起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第79回)。

緒方と清美さんに花奈ちゃん死体解体をやらせ

 1998年6月7日、松永太と緒方純子によって、緒方の妹の長女である花奈ちゃん(仮名、以下同)が殺害された。その後、彼らはどうしたのか。

 福岡地裁小倉支部で開かれた公判の判決文(以下、判決文)は、花奈ちゃん殺害後の松永らの行動について明かす。

〈緒方と甲女(広田清美さん)は、佑介(花奈ちゃんの弟)の殺害後に死体を直ぐに浴室に運ばないで松永に叱られたので、花奈の死体を直ぐに浴室に運んだ。その後、緒方は、北側和室に居た松永に対し、「終わりました。」と報告した。松永は、「そうか。」と答え、「今から『東篠崎マンション』(仮名)に移るから、荷物を用意しろ。」と言うとともに、「急いで遣れ。」と死体解体を急ぐように指示した。

 

 緒方が30分くらい荷物の整理をしてから、松永は、(松永と緒方の)長男、次男及び甲女を連れて「片野マンション」(仮名)を出て「東篠崎マンション」に向かった。松永が「東篠崎マンション」に移った理由は、6月であるから死体が早く腐敗して解体時の臭いがひどくなるためと、花奈の死体を見たくなかったためではないかと思う〉

 ここで〈思う〉との表現が出てくるのは、これらが緒方の供述を基にしたものであるからだ。以下続く。

「早く首を切れ、早くしないと死体が腐る」

〈松永は、死体解体作業には従事しなかったが、作業中、たびたび電話をかけてきて進行状況を確認し、「先に首を切れ。」、「息を吹き返したらどうするんだ。早く首を切れ。」などと指示し、「早くしないと死体が腐る。」、「お前のためになぜ俺が子供の面倒を見なければいけないのか。お前の子供だろう。とにかく早く終わらせろ。」などと言って、作業を急がせた。緒方と甲女は、花奈の死体解体作業を1週間くらいで終えた。松永は、解体道具の処分につき、包丁や鋸は何度も拭いて川に捨てるように、鍋、バケツ等は他人が拾って使うことがないように、潰したり取っ手を外したりしてから捨てるようにと指示した〉

 その後、松永は緒方に対して“負い目”を感じさせる発言を繰り返していた。

〈緒方は、花奈の殺害後、松永から、「お前が逃げたから全員殺す羽目になった。」、「全部緒方家の問題だからお前がきちんとしなければいけない。お前が(松永に無断で逃走して)湯布院に行ったからこうなったんだぞ。お前の子供のためにこうしているんだから、お前がやらなきゃいけない。」などと、何度も言われた〉

「花奈の首を絞めて殺害した」と証明書を書かされ

 一方、松永に命じられて花奈ちゃんの殺害、死体解体を手伝わされた清美さんも、同様に松永から“負い目”を押し付けられている。

〈甲女は、花奈事件の後、松永から、「あんたが花奈を殺害したんやろうが。」などと、何回も言われた。松永に、「甲女が花奈の首を絞めて殺害した。」旨の事実関係証明書も書かされた〉

 当人が望まない犯行を強要し、実行後にはその責任を押しつけることで、身動きを取れなくする。松永の犯行には、常にそうした卑劣な策が弄されていた。そうしたなかで、3世代6人いた緒方一家は、身内どうしの殺人に手を染めることとなり、最後に残された花奈ちゃんの死をもって、この世から全員が姿を消したのだった。

検察側の論告書による結論

 前記公判における検察側の論告書(以下、論告書)は、松永と緒方が関わった広田由紀夫さんから緒方花奈ちゃんに至るまでの、7件の殺人とその他の事件の全体像について、次のように結論付けている。

〈本件は、被告人両名(松永と緒方)が、平成8年(96年)2月から同10年(98年)6月までの約2年4か月の間に、緒方の両親を含む被害者合計7名を順次惨殺したという稀代の連続大量殺人事件並びに関連の詐欺、強盗及び2件の監禁致傷事件であり、「北九州監禁連続殺人事件」として全国規模での大きな社会不安を招いたものであって、その犯行の罪質、結果及び社会的影響は極めて重大である。

 

 被告人両名が犯した一連の犯罪行為は、殺人罪、詐欺罪及び強盗罪並びに監禁致傷罪に擬律され、個々の罪名のみを一瞥すれば、相互の関連性は乏しいようにも見える。

 

 しかしながら、既に検察官が詳細に述べたとおり、本件は、被告人両名が、これら本来的には罪質の異なる犯罪行為を巧みに組み合わせることによって、被害者を金づるとして取り込み金銭的な搾取を繰り返す一方で、監禁状態に置いて虐待を加えることによって意のままに支配するとともに、その支配状況に乗じて更に徹底的に搾取し、その資力が尽きて利用価値が喪失するや、その殺害及び死体遺棄・損壊もいとわぬ徹底的な証拠隠滅を行うことで、完全犯罪をもくろんできたという基本構造に貫かれていることが明白である〉

