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3代目社長・竹内さん。つっぱり棒博士として魅力を語る

「こんにちは〜、つっぱり棒博士でーす。つっぱり棒を使えば、収納や間取りに左右されない、私らしい暮らしを手に入れることができるんです。まだまだ知られていない、つっぱり棒の使い方を、私の知識や経験をもとに、たくさんの人に伝えていきたいと思いまーす!」

熱っぽく、ときに関西人らしく笑いもちりばめながら、インターネットの配信動画の中で、「つっぱり棒博士」は語りかけていた。トレードマークのボーダーのシャツにメガネ姿。もちろん、手にはつっぱり棒を持って、満面の笑みを浮かべている。

彼女の正体は、大阪の日用品メーカー・平安伸銅工業の社長・竹内香予子さん(39)。

平安伸銅工業は52年、竹内さんの祖父・笹井達二さん(08年没、享年89)によって、銅を加工する町工場として創業した。

「アイデアマンだった祖父は、他社に先駆けてアメリカからアルミサッシの製造技術と工作機械を輸入し量産。日本中に家庭向けのアルミサッシを普及させました」

さらに祖父は、商用で訪問したアメリカで、シャワーカーテンをつり下げるテンションポールに着目。そのアイデアをもとに、竹内さんの父である2代目社長・康雄さん(69)とともに試行錯誤を重ね、75年、つっぱり棒を日本で初めて商品化。つまり、いまや日本中の家庭で愛用されるつっぱり棒を生み出した老舗企業の3代目、それが竹内さんだ。

多忙な社長業のかたわら、竹内さんは先述の動画配信をはじめ、テレビの情報番組や女性誌など、さまざまなメディアからひっぱりだこだ。そんなとき、彼女は自社製品にとどまらず、他社のものまで紹介しながら、つっぱり棒の魅力や可能性を伝えている。

「じつは、前職が新聞記者なんです。だから、いかにしてニュース性を高めるかは、多少なりとも理解しているつもり。それに、メーカー情報の押し売りって私自身も響いてこないので。他社製品のことや、たとえ会社にとって都合の悪いことでも、お客さんが本当に欲している情報を伝えていこう、そう心がけてます。つっぱり棒がもっともっと世の中に普及することが、第一の目的ですから」

転職したのは11年前。当時、社を率いていた父が病いに倒れたことが、直接のきっかけだった。家業とはいえまったく畑違いの仕事に、当初は悪戦苦闘の連続だった。

「32歳のときに社長に就いたんですけど、プレッシャーもありましたし、なにより自分の未熟さもあって。ホント、大変でした」

それでも、竹内さんの社長業は徐々に軌道に。主力のつっぱり棒に加え、木材につっぱり機能などをプラスしたおしゃれDIYパーツブランドも立ち上げ、会社の業績も上向いた。そこには、夫・一紘さん(41)を筆頭に、多くの人の支えがあったという。

「どうやら私って、周囲の人を巻き込むタイプみたいなんです。私自身は才能とか特技がある人間ではないんですけど、私が『これ面白そう!』って思ったことに、いろんな人たちが力を貸してくれたことで、結果的に皆が喜んでくれるアウトプットができたと思っていて。だから、今後も引き続き皆を巻き込むという長所を生かしつつ、なんか、それが皆の手柄になっていくような、お客さんのニーズにきちっと応えられるような、そんな恩返しができたらいいなって、そう思ってるんです」

■つっぱり棒はオワコンじゃない!人の生活を豊かにしてくれると気づいた

15年1月1日。竹内さんは社長に就任。その後、県庁で働いていた夫の一紘さんも入社した。

「じつは私、社長になった当初はつっぱり棒に対するリスペクトが超低かったんです。『どこにでもあって安く買えて、もう大した価値もない、言うなればオワコンでしょ』なんて言ってた。オワコンはいずれ淘汰されるから、会社として新機軸を打ち出さないと、と焦ってたんです」

社長になったばかりの頃は、女だからと言ってなめられたくないという気持ちもあり、余裕がなかった。何度も社員とぶつかったこともあるという。ところが、夫の入社をきっかけに肩の力が抜け、よくよく数字を眺めてみて、竹内さんはあることに気づいた。

「統計を見たら、うちのつっぱり棒だけで、当時でも年間160万本も売れてたんです。『オワコンなんて呼んでしまったけど、めっちゃ買ってる人いるやん、なんでやろ?』って。社内で聞いても皆、『わからない』って(苦笑)」

売れている理由がわからないのには、理由があった。最近でこそ、大手通販サイトでも販売し、星4つ以上の高い評価を得るなど、ユーザーの声が竹内さんたちの耳にも届きやすくなった、しかし、かつて同社は、小売店や商社に卸すばかりで、消費者に直接つっぱり棒を売ることがなかったのだ。

そこで、竹内さんは潜入取材の要領で調査に乗り出す。

「お片づけのプロと呼ばれる人たちが、うちの商品をたくさん使ってくれていたんです。『よし、まずは、その人たちとお近づきになろう』と、自分も整理収納アドバイザーの資格をとったんです」

知り合った人たちに聞かされたのは、思いもよらない言葉だった。

「すごく家庭日用品をリスペクトしてくれてる人たちで、つっぱり棒も日々の暮らしの支えとして愛用してくれていて。なかには『平安伸銅のつっぱり棒が好き』と言ってくれる人まで。それで、遅まきながら気づいたんです。私たちがやってることで、こんなにいろんな人が幸せを感じてくれてる、うちの会社も、つっぱり棒も、もっともっと可能性があるんだって」

社長として、そして製品の魅力を一番に理解している「つっぱり棒博士」として、三代目の竹内さんはこれからも進んでいく。