前回のコラムでは、チャネリングの実践的な面をクローズアップしましたが、今回は現代のチャネリングの流れの原点に位置するチャネラージェーン・ロバーツについて簡単に紹介してみたいと思います。

現代のチャネリングの流行の原点は、「セス(Seth)」という名のエンティティとコンタクトを取ったジェーン・ロバーツ(Jane Roberts, 1929-1984)の活動からはじまります。
 

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ロバートバッツとの出会い、そしてチャネルのはじまり

1929年5月8日ニューヨークサラトガスプリングス生まれ。両親は3歳の時に離婚。ひどい関節炎で苦しむ母と共に、ジェーン生活保護下の恵まれない幼少期を過ごします。

幼い頃の彼女に最も大きな影響を与えたのは、インディアンの子孫でありカナダ人の祖父でした。ジェーン自身の回想によると、彼女は祖父と一緒にしばしば森の中を散歩しながら、滝の音や木々を通して語りかける風の囁きに耳を澄まし、古のインディアンの伝説などに想いを馳せていたそうです。

10歳になったジェーンは、ニューヨーク州のトロイにあるローマカトリックの児童養護施設に入ります。そこでの宗教的教えが、神秘的なものに対する彼女の感受性を高めたようです。さらに1947年奨学金を受けスキッドモア大学に入学。そこでボーイフレンドをつくり、1950年に結婚。結婚は3年間続きますが、その間の彼女は教師、編集者、アートギャラリーのアシスタントディレクター、セールスパーソン、ラジオ工場の一部門のスーパーバイザーといった様々な職業につきます。

1954年ロバートバッツ(Robert Butts)と2度目の結婚。この新しい夫とともに、ジェーンはサイキック、あるいはスピリチュアルな領域への本格的な探究を開始します。その結果、1963年9月のある日、ジェーンはついにエンティティとのチャネルがはじまります。

最初のチャネリングは、ジェーンが詩を書いている最中にはじまりました。彼女は突然、自分の意識が肉体から離れていくのを感じました。そして外部からやってきた観念に彼女の精神は満たされ、オートマティック・ライティングがはじまりました。


■自動筆記とセスとのコンタクト

彼女自身が言うには、それは「あたかも誰かがこっそりとLSDをわたしに差し出したかのよう」であり、「ラディカルで新しいアイデアのファンタスティックな雪崩が、おそるべき力とともにわたしの頭のなかで爆発した。まるでわたしの頭蓋骨がある種の受信ステーションとなり、耐えられないボリュームにまで上げられたかのようだった」。そして「わたしの手は、頭の中に閃く言葉と観念を猛烈な勢いで書きなぐった」。

彼女は気が付くと、100頁を超す長さの「観念の構造としての物理的宇宙」と題された文章を書き記していました。

その後、ジェーンは夫のロバートバッツとともに、「ウイジャー・ボード(Ouija borard)」を使った実験をはじめます(ウィジャー・ボードについては別の機会に改めて紹介します)。数回のセッションの試みの後、彼らは自らを「セス」と名乗るエンティティからメッセージを受け取りました。

その後、彼女は自らトランス状態に入る能力があることを発見し、その状態のなかで、セスとコンタクトを取ることができるようになります。

水曜日と金曜日の9時以降の夜に、ジェーンとセスの間で定期的にチャネルが行われるようになりました。その時間になると、トランス状態となったジェーンの口を使ってセスがメッセージを語りはじめます。そして夫のロバートがそれを逐語的に書きとめていきました。そのときの彼女の声と口調は、普段のそれとはまったく異なるものだったそうです。





■セスが語る形而上学的な世界観

チャネリングの間、彼女は完全に意識を失っていたわけではありません。彼女いわく、自分が肉体の外部にいることを感じ、セッションが終わると同時に肉体の中に戻ります。しばしば彼女は、セスからのメッセージの断片を思い出すこともできました。また、チャネリングでのトランス状態は、彼女を消耗させるものではなく、むしろリフレッシュさせるものだったと言います。

セスがジェーンを通して語ったマテリアルは、1970 年に『セス・マテリアル(The Seth Material)』、さらに1972年にその続編として『セスは語る(Seth Speaks: The Eternal Validity of the Soul)』として出版されました。その後、セスとのセッションに関する著作は、彼女がこの世を去る1984年9月5日まで、ほぼ毎年のように出版されていきます。

セスの語ったマテリアルは、意識の変容に関する心理学、リアリティの複数の次元、リーインカーネーションなど多岐に渡る内容を包括する首尾一貫した形而上学的な世界観からなります。出版当時の多くの人々は、セスのマテリアルが持つその深遠さを、人間を超えた知性からのメッセージであると考えました。

今日でさえ、その後に登場してくる他のチャネラーたちのメッセージをナンセンスだと切り捨ててしまう人々の間ですら、セスのマテリアルに関してはその内容には興味深いものがある、としばしば評されています。

また、ジェーン・ロバーツは、セスのような高次のエンティティ以外に、死後の画家ポール・セザンヌの霊や心理学ウィリアム・ジェームズの霊ともチャネルしています。


80年代チャネリング・ブームのさきがけ

1980年代には、ジェーンの後を追う形で、まるで堰を切ったかのように無数のチャネラーたちが続々と登場することになります。そして、チャネリングはその10年の間に、ごく普通の一般の人々の間でも知られる非常に大きなブームとなっていきます。

その後のチャネリングのブームに対しては、宗教社会学者や社会心理学者などからの多くの批判的な見解も見受けられます。それらについては、その後の社会現象ともなるチャネリングの流行も含めて、また改めて取りあげてみたいと思います。


(伊泉龍一)