(田中 美蘭:韓国ライター)

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 先の衆議院選挙自民党が過半数の議席を確保したことで、岸田内閣の続投が決まった。これに反応した韓国では、「日韓関係の改善は望めそうにない」「嫌韓の世論がさらに加熱するだろう」といった見方が出ている。日韓関係の改善は「日本の態度次第」という相変わらずの反応だが、2019年の「No Japan」こと「日本製品不買運動」を契機にした破壊的な日韓関係の悪化は韓国側に責任がある。

 前回の不買運動で真っ先にその矛先が向かったユニクロは、反日不買の象徴的な存在だった。世界に名を知られる大企業であり、韓国のアパレル業界で常に売上高トップに君臨しているユニクロをやり玉に上げるのは、国民感情を刺激する上でも十分に効果的だった。

 もっとも、韓国におけるユニクロのプレゼンスは既に回復している。この2年で店舗数は減少しているが、これはユニクロに限ったことではなく、採算性の低い実店舗を減らし、オンラインでの販売を強化するというアパレルブランド全体の動きだ。

 事実、ユニクロの韓国内の売上高は黒字に転じている。

「ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)」とコラボしたダウンジャケットは韓国でも話題を呼んでおり、10月15の発売当日から品切れが相次いだ。ユニクロの復調に対して、韓国マスコミは「不買運動に勝った」「韓国で復活の兆し」などと報じている。

 11月12日には、2年ぶりの店舗を釜山でオープンさせるとともに、ファッションデザイナーのジル・サンダース氏とコラボした「+J(プラスジェイ)」の韓国発売も始めた。こちらもホワイトマウンテニアリングと同様、発売初日から各地の店舗で行列ができた。店舗では、大量購入による転売や混乱を避けるため、入場者数や購入数などを制限する措置が取られた。

 現在の状況を見れば、不買運動は遠い過去のことのように感じられる。それだけ、政府やマスコミの扇動による影響も大きかったということだろう。

 韓国は新型コロナ新規感染者数に減少の兆しが見られない状況だが、11月1日から「コロナとの共存=ウィズコロナ」として、日常生活における大幅な規制緩和に踏み切った。特に、1年半にわたって規制続きだった飲食店は営業時間の制限が事実上なくなり、夜の街に活気が戻りつつある。

韓国メディアも好意的に取り上げた「渡韓ごっこ」

 新規感染者の完全な抑え込みができていない中、日常生活への転換にかじを切った背景には、国民の70%がワクチン接種を完了し、集団免疫の獲得に近づいたという事実に加えて、コロナ化以前から続く景気低迷やコロナに伴う自営業者の廃業件数の増加がある。

 現に日常生活の規制緩和とともに国内外の旅行需要にも期待が高まっている。ワクチン接種済であることを条件に、入国後に求められる一定の隔離期間を免除する国や地域が出始めているからだ。韓国から短時間で行けるグアムサイパンへの旅行商品も、先日から発売が始まった。

 第二の都市、釜山の金海空港でも国際線の運休を余儀なくされていたが、11月からグアムサイパンへのフライトがそれぞれ再開されることが決まった。これに併せて根強く聞かれるのは、「日本旅行再開」を望む声である。

 先日、韓国好きの日本のMZ世代(ミレニアル世代とZ世代)の間で流行っている「渡韓ごっこ」が韓国で取り上げられた。おそろいのパジャマで韓国グルメやK-POPを楽しむというもので、これに目をつけたホテルなどが宿泊プランを販売しているという。

 韓国のネットでは「早く日韓がコロナ前のように行き来できるようになればいい」「日本に旅行に行きたいのをずっと待ち望んでいるので訪日ごっこをしたい」といった好意的な声が並んでいる。

 ユニクロ商品のヒットや日本旅行への期待に象徴されるように、ここ最近は日本製品の人気復調が目立つ。例えば、日本車の販売台数がそうだ。

 韓国のビジネスメディア「マネートゥデイ」が伝えたところによると、8月の売上としてレクサスが前年同時期の3.7%、トヨタが同7.9%、ホンダが同114.9%の販売増をそれぞれ記録した。デパートやコンビニ、大型スーパーの食品売場でも、鳴りを潜めていた「Asahi(アサヒ)」などの日本製ビールが並び始めている。

 また、一部の反日市民団体による「旭日旗問題」が波紋を広げた人気漫画「鬼滅の刃」も、2021年1月に公開された劇場版「無限列車」の観客動員数が215万人に達するなど大ヒットを続けている。11月10日に公開された劇場版「兄妹の絆」のヒットも確実な情勢だ。

 このように、不買運動で騒がれていた時とは様変わりで、むしろ韓国人は日本製品の復活を歓迎しているように見える。

「日本車の乗り入れ禁止」を発表したゴルフ場に非難囂々

 韓国政府が自らの不都合から国民の目を反らすために、ことあるごとに日本に難癖をつけてくるのはよく知られている話だ。国民も、それに煽られて団結する。ただ、多くの人にとって「不買運動は過去のもの」という認識になりつつある。

 韓国に在住する日本人の間でも、「不買運動とは何だったのか?」「煽られて乗った割にはさっさと忘れて変わり身が早い」「結局は日本製が好きなんだな」といった失笑が漏れる。

 とはいえ、一部ではまだ不買運動や反日意識は根強く残っている。例えば、韓国南西部・全羅南道(チョルラナムド)にあるゴルフ場が先日発表した方針が波紋を呼んでいる。「ゴルフ場への日本車での乗り入れを禁止する」という方針である。

 さらに、「日本で韓国車に乗る人がほぼいないのに、韓国で日本車に乗る人が多いのはいかがなものか」と疑問を呈し、「日本は過去の歴史問題を清算していない」とゴルフ場のオーナーは主張している。

 韓国のゴルフ市場では、ウェアやクラブ、ゴルフ場のカートに至るまで、日本製が多くを占めている。このゴルフ場で使用されているカートも日本のヤマハ製だ。このオーナーの主張は明らかに矛盾しており、さしもの韓国人も、同調している人間はそれほど多くない。

 グローバリゼーションが進んだ今の時代、どこの国においても自国で作られた製品だけで生活することは不可能に近い。また、特定の国に対する反感を持っていたとしても、米中摩擦を見ても分かるように、ビジネスと政治はできる限り、切り離そうとするのが常だ。

 このゴルフ場の方針が報じられるや否や、韓国人からも疑問、非難の声がわき起こったが、それも当然だろう。文政権が起こした不買運動とそれを煽るマスコミの報道、一部の市民団体や反日感情を持つ人の行為が韓国の民度を下げていることにそろそろ気づくべきではないだろうか。

“大人”になりつつある韓国人

 文在寅大統領の人気は既に半年を切り、来年3月には新たな大統領が選出される。文大統領の置き土産とも言える不買運動や慰安婦・徴用工問題などが時期政権でどのように変化するのか、注視すべきだろう。

 韓国の国民性として、一度火がつくとものすごい団結力を見せるが、反面、熱が引いていくのも早い。これまでも、こうした光景がたびたび繰り返されてきた。

 ただ、最近では韓国人も変わり始めたようで、国民が政府やマスコミが扇動することに対して疑問を持つようになりつつある。実際、この数年の反日不買で韓国人は日常生活の窮屈さを感じながら暮らしてきた。「日本に負けない」と言った政権の日本へのネガティブキャンペーンに、韓国民の多くはもう反日でどうこうなる時代ではないと感じている。

 その答えは、次回の大統領選で明らかになるだろう。

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