国の調査で全国1万か所以上あるとされた「危険なバス停」。なぜこのようなことになったのでしょうか。事業者は順次、移設などの対策をとってはいるものの容易ではありません。そもそも、バス停の存在が本当に危険なのでしょうか。

「危険なバス停」全国に1万か所

「危険なバス停」という言葉を聞くようになりました。停車したバスによって死角が生じ、交通事故を誘発する恐れがあるバス停が「危険なバス停」とされ、安全対策が急務と位置づけられています。

きっかけとなったのは、2018年に横浜市で発生した、バスを降りて道路を渡ろうとした女児が対向車にはねられて死亡した事故でした。「危険なバス停」という名称は、この事故を受けてバス停の課題を取材した、ある全国紙による一連の報道のタイトルから広がったと考えられます。

こうしたなかで国土交通省も、2019年11月に全乗合バス事業者に対し、信号機のない横断歩道のそばにあり、停車時にバスが横断歩道にかかるバス停の数や状況を報告するよう求め、バス停付近の事故リスクを判定したうえで、特に危険度の高いバス停の名称や所在地を公表する方針を決めました。

その結果、該当するバス停は全国に1万195か所あり、内訳は車体が横断歩道にかかるなど最も危険度が高いとされる「Aランク」が1615か所、車体が交差点にかかる「Bランク」が5660か所、交差点の前後5mにかかる「Cランク」が2920か所というものでした。

なるべくしてなったわけではない「危険なバス停」

バス停には歴史があります。設置までには地元住民たちのさまざまな要望や議論があり、地域や利用者に良かれと考えられて設置されたところがほとんどです。

今回、「危険なバス停」とされた1万か所以上のバス停には、40年も50年も前からあるバス停が少なくありません。その間にはバス停の周囲の環境も大きく変化します。安全でない場所にバス停がつくられたのではなく、もともとあったバス停の周囲が後から変化したケースが多いといえます。

典型的なのはこんなケースです。50年前に田んぼの中の一本道にバス路線があって、奥の集落からのあぜ道を出てくるところにバス停が置かれました。その後に周囲が宅地化された結果、あぜ道は車の通れる道路に拡幅されてそこが交差点となり、未舗装だった道路が舗装されて横断歩道が描かれました。結果的にバス停にバスが停車すると横断歩道にかかるような位置になってしまったのです。

では、このようなロケーションのバス停で実際に事故が起きているかというと、このたびの国交省の調査でも、警察から事故が実際に起きたケースの報告はわずかということです。交通量が多い、見通しが悪いといった場所は、おのずと気をつけて運転し、横断するからでしょう。

対策は進んでいるが…

これら「危険なバス停」については市町村も協力して、より安全な場所への移設や停車位置の変更などの対策を施すべきとされました。2021年11月、移設などの対応がなされたのは全国約1400か所、13%ぐらいが対策済みという報道がなされました。

「たった1割程度!?」と思われるかもしれません。しかし私はよくこの短期間に1400か所ものバス停を移設できたものだと感じます。バス事業者も当該市町村もかなり一生懸命取り組んだ結果だと思います。

というのも、バス停を移設するというのは簡単にできることではないからです。現在、バス停を設置するには、道路交通法を遵守することはもちろん、道路管理者や警察に照会して安全な場所であることや、交通その他の支障にならないこと(駐車場の出入口や消火栓の近くを避けるなど)を確認したうえで、その場所の住民や地権者の了解を得なければなりません。

しかし商業化や宅地化が進むと、いたるところに車や人の出入口があり、その邪魔にならない場所を見つけるが難しくなります。加えて現在、目の前の住宅にとってバス停は、(待つ人の話し声やバスの発着で)うるさい、汚される、覗かれるという、いわば“迷惑施設”とも言われる存在となりつつあり、むしろ合意が簡単に得られる状況ではないのです。

また、バス停で待つ人の安全も考慮する必要があるため、広いスペースが取れて安全に待てるという場所を選ばなければなりません。バス停で安全に待ってもらえるようにと、バス停前の地権者が厚意で民地をセットバック(前面道路から後退)させてスペースをつくり、舗装してベンチまで置いてくれた事例もありますが、そのようなありがたいケースはごくまれだと言ってよいでしょう。

移設が難しいとなると、そのバス停は現在地で注意喚起するか、どうしても現在地が安全上不適切というなら廃止するしかなくなります。しかし前述のように古くからのバス停が多いため、得てして該当するバス停は利用者が多く、なかなか廃止の決断ができないのが実態です(廃止となったケースも実際にあります)。

危険なのは「バス停があるから」ではない

より安全なバス停をめざすという方向性はもちろん正しいことです。現状のバス停に課題があるのも事実でしょう。しかし「危険なバス停」という名が付けられるほど本当にバス停自体が危険なのでしょうか。もっと言うと「事故が起きたのはバス停のせい?」なのでしょうか。

前出した横浜市で起きた事故の場合、主な要因は乗用車の運転者の過失だったはずです。大型車が停車していればその周囲に死角ができます。すれ違ったり追い越したりするときは、そこから人や自転車などが飛び出してくることは当然予測して運転しなければなりません。本来はそうした一般ドライバーへの注意喚起がまずなされるべきだったと考えられます。

そして子どもたちにも、昔から指導されていたはずの「降りたバスの直前直後の横断はしない」「道路を横断するときは止まって右を見て、左を見て」という安全教育を再度学校や家庭で徹底させることが求められます。

今回、「危険なバス停」が公表されたことにより、調査や移設に関わることになった市町村が関心を持ったこと、利用者や住民に意識されたことで、改めて安全への意識づけになったのはよいことです。とはいえ本来、大切なことは、バス停を“悪者”にすることではなく「バス停があるからこそ注意して運転する」歩行者優先の安全意識、「見通しの悪いところは特に注意して横断する」という身を守るための安全意識を徹底することではないでしょうか。

東京都西東京市の西武バス「小谷戸」(ひばりが丘方向)。停車時に車体が横断歩道に係るAランクの「危険なバス停」だったが、2021年4月に移設(2021年11月、乗りものニュース編集部撮影)。