東京大学中退の経歴で、マルチに活躍するラッパー・ダースレイダー(44歳・@DARTHREIDER)の連載「時事問題に吠える!」では現代に起きている政治や社会の問題に斬り込む。

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 第49回衆議院議員選挙で有力候補者が落選した東京8区と香川1区について解説した前回に引き続き今回の選挙戦を振り返りつつ、現在の日本の政治の問題点、われわれ国民がどのように政治にかかわっていくべきかを解説する(以下、ダースレイダー氏の寄稿)。

勝敗ラインを超えた自民、ラインを設定しなかった立民

 10月31日に投開票が行われた衆議院総選挙では、事前のメディア予想が大きく外れたことが話題になりましたが、もっとも躍進した政党は日本維新の会でした。与党である自民党は、岸田文雄総裁が設定した与党過半数という勝敗ラインを超えたので、その意味では勝ったと言えるでしょう

 対して、立憲民主党は議席数を減らしました(109→96)。僕は、立憲民主党が選挙前に勝敗ラインの設定をしなかった点に注目していました。

 勝敗ラインの設定をしなくてもなんとなく勝ちそうだといった態度で挑んでしまったことが、党としての士気の高揚を妨げたのではないかと思っています。政権交代のためには過半数をとる必要がある。今回はそこまで目指してないなら、じゃあどこまでなのか? は具体的に示されませんでした。

立民・枝野幸男代表が辞任へ

 その結果、枝野幸男氏は代表を辞任しました。もし、事前に議席数などの勝敗ラインの設定していて、それを達成していたなら辞任する必要はなかったと思います。ただ、今回、結果的に良い決断になった可能性はあると思います。

 立憲民主党は現在の党になったとき、代表選を国会議員のみでおこなっているので、このタイミングで立憲パートナーズ(市民も参加する準党員制度)も含めた代表選をおこなって、そこに枝野さんも出るという選択肢もありました。

 そもそも続投を願っている人もいたわけですし、今回の衆院選の結果をご自身がどう考えているのかも含めて、代表戦で「信」を問うことは有り得たと思います。

立憲民主党代表選の候補者たち

 さて、蓋を開けてみれば枝野さんは出馬せず、一切、口も出さないという立場を取りました。一番最初に出馬表明した小川淳也さんは推薦人20人を集めるのに苦慮していましたが、11月18日に立候補を正式表明しました。

 一方で逢坂誠二さんは党内最大グループが推すかたちで出馬。泉健太さんは旧国民民主党系の「新政権研究会」の支持を得て出馬。西村智奈美さんはジェンダー平等を掲げる党として女性代表を、という声に推されて出馬しました。

 自民党総裁選の影響も指摘されましたが、もう違う党とはいえ、民進党時代に蓮舫さんが代表を務めているのだから、わざわざ言うことで党として当たり前に女性候補が出る土壌になっていないことが見えてしまった気もします

 自民党総裁選でかつて野田聖子さんが推薦人が集まらず出馬断念したときも感じましたが、あらかじめ枠が決められている印象を持ってしまいます。泉さんは党の世代交代を印象づけることができる候補だと思いますが、自民党総裁選のような興行として成立するかは見どころです。

 自民党総裁選は各候補がさまざまな論点で多様な立場をとっているかのように見せることで自民党自体、そして岸田さんのPRに成功した興行でした。

“反国会派”の勝利となった2021年の衆院選

岸田文雄
首相官邸Twitterより
 この衆議院選挙の争点は、反国会派VS国会派であると僕は前から主張していました

 日本は、民が主である代表制民主主義を採用しています。われわれ国民は代理人を国会に送り込んで、予算や法案などの議論をしてもらうわけです。

 しかし、現政権は2021年6月16日に通常国会を閉会してから、この2年間、国会を開いていません(首班指名の臨時国会と、衆院選を受けた特別国会を除く)。野党の臨時国会の開会要求を拒否し、さらには憲法53条の「一定数の国会議員(どちらかの議院の総議員の4分の1以上)の要請があったら内閣は臨時国会を開かなければいけない」という規定を無視しています

 政権与党(自民党公明党)は国会を開かない派(=反国会派)であるのに対して、野党は国会を開く派(=国会派)であるということです。今回は選挙の結果、反国会派が勝利したということになります。

国会を正常に行うことが民主主義のスタート

日本の国会議事堂

 なぜこの争点が大事かというと、国会を正常におこなうことこそが代表民主制のスタートラインだからです。国会が開かれてこそ政策の議論ができるのに、正常に機能させないまま「この人の政策は危なっかしい」とか話していること自体が、もはや茶番ではないかとさえ思えます

