の部位にも通電したが、具体的な部位は思い出せない。甲女は、荷物を整理している間、花奈が30分くらい「ヒックヒック」と声を上げるのを聞いたので、花奈に対する通電は30分くらい続いたと思う〉

「息を吹き返すかもしれんけ、注意して見とけよ」

 清美さんの記憶は緒方のものとは異なり、この時点で花奈ちゃんが死亡、もしくは意識を失った状態にあると認識していたようだ。

〈甲女は、花奈に対する通電がいつ終わったのか分からない。松永は、花奈の声が聞こえなくなってから、花奈の近くに立っていた緒方に対し、「お前が逃げたけ、全員殺さないけんくなったぞ。」と言った。花奈は、通電が終わったときも、通電を受けていたときと同じ状態で、全裸ですのこに縛り付けられ、仰向けに横たわっていた。花奈は動かなくなったが、被告人両名は、そのことで慌てたり驚いたりした様子はなかった。被告人両名が、花奈に対して人工呼吸や心臓マッサージをしたことはなかった〉

 花奈ちゃんが動かなくなってからも、清美さんは「片野マンション」から「東篠崎マンション」に移動するための荷物の整理を続けており、その作業を緒方が手伝ったと記憶している。そして整理が終わると、松永は緒方だけを「片野マンション」に残し、清美さんと(松永と緒方の)長男、次男を連れて、「東篠崎マンション」に向かった。

〈松永は、「片野マンション」を出る前、緒方に対し、「息を吹き返すかもしれんけ、注意して見とけよ。」と言った。松永は、甲女に対しても、「あんたも逃げたら一家全滅になるよ。」と言った。甲女は、緒方のように逃げたら自分も祖母夫婦も殺されるので、松永には逆らえないと思った〉

 

 その後、タクシーで「東篠崎マンション」に到着すると、松永は清美さんに対し、「片野マンション」に戻るよう指示をした。清美さんによる供述はさらに続く。

〈「片野マンション」の台所は豆電球がついており薄暗かった。花奈は、通電されたときと同じ状態で、全裸ですのこに縛り付けられて、仰向けに横たわっていた。花奈は動いたり声を出したりしなかった。花奈の顔には手拭きタオルくらいの大きさのタオル地の白い布が掛けてあった。甲女が「片野マンション」を出る前には、花奈の顔にタオル地の布は掛けられていなかった。花奈の首には紐が巻き付けてあった。その紐は、幅が4センチメートルくらい、長さが90センチメートルくらいで、白かピンク色の帯のような紐であった〉

通電されたり、殺されたりすると思い、従うしかなかった

 そこで傍にいた緒方が、清美さんに指示を出す。

〈緒方は、花奈の右肩辺りに居て、直ぐに、甲女に対し、「あんた、そっち行って。」と花奈の左側に立つように言った。緒方は、甲女に対し、「そっち引っ張って。」と言って、花奈の首に巻かれていた紐を引っ張るように指示した。甲女は、嫌で怖かったが、指示に逆らえば通電されたり、自分が殺されたりすると思い、従うしかなかった。

 

 甲女が、尻を付けずにしゃがみ、花奈の首に巻かれていた紐の片端を両手で握り、緒方に指示されて、花奈の顔に掛けられたタオルが顔から外れないように、右足でタオルの端を踏み、緒方も甲女と同じようにしゃがみ、2人で紐を両側から引っ張って首を絞めた。花奈は動いたり声を出したりしなかった〉

 ここでは、首を絞めたのがどれくらいの時間だったということには触れられていない。

〈しばらくして緒方が力を抜いたので、甲女も力を抜いた。緒方が、花奈の顔に被せていたタオル地の布を取った。花奈は目を閉じて眠っているように見えた。顔は青白かった。花奈の顔が赤くうっ血したり、鼻血が出ていたり、花奈が大小便を漏らしていたことはいずれもなかった。花奈の口の中には、タオル地の布(色や大きさは覚えていない。)が畳んで入れてあり、布の一部が口の外に出ていた。花奈が通電されているときはその布はなかった。緒方は花奈の顔に掛けられた布を取った後、口元にあった布を取り外した。甲女は、花奈は死んでいると思った〉

 異なる部分も多くある緒方と清美さんの供述だが、公判では両者の供述が一致している部分はいずれも信用するに値するとし、〈まず、花奈に徹底的な通電を行って、その心身を痛め付け、抵抗力を奪う。失神させても構わない。しかし、通電で花奈を殺害するまではしない。次に、緒方と甲女に指示して、2人に花奈の首を絞めさせ、息の根を止める。その後、緒方と甲女に指示して、花奈の死体の解体作業をさせる〉というのが、松永による花奈ちゃん殺害計画であったとした。

 いずれにせよ、花奈ちゃんが松永の指示のもと、残酷なかたちで幼い命を奪われたことは事実だ。そしてそれによって緒方一家は、純子を除いて全員がこの世からいなくなったのである。

(第79回へ続く)

(小野 一光)

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図