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最近では新規感染者数は落ち着きを見せてはいるものの、これまで多くの死者を出してきた新型コロナ。その実態は私たちが見聞きする数字よりさらに深刻なのだという――。

「政府や自治体が発表している新型コロナの死者数は、実態を正確に反映していません。とくにコロナの死者数が多い自治体は、もっと関連死が多いと考えられます」

そう話すのは、北海道在住の元公務員で、統計学に詳しい桑原修さん。

桑原さんは、総務省が発表している人口動態調査をもとに、コロナ前の’18年1月から今年8月まで「毎月の全死者数」を都道府県ごとにグラフ化。さらに、NHKが集計している「毎月の新型コロナ死者数」も、’20年1月から直近まで都道府県ごとにグラフ化した。これらのグラフを比較すると、本来カウントされるべき「本当のコロナ死者数(関連死含む)」が見えてくるという。

「たとえば、人口100万人当たりのコロナ死者数がもっとも多い大阪府(345.7人)の『毎月の死者数』(画像参照)を見てください。’19年5月の死者数は約7,500人であるのに対し、’21年5月の死者数は8,901人。約1,400人増加しています。これはコロナ第4波の影響と考えられます。いっぽう、’21年5月の『大阪府の毎月の新型コロナ死者数』(画像参照)は859人。増加した1,400人から差し引くと、じつに500人あまりが捕捉されていないコロナ死か、医療崩壊が原因で適切な医療が受けられなかった“コロナ関連死”の可能性があります。コロナ対策に定評がある鳥取や島根は例年通りの死者数ですから、大阪は適切なコロナ対策ができていなかったのでは……」

この差は、何が原因で生じてしまうのか。新型コロナウイルスの感染予測に定評があり、『誰がコロナ禍を悪化させたのか?』(扶桑社)の著書もある工学博士の牧田寛さんは次のように語る。

「桑原さんが指摘するように、厚生労働省が発表している日本のコロナ死者数は、かなり過小評価されています。米ワシントン大学保健指標評価研究所(IHME)の試算では、日本のコロナ死者数は公表されている2~4倍に見積もられています」

なぜ、日本のコロナ死亡者は過小評価されてしまうのだろう。牧田さんは、「コロナの死亡統計にある2つの欠陥」を理由に挙げる。

「ひとつは、厚労省PCR検査数を絞ってきたので、陽性者数を正しく把握できていないこと。もうひとつは、警察庁が発表する“変死者”のうち、コロナ罹患者だった方の数が含まれていないことです。今年4月から9月だけでも、全国の変死者のうち最大627人(直接死因で389人)がコロナ陽性で統計から漏れていたことも明らかになっています。保健所がひっ迫していたため、死亡報告が20~40日遅延していることも大きな原因です。新規感染が下火になりつつあった今年9月以降、大阪、東京、沖縄などではコロナ死亡者数が増加傾向にあり、今月に入ってもなかなか減らないのは遅延報告のためです」

こうして、カウントされていないコロナ死やコロナ関連死が増加しているのだという。

大阪府の、コロナによる“本当の死亡者数”は、発表されている人数の2倍であってもおかしくないと考えます」(牧田さん)

そうなると、桑原さんが指摘した’21年5月の大阪の「本当のコロナ死者数」は、859人の2倍、約1,700人という計算になる。

報告されている、今年1~8月の大阪府のコロナ死者数は約2,200人。実際にはその倍の4,000人以上が亡くなっていることも考えられるのだ。

「人口100万人当たりの死者数」だけでなく、「最近1年の全死者に対するコロナ死の割合」でも3.02%とワーストだった大阪。いったい何が原因だったのか。

「明らかに“行政災害”です。保健所の職員も減らされていましたし、吉村知事はイソジンがコロナに効くとか、大阪ワクチンを作るとか、いろいろぶち上げたものの結局すべて不発に。経済を重視するあまり、緊急事態宣言解除を2月末に前倒ししました。さらにコロナ病床も削減したところに、アルファ株が一気に広がり、第4波の惨事を招いたのです」(牧田さん)

■府立病院の民営化でコロナ対応が後手に

厚労省にも大きな責任がある」と断じるのは、『日本の医療崩壊をくい止める』(泉町書房)の著書もあるNPO法人医療制度研究会・副理事で医師の本田宏さんだ。

「不採算部門である感染症に対応できるのは、採算を度外視して医療に当たれる公立や公的病院です。しかし厚労省は、医療費削減のため公立・公的病院を統廃合して病床削減を行ってきました。特に大阪は、東京都に先んじて府立病院を独立行政法人化(民営化)した結果、スタッフの人件費が削られ、人工呼吸器を装着できるベテランの看護師も減っていたと聞いています。重症者の受入れセンターを作っても、患者の受入れが進まなかった背景には、こうした厚労省の政策の失態もある」

10月以降、数字上では感染拡大が落ち着きを見せているものの、第6波の到来を懸念する声は多い。

これまでのような惨事を繰り返さないために何が必要なのか。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広さんは次のように警鐘を鳴らす。

「すぐにでも、高齢者をはじめとしたワクチンの3回目接種を始めるべきです。ワクチンは十分確保できているのに、厚労省内部の手続きが遅れていて、12月からの開始になってしまった。これでは第6波に間に合わず、再び高齢者の死亡が増加する恐れがあります。また、アメリカのメルク社が開発したコロナ経口薬の確保でも厚労省は後れをとっている。こちらも急がなくてはなりません」(上さん)

私たちが見聞きしている数字より、さらに深刻なコロナ死の実情。ウイルスにとって都合がよいとされる、空気が冷たく乾燥する季節を前に、けっして油断は禁物だ。