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少しでもリスク回避するためには、自分自身の目で早期発見、早期検知を習慣づけて行動を

「“無差別テロ”を目的とする犯人にとって、走行中の電車内は非常に狙いやすい場所です。乗客は無防備のうえ、逃げ場も限られます。今回のような刺傷放火事件は、今後も起こりえる、そう思っていたほうがいいでしょう」

こう警鐘を鳴らすのは、危機管理アドバイザーで、犯罪・防犯対策に詳しい「危機管理教育研究所」代表の国崎信江さん。

10月31日東京都調布市を走行中の京王線特急電車内で、刃渡り約30センチのナイフで乗客を刺し、ライターオイルで火を付けた無差別テロ事件--。

殺人未遂容疑で現行犯逮捕された男は、映画『バットマン』の悪役・ジョーカーに扮して犯行に及んだ、服部恭太容疑者(24)。逮捕後、服部容疑者は警察に対し、次のように供述している。

「停車駅の間隔が長く、逃げ場がない特急を選んだ。雑踏よりも電車の方が確実に人を殺せると思った」(読売新聞 11月2日朝刊)

電車やバスなど、公共交通機関を利用する一般市民が、テロを完全防御することは難しい。

だが、ふだんからテロ被害のリスクを減らすための意識や行動を身につけておくことはできる。そこで国崎さんに、公共交通機関を利用する際、危険を回避するためにできることを聞いた。

【1】自分の周辺に不審な人物がいないか必ずチェック

「毎回、電車に乗る際は先頭に並ばず、自分の隣や後ろにどういう人物がいるか。周辺に挙動不審な怪しい人物がいないか、必ず確認すること。そして電車に乗ってからも乗客をチェック」(国崎さん・以下同)

【2】相手の“目”と“手”を見て不審者を見極める

「目に力が入ってギラギラしている、逆に目に力がなくトロ~ンとしている人。そして不自然に片方の手をカバンに入れていたり、洋服の内ポケットに片方の手を突っ込んでいる人はいないか。怪しいと思ったならば、別の車両に移り、用心のために次の駅で降りるという選択も」

【3】乗車中は、次の駅から乗ってくる人もしっかり見る

「今は電車内で座っている人の多くが、下を向いてスマホなどを見ています。新たに乗車してくる人の中に怪しい人物がいる可能性もある。電車が停車し、ドアが開くたびに、乗車してくる人をチェックすることも忘れないように」

【4】先頭、最後尾の車両は避ける

「犯人が先頭や最後尾に近いところで火を付けたり、刃物を振り回したら、先頭、最後尾にいる乗客は、隣の車両へ逃げられなくなる可能性があります。しかもその車両に犯人が来たらもう後がない。自分自身が、逃げ場のない“袋小路”に置かれることだけは避けるべきです」

10両編成の電車に乗車するなら、先頭、あるいは最後尾から3両は離れたほうがいいそうだ。

「1つでも先の車両まで逃げることを考えると、先頭、最後尾までは最低3両ぐらい余裕が欲しいので、乗車するなら4両目、7両目あたりがいいでしょう」

犯人が乗客の多い中央の車両(5~6両目)でテロを起こした場合、逃げる方向に人が殺到し、逃げ遅れる可能性がある。人が多い車両も、できるだけ避けたほうが無難だろう。

【5】座る位置は連結部近くに

「車両内では、中央部よりも連結部近くのエリアのほうが、何か起きた場合に、すぐに隣の車両に移って逃げることができます」

【6】乗車後、非常用設備を確認する

緊急事態が発生した際、乗務員に通報するために設置されているのが「車内非常通報ボタン」。

「各車両のドア横やドア上の掲示板の横、車両連結部付近の壁面などに設置されています」

さらに脱出する際、手動でドアを開けるために設置されているのが「非常用ドアコック」だ。

「各車両ドアの横や上、ドア横の座席下などにあります。乗車後、これらがどこに設置されているかを確認しておくことも重要です」

【7】イヤホンの利用は避ける

「ボリュームが大きいと周りの声も聞こえないので、今回のような事件が起きたときに避難対応が遅れる可能性があります。危険を回避するなら、車内ではイヤホンをつけないことが望ましいです」

【8】日常的にバッグを持つ習慣を

「刃物を振り回す相手に対し、少しでも盾になるものを持っているかどうかで、身の危険度も変わります。日常的にバッグを持つ習慣をつけておくことで、いざというときは防御に使えます」

■バスはできるだけ運転席近くに座ろう!

バスは電車と違い、運転手が車内の異変に気づけば、すぐに停止してドアを開けるまでの対処ができると思われるが……。

「電車の先頭、最後尾の車両と同じで、バスの後方の座席だと犯人に追い込まれたら逃げ場がありません。外へ逃げることだけを考えた場合、できるだけ運転席近くにいたほうが、前のドアから脱出できる可能性はあると思います」

今年8月、走行中の小田急線の車内で、複数の乗客が刃物で切りつけられた事件を参考にしたと供述している服部容疑者。

「今の鉄道会社のセキュリティでは、テロは防げません。少しでもリスク回避するためには、自分自身の目で早期発見、早期検知を習慣づけて行動することです」

もはや、日本が安全な国だとは言えないのだ--。