「次の戦いはアウェーで厳しい試合になる。我々はワールドカップ(W杯)出場権をつかみ取るために、チーム一丸となってタフに粘り強く最後まで戦い抜いて、勝ち点3をつかみ取り、次につなげたいと思っています」

日本代表の森保一監督が改めて勝利への意気込みを新たにした通り、16日の2022年カタールワールドカップ(W杯)最終予選後半戦の一発目・オマーン戦(マスカット)は勝ち点3が必須の大一番だ。

仮にポイントを落とすようなことがあれば、サウジアラビアオーストラリアの上位2強に離され、大陸間プレーオフの3位死守がやっとという状況になってしまう。日本サッカー協会の反町康治技術委員長も「Jリーグも代表にW杯へ行ってほしいと願っている。やはりストレートインが望ましい。そのためにもオマーン戦は落とせない」と危機感を口にしていた。

「勝っている時はチームを変えない」という定石通り、森保一監督は過去2戦で採用してきた4−3−3を継続し、大迫勇也(神戸)や長友佑都FC東京)らベテラン勢を軸としたスタメンで挑むだろう。とはいえ、長友は9月の中国戦(ドーハ)から4戦連続で途中交代。指揮官の中でも90分フル稼働させ続ける考えはないようだ。

「試合に勝つためなので、僕は全然問題ない」と35歳の大ベテランは平常心を口にしていたが、東京五輪世代のリーダー格・中山雄太(ズヴォレ)の台頭に多少なりとも危機感を覚えているのは確かだろう。

「選手としては全然違うタイプ。僕は幅を取って仕掛けていくけど、雄太の場合はポジショニングを取りながらポゼッションをしていくし、技術力も高いし、僕自身も学ぶべき部分が多い。もともとボランチとかセンターバック(CB)をやっていたのに、サイドバック(SB)になってもあれだけ早く役割を認識してプレーできるのは、彼の賢さを物語っている」と長友は9歳年下のライバルを賞賛した。

この高評価を受け、中山自身は嬉しい気持ちも少なからず抱いただろう。が、それ以上に強いのが負けじ魂だ。「正直、途中出場では満足していない。スタメンで出られるようなパフォーマンスを見せなきゃいけない」と報道陣にも語っている通り、ライバルが長友であろうが、先発定着に突き進む覚悟だ。それが今回のオマーン戦で結実するかは定かではないが。中山の存在価値が日に日に高まっているのは紛れもない事実。そこは前向きに捉えていいだろう。

実際、オマーンという敵を考えた時、中山の高さは有効である。相手には左足の名手・モフシンがいて、直近の11日の中国戦(シャルジャ)でも彼の右CKから同点弾を叩き出している。日本はリスタートでなかなかゴールを奪えていないが、オマーンには一発がある。それを決めさせないためにも、中山の守備能力を最大限生かすべきなのだ。

相手のサイド攻撃対策を視野に入れても彼は有効なピースとなり得る。攻撃的な長友はタテ関係の南野拓実リバプール)とのコンビを最大限生かし、高い位置まで攻め上がることが多いが、オマーンのような鋭いカウンター攻撃を持つ相手には、それが「両刃の剣」になりかねない。

加えて言うと、中山は長友のように前がかりにはならないし、タテ関係になるアタッカーの推進力のサポートを第一に考えるタイプ。南野と組む機会はここまで少ないが、浅野拓磨(ボーフム)や古橋亨梧セルティック)のようなスピード系にしてみれば、後ろにしっかりと守備のできる人間が控えているのは心強い。そういった強みを発揮すべき時が今回のオマーン戦でも必ず来るはずだ。

「最終予選は初めての経験ですけど、今のところはまだ難しさをよく分かっていない状況です。それを知らないまま突っ走って行きたいなというのがある。うまく前だけを向いて、危なくなったらベテランの選手たちが手綱を引いてくれる。知らないことをポジティブに考えていけばいいと思います」と彼自身もいい意味で割り切って、この修羅場をくぐり抜けていく構えだ。

長友と中山、さらに旗手怜央(川崎)がいい競争を繰り広げつつ、状況や相手によって人材を使い分けられるようになれば、日本代表にとっても朗報だ。国際Aマッチ130試合に到達した長友の経験値はまだまだ今のチームに不可欠ではあるが、フィジカル面やキレの部分でやや下降線を辿っている。そのマイナス面を東京五輪世代の中山と旗手がしっかりと穴埋めできれば、日本の左SBは盤石になる。前々から懸念されてきた「ポスト長友問題」も解決に向かうはずだ。

今回のオマーン戦で勝利という結果を出すと同時に、左SBのバリエーションを広げられればまさに理想的。最終予選残り全試合で勝ち点3を稼ぎ続け、最終的にはサウジオーストラリアをかわして2位以内に入っているという結末になれば、日本サッカー界全体にとっても本当に最高のシナリオになる。若い世代のキーマン・中山にはその一翼をしっかりと担ってほしい。つねに冷静沈着な24歳のクレバーな男の底力を発揮すべき時は今しかない。


【文・元川悦子】
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