犯行の出発点は松永が経営していた「ワールド

 そこで論告書は、犯行の出発点として、松永が経営していた布団訪問販売会社「ワールド」の名を挙げる。

〈被告人両名は、詐欺的商法を営んでいたワールドを債務超過により経営破綻させるとともに、住居地である福岡県柳川市内において詐欺事件及び暴力行為等処罰に関する法律違反の罪を犯した挙げ句に遁走した後、平成4年(92年)10月ころから、北九州市内での潜伏生活を送るに当たり、その逃亡・潜伏資金を得る目的で、元ワールド従業員である山形(山形康介さん)、北九州市内の不動産会社従業員であった由紀夫(広田由紀夫さん)、松永が経歴を偽り結婚をほのめかすなどして接近した末松(末松祥子さん)や乙女(原武裕子さん)ら複数の女性のほか、あえて緒方の犯罪行為を暴露して負い目を負わせるなどして取り込んだ緒方一家を、順次、いずれも被告人両名の支配下に置き、食事制限等の厳しい生活制限を伴う日常的な虐待行為を繰り返すことによって意のままに従わせ、自己らの金づるとして利用し尽くしたものである〉

松永にそそのかされて夫と別れた末松祥子さん

 ここでは松永にそそのかされて夫と別れ、自宅を出た後の93年10月に、2歳の娘が北九州市内のマンションで“事故死”し、94年3月に大分県の別府湾で“水死”した末松祥子さんの名前も出てくる。以下、前文の続きである。

〈そして、同人らの利用価値が喪失するや、厄介払いあるいは口封じ目的で、平成8年2月26日ころには由紀夫、同9年12月21日ころから同10年6月7日ころまでの間には孝(緒方の父)、和美(緒方の母)、智恵子(緒方の妹)、隆也(智恵子さんの夫)、佑介及び花奈の、合計7名を順次殺害し、その死体を損壊・遺棄して完全犯罪を遂げたというものであり、殺人事件としての立件には至らなかったものの、末松もまた、その1子と共に不審死を遂げている〉

清美さんが受けた被害

 さらに、公判内で「乙女」、「甲女」と呼称された原武裕子さん、広田清美さんが受けた被害については、以下のように言及する。

〈他方、本件詐欺、強盗及び監禁致傷被告事件の被害者である乙女は、上記同様に「金づる」とされていたものの、意を決して逃走したことにより、被告人両名による惨殺からは危うく難を逃れている。しかしながら、乙女は、その壮絶な被害のため、今なお深刻なPTSD症状に悩まされ、社会復帰もままならない状況下に置かれているのである。

 

 また、甲女に対する監禁致傷被告事件は、上記一連の犯行とは若干趣を異にするものの、甲女は、一連の殺人被告事件の目撃者であるが故に、その口封じのため、完全犯罪をもくろむ被告人両名の支配下に置かれ続けていたという点において、同事件もまた、他の一連の事件との同根を有する関連事件といえるのである〉

「反省悔悟ぜず完全犯罪をもくろんできた」とされた松永と緒方

 こうしたことを踏まえ、論告書は〈本件の全体的情状〉として、次の内容を挙げた。

〈以上のとおり、その全体像を概観するとき、本件は、若干趣の異なる甲女に対する監禁致傷事件を除けば、被告人両名が、逃亡・潜伏資金を得る目的で、同じ手口による犯罪行為を繰り返していく過程において、その被害を拡大していき、ついには合計7件の連続大量殺人事件に発展したものであることが明白となる。

 

 そして、被告人両名は、その過程のあらゆる場面において、過去の犯罪を清算し、自らを悔い改めて、更なる被害拡大を防止し得る地位にあったにもかかわらず、逮捕されるまでの間、全く反省悔悟しないまま、ちゅうちょなく、同じ手口による同種の犯行を繰り返し続けたばかりか、時には、その手口に改良を加えることで、一貫して完全犯罪をもくろんできたものである〉

「鬼畜の所業」「改善更生の見込みがない」

 さらに論告書は、松永と緒方の犯行内容の悪辣さを訴える。

〈のみならず、被告人両名は、いずれの犯行においても、金づるとして支配下に置いた被害者を短期間のうちに別人のように衰弱させるとともに、厳しい生活制限を伴う虐待行為を続けることによって、被害者の人間性を徹底的にないがしろにしてきたばかりか、緒方一家に対する殺人事件を遂行する場面においては、生存する被害者に家族の殺害及び死体損壊までをも手伝わせ、絶望の淵に追い込んだ挙げ句に殺害するという鬼畜の所業をもやってのけたものである。仮に被告人両名に被害者に対するあわれみの情や罪悪感がわずかでも残されていたのであれば、かかる被害者の人間性を徹底的にないがしろにする鬼畜の所業を繰り返すことなど到底なし得なかったといえよう。

 

 このように、本件は、その全体像を概観する限りにおいても、過去の犯罪の発覚を免れるために更なる罪を重ね、決して自らの罪を清算しようとしない被告人両名の著しい規範意識の鈍麻と、自己保身のためならば、被害者の人生を破壊することもいとわないという著しく自己保身的な人格態度が顕著に見て取れる上、被告人両名の根深い犯罪性向が認められるのである〉

 そしてこの項は、以下の言葉で締めくくられていた。

〈以上の全体的考察に加え、本件一連の犯行を個別に検討すれば、被告人両名の刑事責任が我が国の犯罪史上において比肩するものがないほどに重大であり、その犯罪性向は深刻で、およそ改善更生の見込みがないことは、より一層明らかとなる〉

 そこには松永と緒方の犯行が、いかに過去に例を見ない悪質なものであったのか、疑う余地のない表現が並ぶ。

 緒方一家を殲滅した松永と緒方は、以後、次なる“金づる”を求めて回ることになる。

第80回へ続く

「もしあのとき行ってたら…」松永太の“毒牙”から逃れた20歳女性は身震いした へ続く

(小野 一光)

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図