東京2020オリンピックパラリンピックを支えたパートナー企業の“知られざる裏側”を紹介する動画『THE BACKGROUND』に、大会公式フォントの開発で競技大会をサポートしたモリサワが登場。「情報が正しく伝わることが大事です」と語るモリサワ サスティナビリティ推進部 東京2020推進室室長の白石歩氏は、どのように東京2020オリンピックパラリンピックをサポートしたのか。知られざる裏側について聞いた。

【動画】公式フォントのこだわり

■“親字”は手書きで始める「職人たちによって受け継がれてきた技術がある」

これまでに千数百体のフォントを開発。国内シェアトップクラスであるフォントメーカーの同社は、大会公式フォントを開発することで東京2020オリンピックパラリンピックをサポートした。「オリンピックのような大きな大会では、大会の公式フォントが定められます。これはブランディングのひとつであり、エンブレム、マスコットなどと同様に、フォントもとても大きな役割を担っています。大きなビジョンで表示されたり、チケット、メダルにも、文字があるところにはすべてフォントが使われます」と白石氏は説明する。

種類は和文と欧文で、それぞれ5種類の太さのフォントがあり、用途によって使い分けられた。「情報が正しく伝わることが大事ですので、ゴシック体で見やすい、識別しやすいフォントになるよう配慮して作っています」。和文にはついては2万3058字、欧文は約300字の提供を行なった。

驚くべきは、すべてのフォントは文字職人たちの技術によるもので、最初の“親字”は手書きで始めるのだという。「いろいろな使われ方をする文字ですが、一番は紙ですよね。紙が一番イメージしやすいですし、そこに開発する職人たちのアイデンティティーであったり、脈々と受け継がれてきている技術があるので、最初は手書きで始まるのです」と白石氏。

会社既定のフォーマットに収まるように、職人たちが手書きで文字を書いていくのだ。「親字を整えて全部並べて、文字のアイデンティーが固まっていって、その方向性で文字を足していきます。その後のデジタル化の過程ではデジタルツールで調整をしていくのですが、最初は手書きなんですね。わたしたちが入れない職人の領域です(笑)」と知られざる開発秘話を説明する。

■人々の助けになるものを世の中に出そうということで、文字のUDを進めている

そのポイントは「読みやすさ」にあったという。「フォントにはかわいいもの、カチッとした明朝体など、いろいろありますが、今回はゴシック体です。これは、その読みやすさだけでなく、文字のユニバーサル・デザインという意味でも、読み間違いがないように配慮したフォントを作っています」と解説する白石氏。ユニバーサル・デザイン=UDフォントとは、たとえば弱視、老眼のせいで濁点がパッと見て識別しにくいことがあるが、従来フォントとは違い、ぼんやりしいても読めるものがUDフォントなのだ。「カッコいいだけでなく、人々の助けになるものを世の中に出そうということで、文字のUDを進めています」と会社の理念を白石氏は語る。

そしてUDフォントの開発・普及とともに、モリサワは従来より、パラリンピックアスリートのサポートにも力を入れている。「今は多様性など、東京2020大会でも共生社会が、非常に重要なコアの部分ではあると思います。文字は英語でキャラクター(character)ですが、どうしてもキャラクターと言うと、我々はとがった個性やユニ-クなものを求めるのですが、実はキャラクター=文字は、普通でもいいんです。それはいろいろあってよくて、それぞれの使い方のシーンがあるんです」と白石氏は強調した。

また、白石氏は長く会社として障害者スポーツへの取り組みに特化している経験を踏まえ、「これからの社会は、障害があるないに関わらず、みんなが一緒に生きていく社会にならないといけない」と主張する。

「障害も個性であり、彼らにしかできないことがあるので、障害の有無、性別・年齢・主義・主張の違いを超えて、みんながそれぞれの個性を抱え、認め合いながら、それぞれが活躍するシーンが社会にあって、そこでみんなが生きて行けることが社会のゴールだと思うんです。なので今後、文字のキャラクターと、障害を持った社会のキャラクターが、ひとつになっていけばいいなと思っています」

映像提供:NewsPicks Studios 

素材提供:モリサワ

モリサワは大会公式フォントを開発し東京2020大会をサポート