最近、芸能人が「週刊誌などの臆測記事の内容が事実と異なる」ということで、法的措置を含む「しかるべき措置を取る」と積極的に反論するケースが増えています。事実と異なれば、反論することは当然だと思いますが、実は本当のことなのに「しかるべき措置を取る」と言うことによって、「事実ではない」との印象を与えようとする人がいるかもしれません。

 報道内容が事実なのに「しかるべき措置を取る」と言うことに、法的問題はないのでしょうか。弁護士の藤原家康さんに聞きました。

芸能人本人の発言にはリスク

Q.よく、「しかるべき措置」と聞きますが、これは「法的措置」と同じ意味なのでしょうか。あるいは別の措置も存在するのでしょうか。

藤原さん「そもそも、『しかるべき措置』は法律用語(法律上の定義ができる言葉)ではありませんが、民事における交渉などで使用されることがある言葉です。仮に、法的措置が『法的手続きを取る』という意味を前提にしているとすると、『しかるべき措置』は法的措置だけではありません。例えば、『事実とは異なる』『真実は○○だ』と公表することで社会に問題提起するということもあり得ます」

Q.臆測記事の内容が事実と異なれば、反論することは当然だと思いますが、法的措置が取られるケースは一部のように思います。芸能人が「臆測記事が事実とは異なる」として、裁判まで行うケースはどれくらいなのでしょうか。

藤原さん「裁判まで行うケースは必ずしも多くないと思われます。臆測記事の内容について裁判を行うことで、さらに広く報道され、余計にその情報が広がってしまうこと、『芸能人が争い事をしている』という悪印象を避けることが理由として考えられます。また、メディア側が臆測ではなく、事実を記事にしたとしても、名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害で不法行為となることはあり得ます。その場合は、事実であっても、その内容について法的措置が取られることも考えられます」

Q.芸能人には、アイドルの熱愛など、表沙汰になると都合の悪い情報も時にはあると思います。そうした情報が伝えられたとき、事実なのにもみ消すため、「しかるべき措置を取る」と言った場合、芸能人側は法的責任を問われるのでしょうか。

藤原さん「伝えられた内容が芸能人にとって都合の悪い事実であっても、その事実が伝えられることで名誉毀損やプライバシー侵害になる場合、先述したように、不法行為として法的措置が取られることはあり得ます。しかし、芸能人本人がコメントで、相手方への侮辱や脅迫に当たるなどの度を超えた発言をすることは不法行為(民法709条)となり得ます。つまり、芸能人本人が『しかるべき措置を取る』と言うことが不法行為になる可能性もあるのです。

もし、言うとすれば、弁護士が代理人として言う方が無難であり、本人が言うことは避けた方がよいと思います。なお、脅迫罪(刑法222条)は『相手方、または、その親族の生命、身体、自由、名誉、または、財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫する』ことにより成立し、通常は『しかるべき措置を取る』と言うだけではこの罪には当たりません」

Q.事実と反する場合であっても、「しかるべき措置を取る」という言葉は、法的リスクを考えると使わない方がよいのでしょうか。

藤原さん「先述したように、事実に反するか否かにかかわらず、『しかるべき措置を取る』と言うことは考えられ、使うことに問題があるわけではありません。しかし、法的リスクを考えると、使うとすれば芸能人本人ではなく、弁護士の方が無難であると思います」

オトナンサー編集部

「しかるべき措置」発言の法的問題は?