ロシアで60年以上ほぼ変わらずに生産され続け、現在でも新車で購入できる「UAZ(ワズ)」。ロシアでは働くクルマですが、日本ではホビーとして密かな人気のワンボックスカーに乗ってみました。

「UAZ」ってどんなクルマ?

ロシアのクルマには、昔からそのスタイルをほぼ変えずに生産され続けてきている“ご長寿モデル”がいくつかあります。SUVでは、40年以上にわたり生産され続けられている「ラーダ・ニーヴァ」がありますが、それを上回る、なんと60年以上ほぼ変わらずに生産され続けられているモデルも。それが、ワンボックスカー「UAZ(ワズ)」です。

「UAZ」はメーカー名でもあります。UAZ(ウリヤノフスク自動車工場)は、第2次世界大戦中の1941(昭和16)年に、モスクワから疎開した軍需工場として、ウリヤノフスクに設立されました。当初はZIS(モスクワ自動車工場、現ZIL)やGAZ(ゴーリキー自動車工場)のノックダウン生産を行っていましたが、1958(昭和33)年に初の自社開発モデルとして、ワンボックスカーの「UAZ450」を生産、これを始祖として現在まで各種自動車の生産を続けています。なお、同車はその形から「ブハンカ(食パン)」という愛称で呼ばれています。

ボディサイズは、最大9人乗りのマイクロバス「2206」で全長4363mm、全幅1940mm、全高2064mm。キャブオーバー型(運転席がエンジンの上にある)のワンボックスボディに、ラダーフレームと4輪リーフスプリングのリジッドサスペンションというトラックのようなシンプルな構造。とはいえ、最新モデルのガソリンエンジンはインジェクション化されており、排気量2.7リットルの直列4気筒DOHC16バルブという構造で最高出力112馬力、最大トルク198Nmを発します。駆動系は、ハイ/ロー2段トランスファー(副変速機)付きの2WDにも切り替えられるパートタイム4WDとなっており、悪路にも強いです。

UAZはボディタイプのラインアップも豊富です。前出したマイクロバス「2206」のほか、2人乗りパネルバンの「3741」、貨客混合コンビの「3909」、2人乗りシングルキャブトラックの「3303」、5人乗りダブルキャブトラックの「39094」、さらにキャンピングカーの「バイカル・エディション」など多数あります。

「UAZ2206」に乗ってみた!

UAZ2206に乗ってみました。車高の高さと幅から、写真で見る印象よりかなり大きいと感じながら、運転席に乗り込むと、鉄板剥き出しにクロス張りの簡素なインテリアが目に飛び込んできます。現代のクルマに慣れた目にはとても新鮮な眺めです。

エンジンをかけると、運転席と助手席の間のカバー下にあるエンジンより、いかにも機械を動かしていると実感できる心地良いサウンドが聞こえてきます。極寒の中で故障した際に、車内からメンテナンスが可能なよう、こんな設計になっているそうです。

水平に寝ているステアリングを握り、ジョイント剥き出しのシフトレバーを「ゴキッ、ゴキッ」と入れ発進すると、威勢良く走り出しました。なんとも懐かしい乗り心地。リーフスプリングが「ボワン、ボワン」と跳ねながら、路面の凹凸を乗り越えて行きます。

ノックダウン生産していたGAZの軍用車に由来するUAZは、軍はもちろんのこと、警察、救急、消防などで現在も使われている、まさに「働くクルマ」。ロシア郊外では、国道を外れると道のない荒地が多いうえ、冬にはマイナス50度になる場所がある厳しい土地。走破性が高く、壊れても自分で修理ができるUAZは、まさに“荒野のプロ機”なのです。

日本でも買える!

60年以上、ほぼ変わらないUAZですが、近年は限定モデルも積極的にリリースされています。2018年にはUAZ450誕生60周年記念として、ランドローバーのヘリテージグリーン&ホワイトをまとった「2206ジュビリー・エディション」や、ルーフキャリア&グリルガード付きバンパー、ウインチなどが備わった冒険旅行仕様の「3909SGRコンビ・エクスペディション」が発売されています。

また、UAZには、ジープSUVの「ハンター」もラインナップされています。こちらも1972(昭和47)年に誕生した「UAZ469」から約50年間、ほぼ変わらずに生産されている、いわば長寿モデルです。ハンターのボディサイズは、全長4050mm、全幅1775mm、全高1950mm。シャシーは、ラダーフレームに前輪コイル、後輪リーフスプリングのリジッドサスペンション。エンジンや駆動系は2206などのワンボックス型と同じものを用いています。

このUAZ、実は日本でも買えます。東京・千駄ヶ谷の「ルパルナス」は、このクルマのプリミティブな魅力に惹かれ、ロシアからシベリア鉄道とフェリーで直輸入しているといいます。ルパルナスでの価格は、諸費用消費税オールインで乗り出し390万円からとのこと。

パルナスでは、納車前に、各部の点検、予防的調整、改良を施し、特注のクーラーを装着した上で、ユーザーに引き渡しているそうですが、新車といっても基本設計が古く、故障も少なくないとのことなので、オーナーになるには知識と覚悟が必要かと思われます。

話によると、現在、UAZを購入しているお客さんは、自分でメンテナンスや豊富なアフターパーツでのカスタムを楽しんだり、車中泊用にベッドを設えたり、バイクや自転車を積んで出かけたりしているそうです。「ハードルは高いですが、本気でUAZと向き合っていただければ、地獄の一丁目までしっかりフォローします」(ルパルナス)とのこと。

ロシアの働くクルマであるUAZが、ここ極東の日本でホビーとして楽しまれ、密かな人気を得ているとは、ロシア人もビックリでしょう。

ロシアでは緊急車両としても使われる「UAZ」(イシグロン撮影)。