11月1日東京駅前の丸ビル地下1階 弁当売場の中に、たくさんのサラダが整然と詰め込まれた大型の冷蔵庫が登場した。サラダは8種類で価格は全て同一の1180円(税込み)。これは「CRISP STATION」という名のサラダ販売店だが、店頭に従業員はいない(冷蔵庫の裏側にいる)。

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 お客は冷蔵庫の扉を開けて、好みのサラダを取り出し、自分のオフィスなど食事をする場所に向かうが、決済はサラダの包装紙に付いているQRコードをスマホで読み取って行う。決済が確認されたと同時にメールで領収書が届くという仕組み。――サラダの購入の仕方はこのようになっている。

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モバイルオーダー導入の草分け

 丸ビル地下1階のこの売場は弁当販売やファストフード店、コーヒーショップなど25店舗で構成され、昼時の12時前から約40~50分間、食事を求めるオフィスワーカーで一気に賑わう。

 そのため、お客にとっても店側にとっても短時間で買い物できることが重要になるが、「CRISP STATION」では女性客が主となり、次々とサラダを取っていく。冷蔵庫の横にはフォークや紙袋が置かれ、必要に応じて取っていく。何とも斬新な売場である。

 同店を運営するのは株式会社CRISP(本社/東京都港区、代表/宮野浩史)。同社は2014年12月、東京・麻布十番にサラダ専門店の「CRISP SALAD WORKS」を創業。2017年7月、業界に先駆けてモバイルオーダーを導入した。「好みのサラダをスマホで事前注文し、そこで決済を行い、受け取る時間を指定。その時間に店舗に行って、注文していたサラダをピックアップする」という購入の仕組みにしたわけだが、この仕組みが飲食業界に新しい潮流をもたらした。

 店の従業員はお金に触る必要がなくなり、お客も店で注文するために並んだり、出来上がりを待つ必要がなくなった。今日ではコーヒーショップやファストフード店をはじめとした飲食店の多くでこの仕組みを採用している。

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想定の5倍売れたが良くない循環に陥る

 代表の宮野氏は1981年9月生まれ。15歳でアメリカに渡り、ハイスクールを卒業した後、天津甘栗の販売を手掛けた。これがよく売れてロサンゼルスで多店化しニューヨークにも進出。しかしながら、2001年に9・11のテロに遭い、帰国することに。帰国後は成長途上のコーヒーショップチェーンに入社し5年間勤務。テックスメックスメキシコ風のアメリカ料理)の店舗で起業し4年間で5店舗を展開するまでになったが、その店を手放すことに。そして、クリスプ創業店を立ち上げた。開業前に掲げた経営理念は「熱狂的なファンをつくる」ということ。

 宮野氏はこう語る。

「飲食業にとって一番大事なことは、働く仲間に、お客さまに、お店に、愛情をもって本気で向き合うこと。これは絶対に忘れてはいけない本質だと思っている」

 この信念によって創業の店は想定の5倍を売り上げた。しかしながら、その一方でこの繁盛ぶりは「本来の飲食店の姿ではない」と感じるようになった宮野氏。それは、サラダをつくることだけに一生懸命になり、結果、クオリティも下がる、お客さまもイライラする・・・といった良くない循環に陥っていたからだ。

「例えば、夜中にスーツ姿のお客さまが来店したら『まだ、お仕事でしたか? 夜遅くまで大変ですねぇ、今日も一日お疲れさまでした!』というちょっとしたことだけど、そんな一言こそがお店の価値であり、競争優位性であり、注文や購買に必要ない無駄な会話や行為こそが飲食店にしかできない価値を生み出す源泉のはず」

 宮野氏はこのように考えるようになり、「機械でできることは全部機械に任せて、人間は人間だけが価値を生み出せるような人間らしい行為に時間を使えるようにしよう」と判断した。

 その結論は「儲かったお金はとにかくテクノロジーに投資して、既存の飲食の在り方を全部、再定義しよう」ということ。2016年の当時である。

 こうして、2017年にテクノロジーを開発する株式会社カチリを設立し、同年7月にモバイルオーダーアプリ「CRISP APP」をリリース(2020年10月1日に、クリスプHD、クリスプ、カチリが合併し、CRISPとなる)。現在はサラダ専門店のリアル店舗「CRISP SALAD WORKS」20店舗のほかに、後述する多様なサービスを展開している。

