心臓停止による突然死は誰にでも起こり得ます。そのため、多くの駅や商業施設では、利用者の心臓停止による突然死を防ぐために、電気ショックで心臓の状態を正常に戻す「AED自動体外式除細動器)」が備え付けられています。AEDによる電気ショックが1分遅れるごとに救命率が約10%ずつ下がるといわれており、駅や商業施設で人が倒れたときは、現場に居合わせた人がすぐにAEDで救命処置を行う必要があります。

 しかし、AEDの使用率は2019年時点で5.1%と低く、また、新型コロナウイルスの流行により、人と一定の距離を置くことが推奨されたことで、使用率はさらに低下傾向にあるようです。コロナ禍でAEDを使うときは、どのような対策が求められるのでしょうか。また、コロナ禍でどのようにして、AEDの普及に努めているのでしょうか。

 NPO法人ちば救命・AED普及研究会(通称・千葉PUSH)の理事長も務める、千葉市立海浜病院救急科の本間洋輔主任医長に聞きました。

国内外で使用率は低下

Q.コロナ禍で、AEDの使用率はどのように変化したのでしょうか。

本間さん「全国平均のデータはまだありませんが、大阪府のデータはあります。それによると、倒れる瞬間を目撃された心停止状態の人に対し、大阪府の一般市民が何らかの救命処置をした割合は、コロナ禍以前は約41%でしたが、コロナ禍で約33%に下がりました。AEDを使った割合は、コロナ禍以前は6.1%、コロナ禍で2.9%でした。

また、海外でもAEDの使用率は下がっています。海外における一般市民の救命処置の割合は、コロナ禍以前は60%程度でしたが、コロナ禍で約48%まで下がりました。AEDの使用率も3.5%程度だったのが0.4%に下がり、その影響で救命率も約23%から約13%に下がりました。国内外でAEDの使用が控えられているといえます」

Q.コロナ禍でAEDが使われない要因は。

本間さん「個人的な見解ですが、やはり、『倒れている人が新型コロナに感染していたらどうしよう』という恐怖だと思います。その恐怖を取り除くためには『勇気を持つ』というメッセージを伝えることと、この手順であれば、感染のリスクを下げつつ、救命処置ができるという知識を伝える場が大切だと思います。私はAEDの講習会に携わっていますが、受講者に話を聞くと『これまで、AEDの使い方を知らなかった』という声が一番多いです。知識を得る機会がないことも問題だと思います」

Q.では、コロナ禍でAEDを安全に使う方法について教えてください。

本間さん「厚生労働省が『新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について(指針)』という資料をホームページ上で公表しています。その資料には次のようなことが書かれています。

(1)胸骨圧迫などによる心肺蘇生はエアロゾル(ウイルスなどを含む微粒子が浮遊した空気)を発生させる可能性があるため、新型コロナウイルスの流行下では、心停止した人が感染の疑いがあるものとして対応する。
(2)心停止した成人に対しては人工呼吸を行わずに、胸骨圧迫とAEDによる電気ショックを実施する。一方、子どもの心停止に対しては、講習を受けて、人工呼吸の技術を身に付けていて、人工呼吸を行う意思がある場合、人工呼吸も実施する(子どもの心停止は、窒息や溺水など呼吸障害を原因とすることが多く、人工呼吸の必要性が比較的高いため)。

 駅や商業施設などで倒れている人を発見したときは、次のように対応してください。

(1)倒れている人に声を掛け、反応を確認。反応がなければ、119番通報し、最寄りの施設にあるAEDを取りに行く。周囲に人がいれば、AEDを取りに行くよう依頼する。
(2)倒れている人の呼吸の状態を確認する(感染防止のため、近づき過ぎないこと)。呼吸がないときは胸骨圧迫を行い、その後、AEDの電源を入れ、音声に従って操作する。その際、倒れている人がマスクをしていない場合、鼻と口をマスクや布(タオルやハンカチなど)で覆う。
(3)救命処置終了後、うがいをして、手と顔をよく洗う」

講習会の実施状況は?

Q.コロナ禍で、AEDの講習会はどのように実施しているのでしょうか。

本間さん「コロナの影響で対面の講習会ができなくなったので、ウェブ会議システムを使ったオンライン講習会を実施しています。所属する公益財団法人日本AED財団では、2020年4月から2021年9月までの間に、個人、企業向けに54回のオンライン講習会を実施し、約3200人が参加したほか、私が理事長を務めるNPO法人ちば救命・AED普及研究会でも、2020年8月以降、学校向けにオンライン講習を実施し、これまでに50校、約1800人の教員が参加しました。

オンライン講習の場合、受講者の手元に胸骨圧迫を練習するための人形やAEDがないので、胸骨圧迫の力加減や、AEDの使い方をどう教えるかが課題でした。そこで、講習時はDVD教材を活用するとともに、受講者に対しては人形の代わりになるクッション(枕、縫いぐるみなどでも可能)のほか、体重計、2枚のカード類を事前に用意するようお願いしています。

胸骨圧迫の演習時は体重計の上にクッションを置いて押します。これにより、力を入れたときの強さが体重計で測定できるようになります。また、AEDの演習時は2枚のカードを使い、パッドを張る位置を確認しています」

Q.受講者を増やすために工夫したことは。

本間さん「さまざまな人にAEDの使い方を知ってもらうため、スポーツやゲームと連携したオンライン講習会も実施しています。例えば、日本AED財団が日本社会人アメリカンフットボールリーグ『Xリーグ』と連携したオンライン講習会付きイベントを開催しているほか、ちば救命・AED普及研究会も『アイドルマスター SideM』というゲームとコラボしたオンライン講習会を実施しています。

受講者からは『自分の好きなゲームがきっかけで、講習会を受けることができた』などの意見を多く頂いており、手応えを感じています。可能であれば、今後はミュージシャンと合同でオンライン講習会を実施したいと考えています。例えば、1曲演奏を聞いてから、救命講習をするというのも面白いと思いますし、音楽イベントには多くの人が集まる傾向があるので、AEDの知識を広げる機会が増えると思います」

Q.オンライン講習会を実施して、気付いたメリットは。

本間さん「コロナ禍による苦肉の策として始めたオンライン講習会ですが、家族の介護や子育てが理由で、これまで、AEDの講習会に行きたくても行けなかった人たちも積極的に参加してくれるようになりました。普段、外出が難しい人や遠方に住んでいる人でも参加できるのがオンライン講習会のメリットだと気付きました。

そうした人たちの受講機会を増やすことで、コロナ禍での救命率の向上につなげられたらと思います。コロナ禍でも心臓突然死のリスクは常にあります。倒れている人を見かけたら、AEDを積極的に使ってほしいと思います」

オトナンサー編集部

コロナ禍でAEDを使うときの注意点は?