 憲法に基づいて開けと言っても内閣の都合で開かず、自分たちが選挙のタイミングで勝手に解散し、首班指名のときだけ開く。そんな国会運営ではダメなんです。

 通年国会が国際標準の中、期間制の国会を開いている時点で、日本の国会が本当に民意を反映する場として機能しているのでしょうか。国会の在り方を一度考え直す必要がありますし、今後の国政選挙で議員が正常に仕事をする場を作らねばならないでしょう。

 僕は今回、野党が政策うんぬん以前に、「国会を機能させる」一点だけで連携しても良かったと思います。それならば、立憲・共産・れいわ・国民も手を組めるんじゃないでしょうか。

 衆院選で当選した新人議員に、在職1日で100万円の「文書通信交通滞在費」が満額支給されたことが問題になっていますが、政党助成金も含めて僕は国会を開いて仕事をする議員に対して必要な経費を払うことには反対しません

 同様に国会を開かないなら議員数削減をしても良いですが、国会を開くなら多様な意見を代表する代理人の数がいることがとても大切になります。

国民一人ひとりが考えた上での投票でないと意味がない

 とはいえ今後は、岸田内閣が柔軟な国会運営をしていく可能性はあります。それはもちろん良いことだとは思いますが、今回はそういった視点で与党が選択されたわけではありません。国会の価値を有権者がちゃんと議論していないことに、非常に問題があるはずです。

 そして、投票率は55.93%と非常に低い。投票率を上げるための試みがさまざまおこなわれているのは良いことではありますが、国民一人ひとりが国政の主であると自覚して投票に参加してこそ、投票率が上がる意味が出てきます。数字だけの上下は中身を伴いません。

 われわれがちゃんと考えて選挙に参加するためには、18歳未満子どもたちが参政の教育を受け、メディアを通じてちゃんとした情報が与えられていることが重要になります。また、若者の投票率の問題も話題に上がりますが、投票率は約56%ですから、あまり若くない人も行っていないわけです。

 ですが、18歳で選挙権を持った人が突然「本番です。さあ、選挙に行きなさい」と言われても、それまで選挙の意義をほぼ教えてもらっていないのだから、関われないのも無理はありません。

代表民主制の練習をしないまま世に出される子どもたち

投票

 そもそも、古代ギリシャスタートした最初の民主制は、王による権力の私物化を避けるために市民全体で物事を決めていくというものでした。専制政治へのアンチです。

 権力を集中を防ぐために考えられた制度が民主制であリ、そのベースに主である民の熟議にある。日本の中学生は議論の練習がなされているのか、さらに進んで、現在の代表民主制はどうあるべきなのかといった話がされているのか。そもそも選挙は手段であり、目的である民主制と言うものをどれだけ理解できているか? その点には、はなはだ不安があります。

 欧米諸国での模擬選挙や政治教育のような環境が整備されて初めて自分の事として政治参加できます民主主義においては当然、有権者である時点で政治参加しています。ここで参政権という議論も同時に考えるようになり、例えばアメリカの公民権運動の意味もわかるようになります。

メディアの選挙報道の謎ルール

 選挙に行かない土壌と並んで、メディア報道の問題は非常に大きいと思います。例えば、衆院選の前の自民党内の総裁選はマスコミが大々的に取り上げていました。対して、衆院選の報道は減りました。テレビでは特にです。

 これには各政党を平等に扱うべきという謎ルールの出現が関係しています。政党名や候補者名とかを全部読み上げなければいけないために非常に時間が取らるので、番組がそれだけでほぼ終わってしまう。だから報道しないというわけです。

 選挙報道の切り口が平坦で退屈なのもそうですが、もっとも国民的議論を喚起すべき選挙期間中にもっとも政治報道が控えめになるという大変イビツなメディア状況があり、それを許容している時点で、改めて日本は民主主義国家ではないと考えてしまいます。

 僕は全然そんなことをやる必要はないと思っています。日本には報道の自由が与えられたメディアが多数存在するのだから、総体として内容や分量のバランスが取れていればいいでしょう。

 選挙後に投票率が低いと報じられましたが、そうさせたのは寂しいメディア報道の影響が少なからずあると思います。もちろん、新聞を見ると注目選挙区とかが細かく紹介されていたりするので、すべてのメディアが沈黙していたわけではないです。

選挙結果に影響を与えたがらないテレビ

テレビ

 一方で、投開票が終わってからの選挙特番では、候補者のことを好き放題言っています。面白いから個人的には好きなんですけど、選挙前にその話をしたほうが100倍ぐらい面白くなることは明白です。でも、なぜかやらない。

 その“なぜ”が、今の日本の選挙制度の歪みを生んでいると思うし、教育で選挙制度にほとんど触れない理由にもつながってくると思います。どういうことかというと、選挙後にあーだこーだ言うのは非常にラクですよね。自分の発言が結果に影響を及ぼしませんから。結果がでた後の候補に厳しいことを言うのもラクです。

