シャンプーや洗剤を詰め替える」「ティッシュペーパーが切れたら、箱を交換する」「食器を洗う前に水に浸す」――。

「掃除」「洗濯」など、いわゆる「家事」には該当しないものの、必ず付随している作業は「名もなき家事」と呼ばれます。「料理は妻、掃除は夫」などと家事を分担する夫婦も増えていますが、代表的な家事に分類しづらい「名もなき家事」はほとんどを妻が行っていたり、そもそも、夫が存在に気付いていなかったりして、妻の方が負担を感じるケースが少なくないようです。

 コロナ禍が沈静化し、オフィスへの出勤機会が増えて、家事分担の在り方が変わる夫婦もいそうです。夫婦が「名もなき家事」と上手に関わっていくには、どのようにすればよいのでしょうか。夫婦カウンセラーの木村泰之さんに聞きました。

ボトル詰め替え、ティッシュ交換、冷蔵庫整理…

Q.「名もなき家事」の負担が夫婦の片方に集中することで、夫婦関係にすれ違いが生じるケースは多いのですか。

木村さん「『名もなき家事』は多岐にわたるので、負担に感じる人もいれば、苦にならない人もいます。性格的にきっちりしていたり、細かいことが気になったりするタイプで、『名もなき家事をしなければ、気持ちが悪い』と思う人もいるでしょう。そう考えると、人によって捉え方が随分変わってきます。私の相談者で、『名もなき家事』によるすれ違いが生じるケースはまれです。

そうした家事がルーティンワークになっている実情に加え、夫婦間のすれ違いはどちらかといえば、『家事』のすれ違いよりも『気持ち』のすれ違いの方が多いためだと思います。ただ、若い夫婦間だと、愛情を行動で感じ取る人も少なくありません。特に妊娠中や、仕事が遅くなって疲れているときに『少しは手伝ってくれてもいいのに』という思いが募ることで、すれ違いが発生するかもしれません」

Q.男性の家事参加が進んでいるものの、ネット上の意見などを見ると、「名もなき家事」の負担を多く被っているのは夫より妻である印象を受けます。

木村さん「『名もなき家事』は多岐にわたりますが、そのほとんどが家の中で発生することです。さまざまなボトルの詰め替え作業、トイレットペーパーやティッシュ箱の交換、食器を洗う前に水に浸す、冷蔵庫内の整理、宅配の再配達のために早く帰宅するなど、とにかく、家のどこかで発生することが占めます。

専業主婦の場合、家にいる時間が夫より長いケースが多く、妻が負担する場合が多いでしょう。また、結婚当初は共働きの夫婦も出産や育児などで『夫は外、妻は家』となるケースが多いので、家事の分担量は自然と妻の方が増えていきます。コロナ禍では夫も在宅時間が増え、分担することもあったはずですが、コロナも落ち着いて出勤も増えると再び、『名もなき家事』も暗黙の了解で妻の仕事になりがちです。

すると、『名もなき家事』はコロナ禍の前のように、妻がいつの間にか分担していることになります。実際は夫が家にいるときにも発生していますが、それほど気に留めませんから、『名もなき家事』について、妻のストレスや負担をスルーしがちです。仮に『名もなき家事』とはどういうものか説明されても、日々の生活ですぐに忘れてしまったり、やったとしても雑にやってしまったりします。そして、結果的に妻の方が圧倒的に『名もなき家事』をしているのが実態なのです」

Q.夫婦関係を良好に維持する、もしくは向上させるための「家事分担」の形・方法とは。

木村さん「ある程度具体的に、夫の分担する項目を決めて、表にしておくことをお勧めします。口だけで言っても、夫はすぐに忘れたり、逆に妻の方がついやってしまったりして、あまり効果的ではないので、夫婦間の『名もなき家事』を『一つの共同作業』にするため紙に書き出しておき、実際に家事をしながら適宜調整しましょう。

例えば、夫に『ティッシュ箱の交換』をやってもらおうとしたものの、空き箱をつぶすのが下手で、結局は妻の仕事が増えることがあるかもしれません。そんなときは『トイレットペーパーの交換』に変更するなど、実際に『名もなき家事』の項目を2人で行いながら、柔軟に継続性のある分担にすることが大事です」

Q.「名もなき家事」の偏った負担や、それが相手に伝わらないストレスによって、日々、不満をためている人は多いようです。

木村さん「『名もなき家事』の偏った負担は諦めから来ている場合もあります。『どうせ言ってもやってくれない』『言ってもすぐに忘れる』など『頼んで嫌な思いをするなら、自分でやった方が楽』という気持ちです。そうならないためには『分かってほしい』ではなく、『これをやってほしい』と具体的に伝えることです。

『私がどれだけ大変か分かっていないでしょう』と訴えると『こっちだって大変なんだ、仕事関係のストレスは分からないくせに』などと返され、ますます関係が悪化します。そうではなく、『○○はやるけど、時間がないから□□はお願い。そしたら、部屋がいつもきれいに保てるから』『これは私にできるけど、あれは苦手だからやってほしい』と理由や効果を含めて、建設的な話をすると協力関係が築けます」

Q.家事に起因する夫婦間のすれ違いやトラブルを防ぐため、日常的に求められる夫側・妻側それぞれの意識や行動とは。

木村さん「まず、妻側は夫の承認欲求をうまく使うことです。男というものは何かにつけて認めてもらいたい生き物です。それは上司が相手でも、妻が相手でも同じです。『名もなき家事』でも『あなたにやってもらって本当に助かった』『ありがとう、私が苦手なことをしてくれるからありがたい』と感謝の言葉を伝えると、男性はどこかで『認めてもらっている』という意識が働き、『手伝うと喜んでくれる。またやろう』と考えるものです。

また、夫側は『妻は共感を得たい』と理解することです。妻に『私が大変だと分かってさえくれたらいい』と言われても、その真意にピンと来ずに『いや、君の気持ちはよく分かっている』とだけ答えると、結局は『分かっていない』と返されがちです。そこから一歩踏み込んで、『俺はこれをやるから』と動き、妻が行動を求めていると察することが必要です。相手の求めている心理を読んだ上で、言葉や態度や行動を起こせば、トラブルを大幅に防げるはずです」

オトナンサー編集部

「名もなき家事」とうまく付き合うには?