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「指名買い」のファンを醸成

 多様なサービスとは、まず2019年6月から「CRISP APP」などの開発・運用ノウハウをもとに、飲食店向けのモバイルオーダーソリューション「CRISP PLATFORM」の提供を開始したこと。これはCRISPが培ってきた知見を生かして外部の飲食店のDXをサポートするというものだ。

 2020年8月にはデリバリーを、デリバリープラットフォーマーへ委託していたものを一部のエリアで自社デリバリーの「CRISP DERIVERY」に変えた。

 2020年冬からは「CRISP BASE」を提供。これはオフィスの中にサラダが食べたい人が5人以上集まることで「CRISP SALAD WORKS」のバーチャル店舗を開設、決まった時間に配送料無料でサラダを届けるというサービス。現在、約80カ所で行っている(週1回・5食が目安)。

 そして、今年に入り、7月「CRISP REPLENISH」を立ち上げた。これはサラダのサブスクリプションサービスで、お客が選んだカスタムサラダを、指定した場所に無料配送するもの。週に2回以上注文することでこのサービスが可能となる。

 宮野氏はこう語る。

「モバイルオーダーはコロナ禍の以前から商業施設の関係者の間で話題になっていた。ランチタイムのお弁当売場はものすごい行列になっている。お弁当屋さんも何がたくさん売れているのか把握できないで廃棄が出ている。だから、モバイルオーダーの事前注文は役に立つだろうと。しかしながら、あまり普及しなかった。それはお客さまがランチに食べるお弁当を、購入するぎりぎりになるまで決めないから。結果、たまたま目にした店舗で『これでいっか』という感じで決める」

 この「たまたま目にした店舗で」という購入動機に対応した店舗が「CRISP STATION」ということなのだ。

 その一方で、「CRISP SALAD WORKS」でモバイルオーダーが普及した背景について、宮野氏は、こう語る。

「モバイルオーダーが一般化したのは、ここのサラダが食べたいというファンが生まれたから。要するに90分前にモバイルオーダーから『指名買い』をして、その時間になったらピックアップするというスタイルが出来上がっていった」

 ちなみに、「CRISP SALAD WORKS」のお客の現状は4割がモバイルオーダーによるもので、丸の内店に至っては7割を占めている。

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「思い付き」と「予約」の両方を取り込む

 CRISP のデータでは「CRISP SALAD WORKS」で30日間に1回以上購入しているアクティブユーザーの購入金額の平均は3500円程度。商品の単価は1200円あたりだから30日間に2.1~2.2回利用していることになる。

 このようなアクティブユーザーが「CRISP REPLENISH」を利用することで、このプランの最低の金額が1万5000円あたりだから、3500円の4倍程度となる。このサービスは7月に立ち上げて以来、現状150人程度が利用している。「このサービスはこれから増えていくだろう」と宮野氏は期待を寄せている。

「CRISP SALAD WORKSサラダが大好きだけど、今日なぜ食べなかったのだろうというアクティブユーザーはたくさん存在する。それが、定期的に届くということであればこちらの方を利用するという可能性は大いに存在する」(宮野氏)

 これからはリアル店舗、バーチャル店舗の両方とも満遍なく増やしていく考えだ。リアル店舗は消費者に「CRISP SALAD WORKS」の存在とサービスを知ってもらうための最も効果的な媒体と捉えている。このサービスを体験した人がファンになってバーチャル店舗につながっていく。宮野氏は「店の前に来て思い付きで購入する人、予約をして購入する人の購入動機は全く異なりますが、この両方を取り込んでいくために、CRISP STATIONもCRISP REPLENISHも必要なのです」と語る。

 CRISPのビジョンはこうだ。

「レストラン体験を再定義することで、あらゆる場所でリアルなつながりをつくる」――DXとは「デジタル技術による変革」であり、それを自社の競争優位性に導くものとすると、CRISPのDXの取り組みは飲食業のトップランナーである。

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