 逆に言えば、メディアは自らの報道によって選挙に影響を与えることを避けているわけです爆笑問題太田光さんの発言が批判されていましたが、僕はいろいろなチャンネルがあって、投票日前から侃侃諤諤(かんかんがくがく)やっているなら、太田さんのようなスタンスの番組だってあって良いと思います。

 それを観て考えるのは主である民、僕たちです。どうも勝手に僕たちのリテラシーを低く見積もって考える能力がないと決めつけているのでは? と思ってしまいます。

報道の内容の差を認識することが大切

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左から、プチ鹿島、平井卓也氏、ダースレイダー (提供:ダースレイダー
 先ほど選挙報道の公平性のことに触れましたが、そもそも僕はメディアが伝える内容には偏りがあることが前提だと思っています。

 日本には五大新聞社がありますが、その内容に違いがあることこそが重要で、同じものでも違う場所からだと違って見えるというリテラシーを、情報の受け手が持っていればいいのです

 しかしながら、ある種の意図を持ってメディアポジション取りをしている場合、そしてその情報しか見ていない人がいる場合は、非常にイビツな構造になってしまいます。

 そのイビツさは、前回の記事でお話した香川1区の事例に表れているでしょう。端的に言えば、エリアシェア6割を占める四国新聞が身内の平井卓也候補に有利なように候補者批判をしたと。ただ、それでも香川1区では対向の小川さんが小選挙区当選を果たしたので、そのスタンスがそれほど有効ではなくなった可能性はあります。

 四国新聞は選挙を振り返る記事でプチ鹿島さんや僕のことをほぼ名指しで小川さんの「応援部隊」と書いていましたが、前回の記事にも書いたように僕たちは平井さんのパレードに参加し、街宣を最前列で聞き、平井事務所で開票結果を聞いていました。そこで見たものをレポートしたわけですから、受け手によっては平井さんの応援にだってなっていたと思います。

完璧な人間はいないからこそ国会を正しく開くべき

 今回の衆院選で改めた感じた問題点を述べましたが、われわれ有権者に大切なのは、誰か一人の政治家100%の正解を持っているという考えを捨てることだと思います

 どんな才人でも、国民国家という非常に大きな共同体全体の利益となる答えをポンと出すことは難しい。ゆえに、民主制では熟議を元にして、なるべく多くの人に対しての最適解になるように調整しつつ、それでも救いあげられなかった人たちに対してのケアを考え抜くわけです。

 それは、非常に時間がかかって面倒くさいけれど、独裁に抵抗する本来の民主主義の在り方として、みんなの知恵を集めて物事を決めていく。それこそが民主制だと思っています。国会が正しく開かれることの重要性を何度も説くのはそのためなのです。

 実はこの国民国家という前提に基づく民主制は国際的に見ても今、大変困難な状況を迎えています。ただ、日本はその段階よりもはるか手前にいるので、早いとこ国際的な議論に参加する資格を持つだけの社会的集合知を身につけていく必要があると思います

選挙制度を含め、国民に対して開かれた議論の場を

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 最後に、今回野党は多くの小選挙区で候補を一本化し共闘を図りました。これは野党で票が分散して共倒れすることを防ぐ意図があります。しかし、結果は振るわなかった。

 僕はそもそも日本は二大政党制に向いていないのではないかと思っています。小選挙区制は二大政党制を前提としながらも、日本はいまだにそれが叶っていませんし、しかも、二大政党制をとる国の近年の政治動向を見ると、うまくいく保証は少なくとも10年前に比べたらかなり少ないことがわかりますイギリスブレグジット欧州連合離脱)があったし、アメリカトランプ以降の政治がそれです。

 にもかかわらず、日本が思考停止で「二大政党制がいいんだ」という思い込みで、現在のまま進んだら、立憲民主党的な立場が二大政党制の対抗馬としては消滅し、結果として、自民党的なものVS日本維新の会的(旧希望の党的)なもの、という構図に落ち着くのではないかと思います

“ネオ55年体制”のようなもので、そこに旧社会党的立ち位置の左派政党が体制の外側にいるイメージです。それが日本社会の選択なら仕方ないとして、二大政党制の肝である政権交代による自浄作用や官僚腐敗の防止がうまくいくかは疑問です。

 選挙制度の在り方も含めて、何よりもまず国会が正常に運営され、国民の見えるところで議論されること。今、日本の政治に必要なのはこれに尽きると思います。

<文/ダースレイダー

【ダースレイダー】

1977年パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、ラップ活動に傾倒し中退。2010年6⽉に脳梗塞で倒れ合併症で左⽬を失明するも、現在は司会や執筆と様々な活動を続けている。